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愛と呼ばれるもの〜23歳で逝ったリバー・フェニックスの遺作

『愛と呼ばれるもの』(The Thing Called Love/1993年)

若くして亡くなった映画スターたちと言えば、真っ先に思い浮かぶのがジェームズ・ディーン(享年24)。彼がもっと生きていれば、一体どんな作品を届けてくれていたのだろうか?

ヒース・レジャー(享年28)やブルース・リー(享年32)、ジョン・ベルーシ(享年33)などにも同じことを想う。1980年に50歳で逝ったスティーブ・マックイーンなんて、きっと今頃は世界最高の名優として君臨していたはずだ。

そんな中、1993年10月31日に、わずか23歳という若さでドラッグが原因で命を落としたリバー・フェニックスのことが忘れられない。

リバーがもし生きていれば50代半ば。キャリア最高の作品に出演して、我々を楽しませたり感動させてくれていると思うと、本当に残念でたまらない。

リバーの遺作として知られる『愛と呼ばれるもの』(The Thing Called Love/1993年)は、カントリー音楽の聖地ナッシュヴィルを舞台にした物語だった。

監督は『ラスト・ショー』や『ペーパー・ムーン』といった作品で、スモールタウンの詩的な風景を、映画史に永遠に刻んだピーター・ボグダノヴィッチ。悪いわけがない。

だが、この映画は興行収入的には失敗して赤字となり、日本では劇場公開さえされなかった。最近になってようやくDVDが奇跡的に再発されたので、改めてこの封印された佳作を紹介したい。

アメリカの公開時ポスター(日本では劇場公開されなかった)

「音楽の都」と呼ばれる、テネシー州ナッシュヴィル。黒人のブルースやゴスペルやジャズと並ぶ偉大なるルーツ音楽である、貧しいアイルランド移民たちによるマウンテン・ミュージックやヒルビリーを原点とするカントリー音楽の聖地。

現在、大スターとなったテイラー・スウィフトも、10代の頃はナッシュヴィルに自作の曲を売り込むことからすべてが始まった。今日もどこかでひっそりと名曲が育まれている、そんな街だ。

1920年代後半、カーター・ファミリーやジミー・ロジャースの歴史的録音によって世に広まったこの種の音楽は、その後1930〜40年代には、ジーン・オートリー、ロイ・エイカフ、ボブ・ウィルス、ビル・モンロー、アーネスト・タブ、エディ・アーノルドといったスターの出現で、アメリカの大衆音楽として絶対的な影響を持つに至る。

アーティストと聴衆のパイプ役となったのは、1925年にナッシュヴィルで始まった『グランド・オール・オプリー』という名の伝説的なラジオ番組だった。

1950年代にはハンク・ウィリアムスという大スターが誕生するが、1953年に29歳でこの世から去ってしまう。そしてエルヴィスの登場。ジョニー・キャッシュのデビューもこの頃だ。

一方で1950〜60年代のナッシュヴィルのレコード業界を独占したのは、チェット・アトキンスやオーエン・ブラッドレーといったプロデューサーが創り出し、パッツィ・クラインの歌唱で有名な、ポップで都会的かつ商業的なカントリー。

これに対抗したバック・オウエンズ、マール・ハガードらのホンキートンク・カントリー、ウェイロン・ジェニングスやウィリー・ネルソンらのアウトロー・カントリー、あるいはジョージ・ジョーンズやタミー・ウィネットらの歌手も1960〜70年代に飛躍した。

ボブ・ディランもグラム・パーソンズもリンダ・ロンシュタットもローリング・ストーンズもカントリーなくして語れないし、1980年代にはアーバン・カントリーのムーヴメントが起こって、ドリー・パートンやケニー・ロジャースは日本でも有名になった。

そして1980年代半ばにはネオ・トラディショナルの時代となり、ジョージ・ストレイトやドワイト・ヨーカム、そして1989年のガース・ブルックスのデビューと90年代のビッグセールス、21世紀以降の新たなスターたちの出現……。

カントリー音楽は、常にアメリカの社会を反映してきた。葛藤や悲恋を題材にした、スティール・ギターの泣きやハイロンサムなハーモニーが聴こえてくれば、それがすぐにカントリーだと分かる。舞台はいつだってテネシー、ケンタッキー、テキサス、アラバマ、ルイジアナ、オクラホマといった土地だ。

亡き父の遺志でカントリー・ミュージシャンとしての成功を夢見て、ニューヨークからテネシー州ナッシュヴィルへやって来た女の子ミランダ(サマンサ・マシス)。

ブルーバード・カフェでのオーディションで同じ志を持つジェームズ(リバー・フェニックス)と出逢う。恋に落ちながらも、ウェイトレスで生計を立てながら、作詞作曲に励むメリンダのナッシュヴィルでの日々が始まる。

音楽の都よ!
絶対にお前から逃げないぞ!!

映画『愛と呼ばれるもの』より

二人がある夜、ビルの屋上から叫ぶ台詞だ。物語は、二人が結婚してジェームズが成功のチャンスを掴むが、やがてすれ違いの状態が起こり、愛とは何なのかをお互いに想うといった内容。リバーとサマンサは、プライベートでも交際していたというから興味深い。

なお、映画にはブレイク前のサンドラ・ブロックやカントリーの大スター、トリーシャ・イヤーウッドやK.T.オズリンも出演している。リバーが自作曲を含めた数曲で、歌声を披露しているのも見どころだ。

文/中野充浩

参考/『カントリー・ミュージックの巨人』(東亜音楽社)

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