見出し画像

モ’・ベター・ブルース〜コルトレーンの「至上の愛」にヒントを得たスパイク・リー監督作

『モ’・ベター・ブルース』(Mo’ Better Blues/1990年)

2017年に大ヒットした映画『ラ・ラ・ランド』には、印象的なシーンがあった。主人公の男性ジャズ・ピアニストが恋人に、「ジャズは滅びかけている音楽」と悲しい表情を浮かべながら言うところ。

実際に2017年度の上半期、アメリカでの音楽ジャンル別売り上げシェアを見てみると、R&B/ヒップホップ25.1%、ロック23%、ポップ13/4%、カントリー8%、ラテン5.7%、エレクトロ/ダンス4%、クリスチャン/ゴスペル2.5%、キッズ1.4%、そしてジャズはクラシックと並んで1%となっていた。

20世紀初頭にニューオーリンズで誕生したジャズは、1910年代にはリバーボートによってアメリカ各地に広がっていく。シカゴ、カンサスシティ、ニューヨークなどだ。

ルイ・アームストロングをはじめ、ハーレムのコットン・クラブに出演したデューク・エリントンらが大きな反響を巻き起こした。

大恐慌の1930年代になると、いわゆるスピーク・イージーと呼ばれるモグリ酒場が流行し、ここでもジャズは盛んに演奏された。

不景気を吹き飛ばすかのような陽気なスウィング・ジャズもブームとなり、ベニー・グッドマンやグレン・ミラーなど、無数のビッグバンドが国民的人気を獲得。同時に専属のバンドシンガーも脚光を浴びることになり、フランク・シナトラはアイドル化する。

1940年代に入ると、第二次世界大戦の影響もあってスウィング・ジャズは終息。楽団の若き演奏者たちは、仕事を終えた後にクラブでアフターアワーズ・セッションを繰り広げた。

チャーリー・クリスチャン、セロニアス・モンク、チャーリー・パーカーといった気鋭たちによるビバップの革命。これを機会にジャズはモダンの時代へ突入する。

マイルス・デイヴィスが開拓したクール・ジャズやモード・ジャズ、チェット・ベイカーやアート・ペッパーらのウエスト・コースト・ジャズ、ビバップから進化したハード・バップ、オーネット・コールマンやジョン・コルトレーンが先導したフリー・ジャズなど、1950年代のモダン・ジャズは真の黄金期と言われている。

その後、1960年代になると、ファンキー・ジャズ、ジャズ・ロックも生まれ、モード・ジャズから進化した新主流派も加わった。

1970年代は再びマイルスを筆頭にフュージョン旋風が巻き起こる一方、伝統的な4ビート・ジャズも見直され、1980年代にはウイントンとブランフォードのマルサリス兄弟が登場して、伝統的なジャズが復権。他にヒップホップやクラブシーンと連動する新世代の動きも出てきた……。

『モ’・ベター・ブルース』(Mo’ Better Blues/1990年)は、まさにそんな時代に作られた。監督・脚本は、『ドゥ・ザ・ライト・シング』などで熱い注目が集まっていたスパイク・リー。

日本公開時の映画チラシ

ポイントは、単に昔を懐かしむのではなく、当時のNYジャズを舞台にしている点。暗くはなく、明るさの中で捉えようとした点。そしてジャズマンを描くストーリーにはつきものの、麻薬や差別を題材にはせず、ひたすら愛を描こうとした点。

前作『ドゥ・ザ・ライト・シング』が、外へ向かっていくエネルギーが爆発したのに対して、この作品は人間の内側へと深く切り込んでいく。

音楽を担当したブランフォード・マルサリスはこんなコメントを残している。

スパイクがジャズ映画を作りたいと言い出したことから始まった。彼はジョン・コルトレーンが好きで、『至上の愛』(A Love Supreme)という作品からヒントを得て、ラブストーリーとジャズを組み合わせた映画を撮ろうと考えたんだ。

『モ’・ベター・ブルース』パンフレットより

ジョン・コルトレーンの『至上の愛』は、モダンジャズの到達点とも言われる歴史的名盤。

当初、スパイクは、映画のタイトルに『A Love Supreme』を使おうとしたが、信心深い未亡人アリス・コルトレーンの許可がおりなかった。なお、「モ・ベター」とは、スパイクの友達の口癖。始末に負えないこと、いやらしいことを意味する。

『モ’・ベター・ブルース』は、才能に恵まれたがゆえに、自己中心的な言動で二股の恋人とバンドの仲間たちを惑わせ、やがて音楽的生命を失ったことにより自己を改め、“至上の愛”を見つけていくという、天才トランペッターを主人公にしたストーリー。

トランペットの特訓を半年間も積んだという、デンゼル・ワシントンの演技が心に残る。

サウンドトラックは、コルトレーンの「至上の愛」のほか、マイルス・デイヴィスの「オール・ブルース」、キャノンボール・アダレイの「マーシー、マーシー、マーシー」、チャールズ・ミンガスの「グッバイ・ポーク・パイ・ハット」などが使われている。

特にタイトル曲「モ’・ベター・ブルース」の演奏シーンが心に染みる。エンディングロールで流れるギャング・スターの「ジャズ・シング」は、幕開けたばかりの90年代ジャズを予言していた。

文/中野充浩

参考/『モ’・ベター・ブルース』パンフレット

●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから


この記事を楽しんでいただけましたか?

もしよろしければ、下記よりご支援(投げ銭)お願いします!
あなたのサポートが新しい執筆につながります。

いいなと思ったら応援しよう!