セルピコ〜警察の腐敗を内部告発することになった男の苦悩と孤独と執念
『セルピコ』(Serpico/1973年)
幼い頃から夢見た世界に飛び込んだら、そこは不正が蔓延る信じられない場所だった……。
世の中こんなことはよくある話だし、それが「大人になる」「社会のトレーニングを積む」ということになるのだろう。「いつまでも綺麗ごとは言ってられない」「背に腹は変えられない」。あなたにもこんな経験の一つや二つはあるはず。
だが、そこが警察だったら?
『セルピコ』(Serpico/1973年)のオープニングは、1971年2月。銃弾を喰らって瀕死の状態で運ばれるセルピコを捉える。
NY市警の誰かが言う。「あいつは恨まれてたからな」「撃ったのは同僚かもしれない」。なぜこんなことになったのか。映画は11年前に遡っていく。
フランク・セルピコというイタリア系の青年は、幼い頃から警察に憧れ、遂にその日を迎えた。そして未来と希望に満ちた新人たちに向かって、お偉方は見下ろしながらこう言うのだ。
セルピコはその言葉を胸に刻み込む。人生の門出。両親も息子の姿に誇らしげだ。しかし、そんな日も長く続かない。
所轄内では不正は当たり前。同僚たちの多くは任務と称して、違法賭博を見逃す代わりに、賄賂を受け取ることに躍起になっている。いや、受け取るというより巻き上げるといった方がいい。やっていることは、マフィアやギャングのそれと同じだ。
おまけに、勇気を出して報告したお偉方からはこう言われる。
嫌気がさしたセルピコは署を異動するが、どこへ行っても事態は変わらない。むしろ酷くなっていく一方だ。特に麻薬密売の賄賂は大金で、警察の安月給を遥かに超える。
同僚たちは、頑なに金を受け取らないセルピコを変人扱いするが、そのうち危険人物として共有し始める。「あいつは裏切り者になるかもしれないぜ」
不正や腐敗を黙認できない。かといって、そうも簡単に告発もできない。相反する世界で苦悩し続ける彼のもとから、愛する女が一人、また一人去っていく。
そんなセルピコにも、信頼できる相棒や上司がいた。市長に訴えよう。いや新聞社だ。果たしてセルピコの決断は?
1970年4月、NYタイムズの一面に、「NY市警の汚職」の大見出しが掲載される。それは本当の闘いの始まりだった……。
フランク・セルピコの実話に基づいたこの映画を監督したのは、社会派のシドニー・ルメット監督。『十二人の怒れる男』『ネットワーク』『評決』などで知られた巨匠。
主役セルピコを演じたのは、『ゴッドファーザー』『スケアクロウ』に続くこれが映画4作目のアル・パチーノ。2年後の『狼たちの午後』で二人は再びタッグを組んだ。
2019年11月に公開された『ジョーカー』が世界中で大ヒットしたが、監督のトッド・フィリップスは、1970年代の人間描写に富んだアウトロー映画を参考にした。『タクシー・ドライバー』や『カッコーの巣の上で』と並び、本作『セルピコ』や『狼たちの午後』からも大きな影響を受けたという。
ちなみに1999年に公開された『インサイダー』は、タバコ産業の不正を告発したタバコ会社の重役とTVマンを描いた実話の社会派ドラマだった。主演したのは、もちろんアル・パチーノだ。
文/中野充浩
参考/『セルピコ』パンフレット
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