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54(フィフティ★フォー)〜NYに実在した伝説のクラブ「スタジオ54」

『54(フィフティ★フォー)』(54/1998年)

人はそこに住んでいる。
そこでダンスをする。
そこで酒を飲む。
そこで友達を作る。
そこでセックスをする。
そこでビジネスをする。
そこで眠る。
(アンディ・ウォーホル)

『54(フィフティ★フォー)』パンフレットより

アンディ・ウォーホルは、自分が毎晩のように入り浸っていた“ある場所”について、そう語ったことがある。

そこは「スタジオ54」。ニューヨークのマンハッタンにあった、伝説のディスコのことだ。

1977年4月26日にオープンした「スタジオ54」は、瞬く間にナイトライフを楽しむ人々の間で話題になる。出入りしたのは、アート・ファッション・音楽・映画・文学といった、カルチャーシーンのセレブリティをはじめとする高感度なゲストたち。

アンディ・ウォーホル、トルーマン・カポーティ、サルバドール・ダリ、ミック・ジャガー、ルー・リード、デヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン、フレディ・マーキュリー、デボラ・ハリー、マイケル・ジャクソン、ダイアナ・ロス、エリザベス・テイラー、フェイ・ダナウェイ、ライザ・ミネリ、ブルック・シールズ、アル・パチーノ、シルヴェスター・スタローン、ジョン・トラボルタ、ウディ・アレン、カール・ラガーフェルド、カルバン・クライン……。

オペラハウスを改造した内装、ダンスフロアの巨大なオブジェ(月の男と麻薬用のスプーン)、ステージでのライヴといった眩い光景に彩られながら、「スタジオ54」の巨大なパーティは始まった。

仕掛けたのは、ステーキハウスの経営からのし上がったオーナー、スティーヴ・ルベル。

ここに来れば、金もセックスも、ドラッグも名声も、チャンスや成功も、すべてを手に入れられる。ただし、誰でも無差別に入場できるわけではない。

「ヴェルヴェット・コード」と呼ばれる、ルベル自らがエントランスで行う厳しい(実は気まぐれな)チェックで、客はどんな社会的立場であろうと、店に選ばれるシステムなのだ。

入れること自体がステイタス。セレブたちにはスポットライトの快感を、名もなき若者たちには甘い夢を、マスコミにはスキャンダルを。常に話題を提供し続ける発信源「スタジオ54」は、次第に伝説と化していった。

日本公開時の映画チラシ

映画『54(フィフティ★フォー)』(54/1998年)は、一人の若者の姿を通じてパーティの華やかさと、その裏側に潜む虚しさを描いた傑作。伝説のディスコを舞台にした青春映画として、強い印象を残す作品となった。

1979年。ニュージャージーのガソリンスタンドで働きながら、いつも対岸のニューヨークにある“約束の世界”に想いを募らせるシェーン(ライアン・フィリップ)。

新聞のゴシップ欄で、同郷の憧れの昼メロ女優ジュリー(ネーヴ・キャンベル)が、「スタジオ54」に出入りしている記事を目にする。思わず実家を飛び出して、ウェイターとして54で働き始めるシェーン。

アニタ(サルマ・ハエック)やグレッグ(ブレッキン・メイヤー)といった仲間にも恵まれ、夢の一歩が始まっていく。

しかし、そこはドラッグ漬けの気まぐれなオーナー、ルベル(マイク・マイヤーズ)の帝国。シェーンは戸惑いながらも、様々な出逢いやパーティの後の孤独を通じて大切なことに気づき始める。そんな12月の冬、国税庁のガサ入れが54に近づいていた……。

「パーティは終わった。ルベルは夢を見て現実に戻ったのだ」

映画『54(フィフティ★フォー)』より

という、シェーンのセリフがいい。

この後、逮捕されたルベルは、有罪判決を受けて服役。「スタジオ54」は1981年の秋に、新オーナーになって再オープンしたものの、かつての魅力は望めるはずもなく、1986年にクローズ。

一方、ルベルはホテル経営に乗り出した矢先、1989年の夏に45歳でエイズで他界した。

「スタジオ54」の熱気は、当時日本の雑誌などでも報告され、クラブカルチャーの原点として、のちの東京クラブシーン誕生(1980年代半ば〜後半)にも多大な影響を与えた。

そこは小さな場所かもしれないが、無視できない特定の人々にとっては、とてつもない可能性に溢れた刺激的な世界が広がっている。それがクラブというハコの魔力なのだろう。

映画には、ドナルド・トランプが架空の富豪役でカメオ出演。サントラ盤にはシック、エイミー・スチュワート、テルマ・ヒューストン、ブロンディなどが収録され、1970年代後半のディスコ・ミュージックが満載だ。

また、「スタジオ54」については、写真集や書籍も発売されているので、興味のある方はぜひ。

文/中野充浩

参考/『54(フィフティ★フォー)』パンフレット

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