026 比較検討、面倒くさい(ロンドン)
再びロンドン。
空港に着くや否や、シャトルバスのカウンターの女性の愛想が悪い。もう少しだけ気持ちよく対応できないものか。日本だったら新聞に投書ものだ。それかネットに書かれるわ。いや、おれが日記に書いてやる。などと、ぶつぶつ言いながら市内に向かう。
ロンドンでの仕事のひとつは、小包のピックアップ。
ありがたいことに、日本にいる友人たちがクリスマスプレゼントにと小包を送ってくれている。ロンドンの郵便局宛に送ってもらっていて、タイミング的にもそろそろ到着しているはずである。
日本からの郵便物を外国で受け取るのは初めて。郵便局留めの小包を引き取るというのも、初めてだ。
これまでのロンドンの印象から、窓口をたらい回しにされたりしないだろうかとか、手数料を取られたりするんじゃないかとか、いろいろ心配したけど、すんなりと引き取ることができた。ロンドンだからということで、ちょっと疑心暗鬼になっていた。
郵便局の人から荷物を手渡されたとき、子供のころプレゼントをもらったときの気持ちを思い出した。旅先でもらうメールもうれしいけど、実際に重さがあるモノはまた別の実感がある。
中身は音楽CD、食料、本、秘密のDVDなど。秘密のDVDをさっそくパソコンで再生しようと思ったら、コーデックがないとか何とかいうエラーが出て、残念ながらまだ秘密のままである。
ロンドンでのもうひとつのイベントは、日本から来ている友人と会うこと。予定通りに合流できて、夕食を食べに行く。
レバノン料理のレストラン。一人旅ではちゃんとしたレストランに行く機会はめったにない。高いし、1人では入りにくいし。ともすれば、ファーストフードしかその国の食事を知らないことになりかねないので、こういう機会は貴重だ。
レバノン料理はおいしくて、栄養もありそうで、満足いく食事だった。 ボリュームもしっかりあって、食べきるのに必死になる。空腹に耐え切れず、食前についついクッキーを食べてしまったことを後悔した。子供じゃないんだから我慢するべきだった。
この旅で初めてチップが必要なレストランで食事をした。 カード払いのときは、チップの金額を自分で機械に入力するのだ、ということもさりげなく勉強になった。
* * *
日本からの友人に加え、さらにその友人のイギリス人と会う。3人と飼い犬1匹で、テムズ川のほとりを散歩。今日も曇り空。 風が強くて寒い。何か飲むと、すぐにトイレに行きたくなる。おしっこばかりして、犬かおれは、と思う。
夜は、そのイギリス人の友人の誕生パーティーがあり、参加させてもらう。
トルコ料理のレストランで総勢10人以上の食事会。ほとんどの人が初対面で日本人相手だとしても難しい状況なうえに、英語である。何か会話しなきゃと思うのだが、なかなか会話に入り込めない。英語が聞き取れないこともあるけど、言いたいことを思いついたとしても、英語でなんて言うか考えているうちに、まわりの話はどんどん先に展開している。プロのスピードに慣れないアマチュア選手のようだった。
文法なんかはどうでもいいからとにかくしゃべろう、と思うのだけど、お互いの興味や共通点を知るための、手探りの会話が難しい。
* * *
昨日のイギリス人が、「今日はうちでパーティーがあるので暇だったら電話しろ」と言っていた。またあまり馴染めなかったらつらいかもなあ、と思いつつ、うまくいって泊めてくれたりしたら宿代が浮くなあ、とも考えて、電話してみる。
夕方、電話での指示通りに、ブリクストンにある彼の家に向かう。
パーティーの初めはやはり戸惑ったけど、今日は長丁場だったからか、だんだん居心地が良くなってきた。ある程度の時間を共有すると、自動的に解決されることもある。最初はぎこちなかったけれど、いったん打ち解けると、変に気を使わずに接することができた。
サイコロを使ったゲームをしていたのだけど、みな酒が回ってきて、てんでばらばらに好き勝手なことを言い始める。
英語と日本語の違いかどうかわからないけど、話が終わらないうちに次の人がどんどん話し始める。こりゃ収集つかんな、と思ったけど、なんとか場は機能している。日本だと「空気が読めないヤツだ」と、うっとうしがられそうだけど、そんな邪険な態度をとる人もいなくて、なんだか感心した。
ジェスチャーで映画名を当てるゲームが面白かった。結局、家に泊めてもらった。
* * *
次の目的地をポルトガルに決めて、航空券を予約する。もう1日か2日早く取れば安かったのに、いつも決断が遅く損をしている。
ネット屋でDVDのコーデックのダウンロードに成功。これで秘密のDVDが見られる。内容は秘密なので言わない。
日本から友人に持ってきてもらった靴修理剤でスニーカーを修理する。裂けていたゴムと革の境目や靴底を補強。これまでは雨の日にすぐ浸水して不快だったけど、なんとか改善された。 まだしばらく使えそうだ。
* * *
イギリスも今日で最後なので、名物のフィッシュ&チップスを食べる。まずくはないが、うまくもない。量は多いのだけど、今ひとつ満足できない感じ。味がワンパターンで量が多いから結果的に飽きる、というのが、イギリス料理はまずいと言われる理由なのかもしれない。
ここにきてクレジットカードの手数料を思いのほか取られていることに気づいた。初期設定がリボ払いの設定になっていたのだ。日本のサービスセンターに電話して、設定の変更を試みる。
しかし、いろんな番号を入力させられたり、音声ガイダンスが延々と続いたりして、人と話せるまで何分もかかる。こっちは国際電話なんだよー、といらいらするが、途中で切ったらまた初めからやり直しだし、 待つしかない。
なんとか担当の人と話すことができて、カードの設定を変更した。いつの間にかお金を取られる仕組みになっているのが嫌な感じだ。
こういうことは前もってきちんと調べ、比較検討して、賢い客にならなければならない、ということはわかるんだけど、正直いって面倒くさい。物事が便利になったのか、複雑になったのかわからないけど、比較検討にばかり、時間と労力を費やされている気がする。そういう損得の計算に時間をとられたくない。人生短いのだ。もっと時間をかけたいこともある。
なんか、 いろいろと腹が立ってきた。
そういえば、ロンドンの文房具屋でノートを購入したとき、店員の女性の対応が驚くほどよくなかった。お前なんかクビじゃー、と叫びたくなるくらい。店頭のポスターやPOPなどでは、ウェルカムな雰囲気でさんざん客を誘っておいて、いざ買おうと思ったら対応悪いんかい、と頭にくる。日本は「お客様は神様」とかいって、サービス過剰だと思うけど、ここまでサービスが悪いのもどうかと思う。
でも、例えばロシアでもサービスは悪く、悪いというか、サービスの概念そのものがないくらいだったけれど、それはロシアならどの店でも同じで、客に媚びるようなことは無いから、むしろ気持ちがいいほどだった。
一方、イギリスでは、例えばチップがもらえるようなレストランでは盛んにサービスをするけど、お金がもらえないとなると極力なにもしない。
ああ、これが資本主義か、と思う。
* * *
夜、バスで空港に向かう。
翌日のポルトガル行きのフライトが早朝なので、空港で夜を明かすことにしていた。しかし、同じことを考える人がたくさんいて、すでに待合の座席はすべて占拠されていた。仕方がないので、床に座り込んで時が過ぎるのを待つ。
これも安いフライトを選んで、宿代をケチったためにしなければならないこと。やっぱりここではお金がないとみじめだ。
朝4時になって、カウンターがオープンし始めた。さっそくチェックインする。
列に並んでいて、ふと気がつくと、さっき後ろにいたはずの人が前にいる。なんだかしょっちゅう順番抜かしされる。かわいらしい女の子とか、品の良さそうな老夫婦とかが、何の悪気もないような顔をして、順番を抜かしていくのはどういうことか。仮にこちらが微妙な位置にいたとしても、「並んでる?」の一言があっていいようなものなのに。他人からは見えない人間なのか、と自分の存在を疑ってしまう。
さて、ようやく自分の番がきて、リュックを預けようとすると、係の人が「重量オーバー」と言う。
まさか。
背負って移動できるくらいの重さの荷物で、重量オーバー?
しかし、 実際に3キロオーバーしているのだそうだ。3キロくらい何とかならないかなあと思って、「どうすればいい?」と訊くと、「追加料金を払え」とピシャリ。
「いくら?」
「16ポンド(3200円)」
航空運賃が30ポンドくらいなのに、荷物代だけで16ポンドは高いだろう。しかもたった3キロで。
要らないものをここで捨てて減量したほうが、超過料金を払うより安上がりなのではないかと思ったが、とっさにそんなことはできず、しぶしぶ超過料金を払う。
確かに、格安のエアラインは荷物の重量制限が厳しいと聞いていた。それは燃料の消費を最低限にするためだという。なるほど徹底したコスト管理だ、といったんと納得しかけたが、 いや、だったら、体重に応じてお金を取るべきではないだろうか。なんで体の大きな欧米人じゃなくて、自分が追加料金取られないといけないのだ。
無駄なお金を払うことくらい、悔しいことはない。実際に失った金額の多少よりも、自分が支持するもの、良しと思うものに使えるはずだったお金が跡形も無く消えてしまったのが悔しい。
つまり、エアラインを選ぶときは、荷物の重さも考慮に入れないと損をするということだ。ああ面倒くさい、と思う。仮にお金は節約できても、その計算に時間と労力を費やしたのでは、何のこっちゃわからん。
しかも、もう当然のようにカウンターの女性の愛想が悪い。格安エアラインだから仕方がない、と言われても、態度が悪いことの理由にはならないだろう。わざと態度を悪くして安い客仕様にするとか、考えられないし。
さらに飛行機に乗り込んでから気がついたのだが、他の乗客はけっこう大きな荷物を機内に持ち込んでいる。預け荷物にしなければ追加料金とられなかったってこと?
日本に帰りたくなった。
飛行機はポルトガルへ。
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