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ノッティングヒルの恋人〜エルヴィス・コステロが歌い上げて蘇った名曲「She」

『ノッティングヒルの恋人』(Notting Hill/1999年)

『ノッティングヒルの恋人』(Notting Hill/1999年)は、日本でも大ヒットしたイギリス産のロマンチック・コメディ。

主演はヒュー・グラントとジュリア・ロバーツ。ジュリアといえば、トム・クルーズの遊び発見映画と並んで、「恋の発見映画」と言われるほど、1990年代に特に女性から絶大な人気があった女優だ。

彼女は忘れられない面影
僕の喜び それとも後悔
僕の宝物 それとも高い代償
彼女は夏が奏でる調べ
それとも秋がもたらす肌寒さ
彼女は何でもなり得る
たった一日の中で

映画『ノッティングヒルの恋人』より

主題歌は、エルヴィス・コステロが歌い上げた「She」。これはフランスの歌手シャルル・アズナヴールの作品で、彼自身の歌唱で1974年にヒット。邦題は「忘れじの面影」だった。

映画ではもともとこのオリジナルが使用される予定だったが、観客の反応を見て、(知名度を考慮して)急遽コステロがカバーすることになったという。

結果的に名曲が蘇ることになった。また、シャニア・トゥエイン、ビル・ウィザース、アル・グリーン、スペンサー・デイヴィス・グループらの曲もサウンドトラックとして使用されている。

映画は、あの名作『ローマの休日』を彷彿とさせる恋のお伽話。観た人は誰もが感じたように、物語には終始一貫したポジティヴな雰囲気が流れ、エンドクレジットと向き合う頃には何とも言えない温かい心に包まれる。つまり、また観たくなるような前向きな魅力があるのだ。

この作品には、誰かをディスるようなネガティヴな笑いは一切ない。ただ、人々の個性や人間味によって笑いが生まれている。だから価値がある。

これは、脚本家の物語力と監督の演出力によるところが大きい(余談だが高視聴率を記録した日本のTVドラマ『やまとなでしこ』のスタッフは、この映画に大いに刺激を受けたに違いない)。

眠れない夜に時々、もし僕が毎週1度は夕食を食べに行っている友人の家に、マドンナやダイアナ妃やカイリー・ミノーグとか、当時世界で一番有名な女性を連れて行ったらどうなるだろうと考えてたんだ。

『ノッティングヒルの恋人』パンフレット、DVD特典映像より

脚本家のリチャード・カーティスは、1994〜98年という4年もの歳月をかけて脚本を執筆した。

そこから膨らませていって、友人たちはどんな反応をするんだろう? 夕食はどんな感じになるだろう? 後からみんなに何て言われるだろう? それが脚本の、本当に平凡な人間がとても有名な人間と付き合ったら、それが彼らの生活にどう影響するのかっていう話のポイントだったんだ。

『ノッティングヒルの恋人』パンフレット、DVD特典映像より

ロケはタイトル通り、ウエストロンドンのノッティングヒルの街で行われた。地域ぐるみの撮影の中、住民たちは喜んで協力してくれた。

主人公の心の状態と四季の流れを表現した「季節の道」と呼ばれることになる名場面のほか、見どころは満載。

日本公開時の映画チラシ

(以下、ストーリー含む)

旅行書専門店を経営するウィリアム・タッカー(ヒュー・グラント)はバツイチで、赤字続きの売り上げに今日も溜息ばかり。

ある日、新作の宣伝のためにロンドンの高級ホテルに滞在中の、世界一有名で美しい映画スター、アナ・スコット(ジュリア・ロバーツ)が本を探しに入ってくる。

二人は偶然が重なって親しくなり、恋に落ちる。アナは、ウィリアムの親友夫婦の家に一緒に食事に行く約束を交わす。

最初は、突然の有名人の登場に動揺を隠しきれない友人や妹たち。しかし、ウィリアムを取り囲む虚飾のない人々と接しているうちに、アナはリアルな幸せを実感するのだった。

別の日、ウィリアムをホテルの部屋に誘うアナ。しかしタイミング悪く、アメリカから元カレの映画スターが勝手にやって来ていて、訪れたウィリアムとご対面。ルームサービス扱いされて、その場を去るしかなかった。

半年後。ウィリアムのもとに、アナが突然現れる。若くて売れなかった頃に撮ったヌード写真が流出して新聞沙汰となり、かくまってもらいたくて家まで会いに来たのだ。

二人は愛し合い、お互いが必要であることを確認し合う……翌朝、ドアの前にはなぜかマスコミが押し寄せている。ウィリアムの同居人が、酔ってうっかり口を滑らしてしまったらしい。

一方、ウィリアムが売ったと勘違いしたままのアナは、マネージャーに連れられて家を出て行ってしまう。

1年後。アナのことが忘れられないウィリアムは、撮影のためにロンドンを訪れているアナに会いに行く。話があると言われたウィリアムはアナを待つが、アナが共演俳優に漏らした言葉を聞いて落胆。恋の終わりを知って虚しく帰っていく。

次の日。書店にアナがやって来た。昨日のことはウィリアムの誤解だったらしい。何度も考えた末、この恋はうまくいかないとウィリアムは言う。

「だって君はビバリーヒルズに住み、僕はこのノッティングヒルに住んでいる。世界中の人々が君のことを知っている。続けられないと思うんだ」

映画『ノッティングヒルの恋人』より

ウィリアムは、親友や妹たちに自分の決断を慰めてもらっていると、同居人ははっきり言う。「君は何て馬鹿な男なんだ」

自分がしたことに気づいたウィリアムはアナに会うために、みんなに協力してもらって記者会見の会場へ向かう。これが終われば、アナはアメリカに戻ってしまう。ウィリアムはアナの前で本心を伝えることができるのだろうか……。

映画の後半で、ジュリア・ロバーツ扮する映画スターのアナは、こんなセリフを口にする。

「女優の名声なんて実態のないものよ。忘れないで。私も一人の女。好きな男の人に愛してほしいと願ってる」

映画『ノッティングヒルの恋人』より

力強いテーマだ。「奇跡は起きるためにあるのであって、夢や空想は現実になり得る」という希望を与える物語として、『ノッティングヒルの恋人』はこれからも多くの人々に語り継がれていくだろう。

彼女は僕が生きる理由
僕が生きている理由そのもの
この先の長い日々を見守りたい人
僕は受け止める 彼女の笑みと涙を
そしてすべてを心に刻む
彼女の場所が僕の居場所
僕の人生の意味 それが彼女
彼女……

映画『ノッティングヒルの恋人』より

文/中野充浩

参考/『ノッティングヒルの恋人』パンフレット、DVD特典映像

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