地味だった窒素が主役に躍り出た

畑で重要な役割を果たしているのは微生物だと、いくつかの本を読んだりしているうちに思うようになった。化学肥料を使ったら土地がやせるとか、肥料や農薬がなくても作物は育つという話は、微生物がどのように働いているかがポイントなのだ。

そんな関心から『土壌微生物の基礎知識』を読み始めた。その序文に、農業における微生物の歴史が、わかりやすくまとめられている。

かつて肥料が乏しかった時代は、作物への養分供給源として微生物が注目されていた。でも、肥料が充分使える時代になるとその関心は薄れていき、むしろ邪魔者扱いされるようになる。そして機械技術、化学技術の進歩によって、農業生産は飛躍的に延びたのである。

しかし、最近になって技術の発展速度が鈍り始めた。それは土壌病害など微生物がかかわる問題がネックになってきたからだ。さらに化学肥料や農薬を多量に使うことに対して、健康面での不安も増してきた。そこで改めて、土壌に住んでいる微生物のことを知ろうではないか、というのがこの本のテーマなのである。

なるほど、現在に至るまでそういう流れがあるのか、と思ったけれど、この本が出版されたのは1980年代の後半である。だいたい今から25年前の話。そのころから言われていたことが、今ようやく一般人である自分のところにまでやってきた、ということかもしれない。

とにかく、土の中には微生物がたくさんいる。微生物とは細菌、カビ、微小藻類、原生動物の総称で、単細胞生物であることが共通点だ。10アールの畑(だいたい30メートル四方)には、700キログラムの微生物がいて、その大部分はカビだそうだ。700キロと言われてもよくわからないが、10人くらいの人間が畑にゴロゴロと横たわっているイメージだろうか(違う気もする)。

微生物と植物とは切っても切れない関係があり、ときに共生して助け合ったかと思えば、植物が病原菌に冒されて枯れてしまったりする。それを防ぐために、生きている植物は微生物の侵入を防ぐ機能を働かせている。そんな敵とも味方ともいえない微妙なバランスのなかで、それぞれが共存している。

植物の死がいを微生物が食べ、微生物は増殖する。でも、そのうち食べるものがなくなれば微生物は死んでしまって、その死がいを動物や別の微生物が食べる。そうやって微生物が誰かに食べられる過程で、窒素やリン酸などが無機化されて出てくる。植物はそれを吸収して生長する。つまり、微生物の働きがなければ物質の循環が起こらず、植物は自然界で生きていけなくなる

そういえば、小学校のころに空気について教わった気がするけど、酸素と二酸化炭素のことしか習わず、窒素は空気中にたくさんあるけど、まあとくに意味のないもの、くらいの扱いだったような記憶がある。

でも、微生物がいて、植物が育ち、それを人間や動物が食べるという連鎖のなかで、窒素の動きはとても重要だ。これまでの自分の人生では窒素の扱いは地味だったけど、一気に主役に躍り出てきた感じがする。学校でももっとクローズアップされて教えられてもいいんじゃないか、と今になって思うのだった。

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