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シザーハンズ〜ティム・バートン監督の孤独な思春期が投影されたストレンジ・ワールド

『シザーハンズ』(Edward Scissorhands/1990年)

1990年に、リスペクトしていたカルト・ムービーの帝王ジョン・ウォーターズの『クライ・ベイビー』で、映画初主演となっジョニー・デップ。

同年にはもう一つ、彼のキャリアにおいて重要な出逢いがあった。ティム・バートンとの仕事である。今やデップの名を知らない人はいないが、この頃はまだ、将来を期待された若手スターの一人に過ぎなかった。

その『シザーハンズ』(Edward Scissorhands/1990年)は、ティム・バートン自身によれば、「映像を通じて初めて自己確認ができた作品」。それまでの彼は、自分の感情を完全に表現する機会を一度も与えられたことがなかった。

というのもバートンの思春期は、コミュニケーションが苦手で友達もできず、誰とも接触しない暗黒の日々だったという。

「10代の頃、一人でいると凄くドラマチックな感情に突き上げられることが度々あった。ヴィンセント・プライスが出ている映画が好きで、エドガー・アラン・ポーのアイデア、孤独というテーマが好きだった」(ティム・バートン)

『シザーハンズ』パンフレットより

『シザーハンズ』には、そんなバートンの孤独な少年期に体験した映画の数々、例えば『フランケンシュタイン』『オペラ座の怪人』『ノートルダムのせむし男』『キングコング』『大アマゾンの半魚人』『ロミオとジュリエット』といった、悲しみのホラーやお伽噺が融合されている。

さらに前年の監督作『バットマン』(1989年)で、ゴッサムシティという大都会のダークサイドを描いたのとは対照的に、本作では意表を突いて、郊外住宅地を舞台にカラフルな色彩感覚を魅せる。

ただ一点、主人公のエドワード・シザーハンズ(ジョニー・デップ)が生まれ育った不気味なゴシック調の城を除いては。こういったところに、映画作家の拘りと真髄がある。

日本公開時の映画チラシ

バートンは、映画の登場人物にも自ら見てきたものを投影させた。

エドワードが恋するキム(ウィノナ・ライダー)は、チアリーダー的な典型的なヒロイン。そのボーイフレンドは、ハイスクールで誰もが知ってるようなタイプ。

「僕はいつもこの種の奴に恐怖を感じていた。いつも奴らにはガールフレンドが何人もいて、フットボールのキャプテンみたいで、アメリカン・ドリームの若者版のイメージがあるから。それでいて奴らは暴力的だ」(ティム・バートン)

『シザーハンズ』パンフレットより

エドワードは、発明家の博士によって生み出された人造人間。生みの親が急死したため両手はハサミのままで、以来、山の上にある薄暗い屋敷の中で寂しく閉じこもって暮らしている。

窓の外から、住宅地の人々を眺めるのが日課だ。そんなある日、住宅地の主婦で化粧品のセールスウーマンのペグ(ダイアン・ウィースト)がやって来る。心優しい彼女は、自分の家にエドワードを招き入れる。

住民たちは突然の訪問者に戸惑いを隠せないが、植木やペットのトリミング、斬新なヘアーカットなどでエドワードのハサミは大活躍し、TVでも紹介されて街の人気者になっていく。

孤独な日々を送っていた彼にとって、人との触れ合い、自分が必要とされていることは何よりの喜びだった。

しかし、ペグの娘キムに密かに恋をしてから運命が狂い始める。それに感づいた勝気なボーイフレンドの策略にはめられ、一転して警察や住民たちから追われる立場にされてしまうエドワード。愛するキムに身の危険が迫った時、エドワードが取った行動とは?

氷の彫刻を作るシーン。辺り一面に舞う雪と戯れるウィノナ・ライダーの姿がこの上なく美しく、映画を永遠のお伽噺に変えるチカラを感じた。切なさの極致を奏でるダニー・エルフマンの音楽も素晴らしい。

また、出演場面は少ないが、その圧倒的な存在感で映画に重みを与えているのは、発明家役のヴィンセント・プライス。監督が心から尊敬する名優は、これが遺作となった。

ティム・バートンとジョニー・デップ。映画界屈指の名コンビとなった二人のストレンジ・ワールドの原点。それが『シザーハンズ』だ。

文/中野充浩

参考/『シザーハンズ』パンフレット

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