ベテランがちょっと手を抜いた感じでキャッチボールをしている
手がしもやけで、すべての指が痛い。何も物を触れないくらいだ。同行人は電車内でラジオ体操をしている。早朝のまだ暗い三宮の街は冷えている。昨晩は眠れなかった。同行人の携帯から、ブリンブリンという通知音が何度もして、その都度目が覚めてしまったからだ。
神戸空港からフライト。スカイマークは安っぽさもなく、かといってサービスも過剰ではなく、過不足がなくていい感じ。那覇空港に着いて、手ごろな「空港食堂」で食事。店の入り口で売られていた弁当を食べる。空港内の売店でも手作りっぽい弁当が並べられている。沖縄の玄関口だから、もっと観光観光しているのかと思ったけど、思ったより庶民的な雰囲気に思えた。
予約していたレンタカーのオフィスまで送迎のバンで移動。運転手は東南アジアから来たと思われる外国人だ。オフィスに着くと、そこで説明をしてくれたのも東アジア系の女性だった。旅行先として有名な沖縄だからもっと完成されているのかと思ったら、その場その場での対応というか、スキがある感じというか。これが沖縄のゆるさなのかもしれない。
「やんばるの方に行きたんですけど」
と、車を準備してくれた金髪の若い女性の日本人スタッフに言ったが通じなかったので、北部の方、と言い直す。地元ではそうは呼ばないのかもしれない。または、この人が地元の人ではなかったのかもしれない。
「おお」
と高速道路脇に広がる風景を見て声が出る。なだらかな起伏に沿って、白く四角いコンクリート造りの家々が広がっている。日本の他のどことも違う。ブラジルのようだ。大きな飛行音がするので見上げたら、大きな昆虫のようなヘリコプターが真上を横切っている。あれがオスプレイだろう。
宜野座インターで降りると、道路脇に黄色のノボリが並んでいた。その先に阪神タイガースがキャンプをしている球場がある。車を停めて球場に向かって歩く。今回の沖縄旅行の目的のひとつがプロ野球のキャンプを見ることだった。目的というか、旅のきっかけというほうが正確かもしれない。何か理由がないと、今じゃなくてもいいかと思い、結果的にいつまでたっても行かないことになる。
露店がたくさん出ていて、ちょっとしたお祭りのようだ。坂道をダッシュしている選手のまわりに人が集まっている。グラウンドでは紅白戦が始まるようで、選手がキャッチボールをしている。有名選手の姿も確認できる。プロ野球の練習と試合を、無料で間近で見放題というのはキャンプ以外にはない。ベテランがちょっと手を抜いた感じでキャッチボールをしている。
プロ野球のキャンプはこの時期の沖縄の一大アトラクションになっているようだ。空港にも各チームのユニフォームを着て写真を撮れるブースがあり、専用のパンフレットも用意されていた。各キャンプ地にも選手名簿を載せたリーフレットが置いてある。キャンプというと、シーズンに向けて選手がストイックにトレーニングするイメージがあったけど、それよりも「見せる場所」という印象が強くなった。選手もサインに応じるなどファンサービスが欠かせない。
続く
(2018年2月)