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プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角〜“リングレッツ”旋風を巻き起こした学園映画

『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(Pretty in Pink/1986年)

青春映画というのは、描かれる登場人物たちが観客と同じ世代だった場合、観る者は特に思い入れが強くなることがある。その映画が傑作であったり、新作として映画館に足を運んだなら尚更だ。

そして、1980年代半ばに青春期を過ごした人なら、忘れられないジャンルがあることを思い出すだろう──それは“ジョン・ヒューズの学園映画”だ。

雑誌編集に携わりながら、コメディ映画の脚本家でもあったジョン・ヒューズが、初監督/脚本を担当した『すてきな片想い』(Sixteen Candles)が公開されたのが1984年。

翌年は『ブレックファスト・クラブ』(The Breakfast Club)、『ときめきサイエンス』(Weird Science)、翌々年は『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(Pretty in Pink)、『フェリスはある朝突然に』(Ferris Bueller's Day Off)、そして1987年には『恋しくて』(Some Kind of Wonderful)を発表。いずれも全米のティーンエイジャーたちに支持されてヒットした。

そこにはファッションや音楽があり、恋愛やお喋り、友情もパーティも詰まっていた。高校という場には、チアリーダーやアメフトなどの目立っているグループだけでなく、一匹狼的な不良、真面目な優等生、ナードとかギークと呼ばれるオタクだっている。

ジョン・ヒューズの映画は、そんな花形以外のタイプを主人公に設定したことが新しく、大きな共感を呼ぶことになった。それは日本の高校や教室にもシンクロして、ちょっとオシャレな高校生なら見逃す奴なんていなかった。

上記6本の映画のうち、3本に主演したモリー・リングウォルドの人気は高く、現実離れしたハリウッド女優とは違った、「こんなコどこにでもいるよね」的な普通のルックスもあってアイドル化。

アメリカの有名雑誌のカバーはもちろん、日本の映画雑誌の人気投票でも上位にランクインしたりした。彼女の登場によって、それまでの美人すぎるブルック・シールズ、グラマーすぎるフィービー・ケイツ、可愛すぎるソフィー・マルソーらの時代は確実に終わりを告げた。

『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(Pretty in Pink/1986年)は、そんなモリー・リングウォルドの魅力がフルに活かされた、“ジョン・ヒューズの学園映画”の傑作でもある。

作品タイトルは「ピンクが似合うコ」の意味で、モリーの大好きな色だったからと名付けられたという。まさに彼女のための映画でもあった。

また、プロムに着ていくドレスが高価で買えなくて、父親と友人から貰った二着のピンクのドレスを、自分で一着のドレスにカスタマイズするシーンが秀逸だった。映画における彼女のファッションを真似る女の子たちが続出して、“リングレッツ”と呼ばれた。

日本公開時の映画チラシ

シカゴの金持ちの子弟が多い学校に通っている、貧しい家庭環境のアンディ(モリー・リングウォルド)は、勉強もオシャレも抜群な女の子。

チープだけど、古着や小物など自分で工夫してセンスを磨いている。目立っているグループの女子から嫌がらせを受けつつも、放課後はレコード屋でアルバイトする日々。

そんな彼女に、リッチな少年ブレーン(アンドリュー・マッカーシー)は密かに想いを寄せていて、デートがきっかけで二人は一緒にプロム(卒業ダンスパーティ)に行くことを約束。でも実は幼馴染みのダッキー(ジョン・クレイヤー)も、アンディに恋していて……。

音楽的には、ダッキーがレコード屋でオーティス・レディングの「Try a Little Tenderness」を口パクするシーンが印象的。

サイケデリック・ファーズのタイトル曲(モリーがファンだった)や、オーケストラル・マヌヴァーズ・イン・ザ・ダークの「If You Leave」が、本作のムードを作っていた。後者は全米4位の大ヒットになった。

なお、ジョン・ヒューズは、1987年を最後に青春/学園映画を撮らなくなってしまい、『ホーム・アローン』などのファミリー/コメディ映画へと活動を移していった。

2009年8月6日に59歳で亡くなったが、“ジョン・ヒューズの学園映画”の影響を受けた青春映画やTVドラマは、数知れない。

John Hughes 1950-2009

文/中野充浩

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