「ソフトスキル」が測られようとしている
週末、MOOCにハマっていた。それは『ルポ MOOC革命――無料オンライン授業の衝撃』を読み始めて、やっぱりMOOCはおもしろそうだなと思ったからだ。
MOOCとはMassive Open Online Courseの略で、つまりインターネットを使って無料で受けられる講座のことだ。
前に登録していた「コーセラ」というサービスの講座をもう一度やり直そうかと思ったけど、家のパソコンが遅いせいで動画が滑らかに再生できず、やっぱり断念。その代わり見始めたのが「カーンアカデミー」だ。 『MOOC革命』に主宰者のカーンさんのインタビューが載っていて、いい人そうで好感を持ったので、のぞいてみようと思ったのだった。
カーンアカデミーはコーセラのような大学の授業風ではなく、サイトに講義のビデオが順番に並んでいるだけなので、気軽に見始めることができる。動画もYouTubeを使っているからか、うちのパソコンでもスムーズに見られた。内容は理科系の科目が多く、基礎的なことから分かりやすく教えてくれる。教師は映像には登場せず、黒い画面をバックに黒板のように文字や絵を描きながら解説をする。手書きの文字を書いたり消したりしながら話す、手作り感ありありのビデオだけど、内容は短い時間にエッセンスが凝縮されている感じだ。
生物学の基礎の動画をいくつか見てみた。いっとき生命科学を勉強してみたいと思ったことがあったけど、これでだいたい自分が知りたかったことが学べそうな気がする。なかなかすごい。見ていると学びたい欲が刺激される 理数系の科目を物理、化学、生物、数学のように明確に区切るのではなく、総合的な科学として教えようとする姿勢にも共感した。実際はどれもつながっているのに、学校ではバラバラに教えられてしまっている。これもカーンさんが1人で取り仕切っているからこそできるコンセプトなのかもしれない。
個人的におもしろいと思ったのが「ユダシティ」の話。ユダシティは、MOOCを受講した人材を企業に紹介するビジネスモデルを模索しているのだけど、そのときに学業のスキル(ハードスキル)だけでなく、他のメンバーといかに協調的に課題を進めたかという「ソフトスキル」も測っているそうだ。これによって、本当にチームに貢献する人材を企業に紹介することができる。
以前、個人的にオンラインメディアで翻訳の活動をしていたことがあるのだけれど、そのときの参加者には翻訳活動にだけ専念しようとするプレイヤータイプの人と、メンバー同士のコミュニケーションや環境づくりにも貢献しようとする人の2タイプがいた。ソフトスキルとはこの後者のような人が持つスキルのことを言うのだろう。
その人たちの中には、細やかな気配りと論理的な思考や決断力でリーダーシップを発揮する人もいて、自分も「この人の判断だったら不満はない」「この人だったらついていこう」と思えた。おそらく実際の仕事の現場でも、その人たちは同じように力を発揮するだろう。ネットと現実は別という先入観があったけど、けっこう一致するんだなあと思ったのだった。
そんなソフトスキルが大々的に測られて評価されようとしていることに、なるほどなあと思った。自分の実感としては、これはありというか、効果的なんじゃないかと思う。実際に活動している人から見れば貢献度の高い人は明らかなので、それをシステム的にいかに測定するかがポイントだろう。
この本の中で、MOOCが普及すれば「最終学歴が無意味になるのでは」と著者が指摘していて、それもそうだなあと思う。最終学歴の価値が変わると、世の中に大きなインパクトがある気がする。とくに日本では学歴が依然として重視されているけど、それは実際に何を学んだかというよりは「信頼の証」として使われている。MOOCが「この人は信頼できるんだ」という新しい信頼の形を示せれば、学歴の扱われ方も変わっていくだろう。これもソフトスキルの測定の話と大きく関係していると思う。
MOOCが現実的な世界を変えていく可能性を改めて感じたのだった。
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