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ランナウェイズ〜平均年齢16歳で男社会に殴り込みをかけた伝説のガールズバンド

『ランナウェイズ』(The Runaways/2010年)

私たちは地獄のような苦しみを味わって、音楽業界で女の子たちが楽にやっていけるようにしようとした。兵士みたいに血まみれになって戦って、ボコボコにされたけど、今こうしてここにいる。(シェリー・カーリー)

『ランナウェイズ』パンフレットより

1975年、ロサンゼルス。16歳のジョーン・ジェットは、スージー・クアトロとギターに恋していて、ロックスターになることを夢見ている。

だが、ロックはまだまだ男たちのイメージが強く、少女だというだけでギター教室はエレキギターの弾き方さえ教えてくれない。

そんなある夜、行きつけのクラブで敏腕プロデューサーのキム・フォーリーと知り合う。キムはジョーンを見て、「女の子だけのバンド」が商売になることを思いついた。

一方、15歳のシェリー・カーリーは、双子の姉と「普通で可愛い女の子」の日々を送っている。だが、歌うこととデヴィッド・ボウイの物真似が大好きなシェリーはLA郊外の学校では浮いた存在。

母親が男を作り、父親は酒浸りで家にも帰ってこないことにも、思春期の少女の心は揺れていた。そんなある夜、行きつけのクラブでキムにスカウトされて、ジョーンを紹介される。こうしてランナウェイズは始動した。

1970年代半ば〜後半にかけて、日本でも熱狂的な人気を博したガールズバンド、ランナウェイズ。

メンバー全員が10代の女の子で、デビュー当時、平均年齢16歳ということでも話題になり、来日公演や番組出演や雑誌の取材をはじめ、追っかけのファンたちに追い回され続けるという、本国アメリカとは比べものにならないほどスーパースターだった5人組。

シェリー・カーリー/Vo
ジョーン・ジェット/G&Vo
リタ・フォード/G
ジャッキー・フォックス/B
サンディ・ウェスト/Ds

映画『ランナウェイズ』(The Runaways/2010年)は、そんな彼女たちの出逢い、ロックスターの夢の実現、歪んだ音楽ビジネスとの葛藤、そして自分の人生を見つけようとするまでを描いたリアルなストーリーだ。

シェリー・カーリーの自伝『ネオン・エンジェル』を原作に、ジョーン・ジェットが監修。シェリーをダコタ・ファニング、ジョーンをクリステン・スチュワートが演じた。

二人の若手女優は役作りのために本人たちに付き添い、クリステンは歌やギター演奏や言い回しなど、ジョーン本人が間違えるほど見事になりきった。

日本公開時の映画チラシ

メンバーが揃ったランナウェイズは、トレーラーの中で練習しながら、アメリカを巡るツアーに出る。

道中、嫌がらせや馬鹿にされながらも評判を上げていき、遂にマーキュリー・レコードとの契約に成功。シェリー加入後、オーディション時に彼女が歌う曲がなかったという理由で、その場でジョーンとキムが作った「Cherry Bomb」で1976年にデビュー。

1977年。日本での人気はまさに狂乱で、ロックスター扱いに酔いしれる彼女たちだったが、すでにメンバーやプロデューサーの関係が悪化。

ランジェリー姿でステージに登場したり、グラビア撮影に応じるシェリーに、ジョーンは色物扱いされることを懸念する。シェリーは家族の問題もあり、酒と薬に溺れるしかなかった。

アメリカに戻ったシェリーは疲労困憊で、レコーディングにも身が入らない。双子の姉に迷惑をかけてばかりで、まともな生活に戻りたいと強く自己嫌悪する。

「家族と一緒にいたい。自分を取り戻したい」というシェリーに対し、「音楽がすべて。バンドが家族そのものよ」と言うジョーン。二人の溝は埋まることなく、シェリーはバンドを脱退するが……。

ランナウェイズは、4枚のオリジナルアルバムと日本でのライヴを収録した『Live in Japan』を残して1979年に解散。シェリー・カーリーはその後、ソロアルバムや双子の姉妹でレコードを出したりするが、現在は女優や彫刻家として活動。

ジョーン・ジェットは解散の失意から立ち直り、自身のバンドであるブラックハーツを結成。1982年にリリースした「I Love Rock 'n' Roll」は全米ナンバーワンになり本当の成功を手にした。

現在では女性ロッカーの草分けとしてリスペクトの嵐だ。今日のガールズバンドの活躍は、ランナウェイズなくして語れない。

女の子にだってタマはある。ただちょっと上についてる。それだけよ。(ジョーン・ジェット)

『ランナウェイズ』パンフレットより

なお、映画のサントラには、スージー・クアトロ、デヴィッド・ボウイ、ストゥージズ、セックス・ピストルズのほか、クリステンやダコタが歌うランナウェイズ・ナンバーが収録されている。

文/中野充浩

参考/『ランナウェイズ』パンフレット

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