パープル・レイン〜真のスーパースター誕生の瞬間を描いたプリンスの自伝的映画
『パープル・レイン』(Purple Rain/1984)
2016年はデヴィッド・ボウイやイーグルスのグレン・フライなど大物ミュージシャンが相次いで亡くなったが、その度に彼らの過去の代表作やベスト盤を購入する人が多かったようだ。
同年4月21日に亡くなったプリンスも、直後の5/7付のビルボードのアルバムチャートで、1位・2位・6位とTOP10に3枚が突如ランクインした。1位と6位はベスト盤で、2位が『パープル・レイン』。これはプリンスと言えば、やはり『パープル・レイン』を思い浮かべる人が多いことを証明した結果だろう。
1984年の『パープル・レイン』リリース当時を思い返すと、あの衝撃の大きさは凄かった。前作『1999』によって機は熟していたにせよ、プリンスが真のスーパースターになったのは、紛れもなく『パープル・レイン』だった。
MTV時代が本格的に幕開けて、ヴィジュアル性に富んだアーティストたちが増殖し、現在よりも“洋楽”が若者文化に深く浸透・作用していた1980年代。
デュラン・デュランやカルチャー・クラブやワム!といったUKポップ、長髪にメイクのヘヴィメタル勢、ヒット曲満載のサントラ映画、そしてマイケル・ジャクソンやシンディ・ローパーやマドンナらの動向を追いかけることがポップカルチャーの最先端だったあの時代。そんな頃にプリンスはあまりにも眩しくブレイクしたのだ。
ローリング・ストーンズのミック・ジャガーはその数年前から「プリンスがどんなに凄い奴か君らには分からないだろう」と言っていたし、デヴィッド・ボウイは「彼は今、一番気になる存在だ」とコメントした。
ここで1983年と1984年のビルボード・チャートでナンバーワンを記録したアルバムを並べて、あの時代の風景を再生してみよう(数字は1位を獲得した週数)
単なる売り上げベースを上から並べただけの現在とは違い、当時はどれだけ聴かれているかも加味していたチャートだけあって、ナンバーワンになることは大きな意味を持っていた。世の中への影響力を反映していたとも言える。
1984年に至っては、マイケルを含めて僅か5作。そんな中で『パープル・レイン』は約半年間もトップを独走し続け、「When Doves Cry」(1位)「Let’s Go Crazy」(1位)「Purple Rain」(2位)「I Would Die 4 U」(8位)「Take Me with U」(25位)など、シングル・カットされる曲すべてが大ヒットした。
『パープル・レイン』(Purple Rain/1984年)は、自伝的要素をたっぷり盛り込んだプリンス初主演の大ヒット映画で、真のスーパースター誕生の瞬間までを描いたこの物語は、現実のプリンスとも見事にシンクロしていく。
撮影は、1983年11月から7週間にわたって、プリンスの故郷であるミネアポリスで行われ、ウェンディとリサのいるザ・レヴォリューションやモリス・デイ率いるザ・タイムといった面々が実名で登場。
また、意見が合わずに対立して、プリンス・ファミリーを脱退したヴァニティに代わって、5000人のオーディション中から無名モデルのパティ・コテロを急遽起用。彼女はアポロニアと名付けられた。
映画『パープル・レイン』は、サクセス・ストーリーや青春ロマンスのほか、プリンス演じるキッドと父親の物語という側面も持つが、プリンスは実際に8才の時にピアノを弾く父親のステージを見て、ミュージシャンになることを決意したという。
やがて両親の離婚をきっかけに、孤独な少年の心の拠り所は音楽になっていき、独学で楽器を覚えて作詞作曲も手掛けていく。なお、映画にはプリンス以外の曲も数曲使われているが、「ファーザーズ・ソング」は本当の父親が作曲したものだ。
ミネソタ州の工業都市ミネアポリス。有名なライヴスポット「ファースト・アヴェニュー」では、キッド(プリンス)のバンドであるザ・リヴォリューションがステージに立っている。
客席の中には、明日のスターを夢みるアポロニアもいる。二人はすぐさま恋に落ちるが、キッドの両親は喧嘩ばかりしていて、父親は酒に溺れて母親に暴力を振るう毎日。キッドは地下室に閉じ籠って音楽に没頭するか、バイクで走り回るかして、現実から逃れようとする。
このクラブの大スターは、モリスのいるザ・タイムで、アポロニアの夢を利用して近づこうとする。キッドは両親のこともあって、バンドのメンバーやアポロニアと衝突していき、より孤独になっていく。
そんな時、父親がピストル自殺を図る。どうしようもない気持ちで自暴自棄になるキッドだったが、音楽を辞めていたはずの父親の楽譜を見つけた時、彼の心で何かが変わろうとしていた……。
クライマックスに演奏されるタイトル曲「パープル・レイン」は、この映画のハイライトで、これからもプリンスが生んだ永遠の名曲として、多くの人々の心をとらえ続けるだろう。
文/中野充浩
参考/『パープル・レイン』パンフレット
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