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ワンダラーズ〜移り行く時代と精神を描写した超一級の青春映画

『ワンダラーズ』(THE WANDERERS/1979年)

アメリカは、数多くの人種/民族で人口形成されているのは今更言うまでもないが、その歴史のイントロダクションには、インディオなどの先住民族と“フロンティア”の名のもとに争った、WASPと呼ばれるプロテスタント系移民たちの他に、労働力として強制的に連れて来られたアフリカ系の黒人たち、あるいは19世紀以降に祖国から“約束の地”を求めて渡って来た、カトリック系の新移民たちの存在が必ず綴られる。

その後のアメリカ大衆文化を担ったのは黒人や新移民であり、特にロックの誕生には彼らの交流なくして語れない。WASPたちから奴隷扱いをされた黒人のブルース感覚や、同様の扱いを受けていたアイルランド移民のハイロンサム感覚</a>の融合は、最も重要な音楽的出来事と言ってもいい。

時が流れて、1960年代前半。ニューヨークの下町ブロンクス地区。映画『ワンダラーズ』(THE WANDERERS/1979)は、そんな苦難の歴史を持つ新移民や黒人の血が流れたティーンエイジャーたちの青春物語だった。

原作はリチャード・プライスの小説で、主役のイタリア系のワンダラーズ、黒人のデル・ボマーズ、中国系のウォンズ、スキンヘッズのボルディーズなど、人種ごとにチームを組んだ揃いのファッション描写が話題になったり、アイルランド系のダッキー・ボーイズの凶暴さが問題になったりもした。

日本公開時の映画チラシ

高校の教室。人種に関する発言がきっかけで、ワンダラーズはデル・ボマーズと果たし合いをする羽目に。

リーダーのリッチー(ケン・ウォール)が、彼女の父親(イタリア系マフィアのボス)に相談すると、喧嘩ではなくアメリカンフットボールで決着をつけるように言われる。拍子抜けした仲間たちだったが、当日の試合会場には不吉なムードが漂っていた……。

物語は、ワンダラーズの若者たちを中心に、喧嘩や友情、恋やパーティ、夢や希望が展開されていく。

ところが、観ているうちに、この作品がその辺にある普通の青春映画でないことが分かってくる。当時のヒットソングもこの上ないタイミングで絡んでくるが、時代設定が1963年というのがポイントだ。

ボルディーズが警官に騙されてベトナム戦争の徴兵に取られるシーンでは、シュレルズの「Soldier Boy」、ケネディ暗殺の悲報がTV二ュースで告げられる時には、ベン・E・キングの「Stand By Me」が流れる。

そしてワンダラーズの仲間たちが集まる時には、同じイタリア系のフォー・シーズンズの「Walk Like a Man」やディオン&ザ・ベルモンツの「The Wanderer」(作品のタイトルもここから)が聴ける。

特筆すべきは、何といってもクライマックスのシーンだろう。独身さよならパーティが開かれる中、主役のリッチーは、人知れず惚れていた大学生のニーナ(カレン・アレン)の姿を街角で偶然見かけて後を追う。

そこはコーヒーハウスで、ステージではボブ・ディランが「時代は変わる」を歌っている。静かに見つめるだけのリッチー。

これからは家庭を持たなければならなくなった自身の人生転換、そして自分とは住む世界が違う知識層のフォーク運動。アメリカには1960年代後半という、激動の時代が待っていることも知らずに。

そしてニューヨークを捨て、西海岸サンフランシスコへ向かう仲間たちもいた。リッチーは言葉を投げ掛けられる。

「離れ離れでも、ワンダラーズは永遠だ。口笛を吹けばいつでも駆けつける」──さまよう奴ら(ワンダラーズ)の物語は今、始まったばかりだ。

文/中野充浩

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