ビリー・ザ・キッド/21才の生涯〜「天国への扉」を生んだボブ・ディラン出演の西部劇
『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』』(Pat Garrett and Billy the Kid/1973年)
名匠サム・ペキンパー監督作品『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』(Pat Garrett and Billy the Kid/1973年)は、邦題だとまるでビリーが主役のような映画に思えるが、実際は原題にあるように、これはパット・ギャレットとビリーの二人の物語である。
ビリー・ザ・キッドは1859年生まれで、アメリカの西部開拓時代のアウトローとして数々の西部劇で描かれてきた人物。母親を侮辱した男を殺したのが12歳の時。
以来、強盗や泥棒を繰り返したが、弱く貧しい人々の味方で、町を牛耳る権力者やそれにつく暴漢ばかりを殺したという。そんなこともあり、文化作品ではヒーローのように扱われることもある。21歳の若さでパットによって殺された。
対するパット・ギャレットはビリーより10歳年上。パットも無法者であったが、開拓時代の終焉と文明の幕開けを肌で予感。時代の移り変わりと家庭を持つ中で、いつしか「安定した人生」を求めるようになった。
ビリーの存在を疎ましく思う町の権力者たちから雇われて保安官になったパットは、一匹狼となってビリーを追い続け、闇討ちで射殺。その後は牧場経営に転身したが、59歳の時に土地を巡るトラブルで殺された。
ビリーに扮するのはジョニー・キャッシュ、ジャニス・ジョプリン、デニス・ホッパーらとの仕事で知られていた、人気カントリー・ミュージャンのクリス・クリストファーソン。パット役は、名優ジェームス・コバーンが演じて味わい深さが加わった。
また、ミュージャンも多数出演。クリスの恋人のリタ・クーリッジはラブシーンを演じ、キース・リチャーズがファンとして有名なドニー・フリッツはビリーの仲間役。そして、ボブ・ディランが同じくビリーを慕う物静かな青年役で登場。サウンドトラックも担当した。
『ワイルドバンチ』『わらの犬』『ガルシアの首』『ゲッタウェイ』などで知られるサム・ペキンパー監督は、本作撮影時、映画会社MGMの経営陣と激しく対立していた。
反骨精神旺盛なサムは、『ワイルドバンチ』の続編的なものを求める会社に反発したので、ロケ現場の雰囲気は最悪だった。おまけに会社の帳簿上の都合で、公開日を急かされて、MGMが手配したチームと出来上がったフィルムを編集する日々。
結果、現在では公開版とディレクターズ・カットの2種類が存在する(大きな違いはないが、どちらも素晴らしい)。
本作は、ニュー・メキシコで保安官になったパットが、友達でもあるビリーを逮捕したくないために、町から出て行くように勧告するところから始まる。
仲間たちとの陽気な日々が一転したビリーだったが、パットの警告を無視して留まる。パットはビリーを逮捕して縛り首にするため留置。しかし、ビリーはパットの留守中に、見張り役の保安官を殺して町から去って行く。
ビリーを追い続けるパット。権力者たちも協力を惜しまない。一方、ビリーは自分を慕う若者エイリアス(ボブ・ディラン)、恋仲になるマリア(リタ・クーリッジ)らと再び気ままな生活に戻ろうするが、パットはあらゆる手を使ってビリーを探し出す。そして遂にその時がやって来た……。
暴力的な描写で知られるサム・ペキンパーにしては、詩情に溢れた男たちのバラード作品に仕上がっているところが胸に染みる。
滅びゆく西部開拓時代。パットが躍起になる権力者たちに、「あいつは根っからの西部の男だ」と言い捨てたり、ビリーを撃った後、彼の指をナイフで切り取ろうとする知事の代理人を蹴り上げたり、どこか友情を忘れないパットに魅力さえ感じる。
ラストーン。馬にまたがったパットは、ビリーを慕っていた町の子供から石を投げつけられるが、振り返ることなく、寂しそうに静かに去っていくのだ。
名シーンと言えば、何と言っても老保安官が無法者に銃で撃たれ、西部の夕陽を眺めながら、妻に見守られて死を覚悟するところだろう。ここで流れてくるのはボブ・ディランの名曲「天国への扉」(Knockin on Heaven's Door)。テーマ曲と並ぶ本作のハイライトだ。
文/中野充浩
参考/『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』パンフレット
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