![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/156665887/rectangle_large_type_2_3ffe4c4b93cf6c3ffaff69b038862340.jpeg?width=1200)
さらば青春の光〜“完璧な10代のライフスタイル”を追求したモッズ族
『さらば青春の光』(Quadrophenia/1979年)
それは1973年の初め、暗く冷たい冬の夜のこと。27歳だったピート・タウンゼンドが自宅のコテージに一人座りながら、記憶の旅に出たのが始まりだった。
新しい音楽と物語の構想に明け暮れていたピートの心に、突如として1964年のブライトン・ビーチでの想い出が蘇ってきたのだ。
自分はロックスターとしてではなく、「ファンの担い手となるべき」と考えていたピートは、ノートに一人のモッズ少年を主役にした風景を綴っていく。
その新しい音楽と物語である『Quadrophenia』(四重人格)は1973年10月にリリースされ、大ヒットを記録。
ブックレットには、写真家イーサン・ラッセルによる40ページものモッズ族のフォト・ストーリー(下の写真)が収録され、ピートが心に描いた風景をヴィジュアルとして見事に再現していた。
![](https://assets.st-note.com/img/1728001211-Lmr2quMU7ozRtcaHVXOnpxyD.jpg?width=1200)
それから6年後。
パンクを機に、音楽シーンが若返っていたイギリスには、ザ・ジャムやシークレット・アフェアーといった新世代のバンドが登場して、モッズ・リヴァイヴァルが起こっていた。
そしてザ・フーの『Quadrophenia』(四重人格)を原作にした映画『さらば青春の光』が1979年に公開されると、すぐさまネオ・モッズたちのバイブルとなり、同年後半にはスペシャルズなどのツートーン・スカも登場。ヨーロッパだけでなく、東京にもモッズシーンが出現するまでに至った。
![](https://assets.st-note.com/img/1728001332-K6WiafPphbL7NJMECSmoIu8Z.jpg)
モッズ(モダニスト)とは、テッズ(テディボーイ)に代わって1958年のロンドンで生まれた新しい若者風俗のこと。
ティーンエイジャーの人口増加や消費力が注目される中、一部の洒落た若者たちがイタリアン・ルックに身を包み、モダンジャズを聴いたり、ヴェスパやランブレッタといったスクーターを走らせ、カフェバーやクラブに集まり始めたのだ。
1962年に、モッズがメディアを通じて紹介されると、より多くの若者たちに刺激と影響を与え、63〜64年頃には、世界のポップカルチャーの中心になっていた“スウィンギング・ロンドン”の空気を吸い込みながら黄金期を迎える。マーク・ボランもデヴィッド・ボウイもロッド・スチュワートもスティーヴ・マリオットも、みんなモッズだった。
三つボタンのサイドベンツの細身のスーツ、フレッドペリーのポロシャツ、アメリカ軍の放出品パーカ、デザートブーツなどに着眼するファッション性。R&Bやモータウンやスカなどを愛聴する音楽性。
溜まり場のクラブやフェイス(顔役)やチケット(仲間)といった集団性。デコレーションされたスクーターや週末のビーチといった移動性。パープルハーツに代表されるドラッグ性。
様々な表情を覗かせながら、“完璧な10代のライフスタイル”を追求する。ザ・フーも、そんなモッズたちに強く支持されたバンドの一つだった。
一方で、モッズの過激性も次第に増していった。1964年4月のクラクトン・ビーチでは、敵対する革ジャン姿のロッカーズと大乱闘。翌月も夏もその種の事件が相次いで新聞沙汰になると、乱闘目的でモッズになる者さえ現れた。
そして1966年の夏、イギリスが経済危機に見舞われると、“スウィンギング・ロンドン”は陰り始め、年末には人気音楽番組『レディ・ステディ・ゴー』も打ち切られ、モッズは姿を消していく(スキンヘッズやヒッピーの台頭)。若者文化のうねりは既に、アメリカのサンフランシスコに向かっていた。
1964年を舞台に、一人の少年の葛藤する姿を描いた映画『さらば青春の光』(Quadrophenia/1979年)は、良質な青春映画でもあり、60年代モッズシーンの風景映画でもある。
主人公ジミーは、昼間はメールボーイの仕事をしながら、夜になるとスクーターに乗ってクラブやパーティーをハシゴする典型的なモッズ。
クスリを調達する仲間もいるし、片想いの女の子もいる。みんなの話題は週末のブライトン・ビーチでの集まり。何かが起こる期待に胸躍らせてスーツを新調するジミーだったが、乱闘に巻き込まれて警察に拘束されてしまう。
顔役のエース(演じるのはポリスのスティング)の手助けもあって地元に戻るが、仲間や恋にも、親や仕事にもすべてに嫌気が差していた。ジミーはもう一度、海岸の町に出向くのだが……。
サントラ盤にはザ・フーの曲のほか、ジェームス・ブラウンやロネッツなどのモッズが愛したナンバーが収録されている。映画では、ジミーが幼馴染みのロッカーズが口ずさむジーン・ヴィンセントの「Be-Bop-A-Lula」を嫌い、キンクスの「You Really Got Me」を歌って対抗するシーンが印象的だ。
文/中野充浩
*参考/『ピート・タウンゼンド自伝:フー・アイ・アム』(森田義信訳/河出書房新社)、『イギリス「族」物語』(ジョン・サベージ著/岡崎真理訳/毎日新聞社)
●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから
この記事を楽しんでいただけましたか?
もしよろしければ、下記よりご支援(投げ銭)お願いします!
あなたのサポートが新しい執筆につながります。