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天使のくれた時間〜都会で独身貴族として生きるか、郊外で家族と共に暮らすか

『天使のくれた時間』(The Family Man/2000年)

都会暮らしと郊外暮らし。

どちらも経験した人は多いと思う。例えば、地方から東京や大阪に出てきた人。都市の中心部出身だけど郊外にマイホームを購入した人など、いろんなケースが想像できる。

目に入る風景や行き交う人々の様子、気軽に立ち寄れる飲食店の数の違い、生活のリズムに戸惑ったことはないだろうか。

特に都心のタワーマンションで、自由気ままな独身生活を長年続けていて、結婚や子育てを機に郊外に移り住んだ場合など、それまでの世界観とのあまりの相違にちょっと面喰ってしまった。なんて人は少なくないはず。

都会では有効的だった過剰にキラキラしたもの、ギラギラしたものは、郊外では煙たがられ、“あちら側”の価値観は、“こちら側”では到底通用しにくい。

フォトジェニックな光景なんかどこにも見当たらないし、クールなダンディズムを持ち出したところで、葉巻が吸える洒落たバーなんかないし、公園にいる子供や動物相手では空虚さだけが残ってしまう。今回はそんな話だ。

『天使のくれた時間』(The Family Man/2000年)は、ニューヨークのど真ん中の高級アパートでリッチな独身貴族を続ける男が、正反対の環境=ニュージャージー郊外の住宅街に突然投げ込まれるストーリー。

と言っても、ブレット・ラトナー監督は1946年の名作『素晴らしき哉、人生!』をモチーフにしているので、“大人のためのお伽話”になっている。

「もしあの時、違う道を選んでいたら?」をテーマにした映画で思いつくのは、『ミスター・ノーバディ』だろう。この映画では3つの人生が交錯して、観る者をどこまでも切ない気持ちにさせてくれたが、『天使のくれた時間』は、最後には温かい気持ちになる。好みは人それぞれ。素晴らしい映画であることには間違いない。

主演はニコラス・ケイジ。『月の輝く夜に』(1987年)、『ワイルド・アット・ハート』(1991年)、『ハネムーン・イン・ベガス』(1993年)、『リービング・ラスベガス』(1996年)、『シティ・オブ・エンジェル』(1998年)と毎回違った表情を見せてくれる俳優であり、人間ドラマやコメディだけでなく、アクション映画でも存在感を放つ幅の広さを持っている。

この多彩なイメージに惚れ込んだ監督は、『天使のくれた時間』の主人公は、ニコラス・ケイジしかいないと思ったほど。

日本公開時の映画チラシ

(以下、ストーリー含む)

物語の始まりは、1987年の空港。

若きジャック・キャンベル(ニコラス・ケイジ)はウォール街での成功を夢見て、涙を浮かべる恋人のケイト(ティア・レオーニ)を振り切って、ロンドン研修へ旅立った。

「たとえ100年離れていても僕らの関係は変わらない」はずが、二人が再会することはなかった。

そして現在。

ウォール街で成功を掴んだジャックは、大手金融会社の社長として優雅な独身生活を謳歌していた。ペントハウスに住み、フェラーリを乗り回し、遊び相手にも事欠かない。

クリスマス・イヴも深夜まで働く彼だが、家族もなく一人で帰宅する姿には、孤独感が漂っている。

そんなジャックに、いつもとは違う不思議な出来事が起こる。立ち寄った終夜営業のスーパーで出逢った青年から、「これから起こることはあんたが招いたことだ」と告げられるのだ。

翌朝、見知らぬ家のベッドで目覚めるジャック。隣には13年前に別れたはずのケイトが眠っており、二人の子供と犬が走り回っている。

「一体何が起きたんだ?」と驚くジャックだが、フェラーリはワゴン車に変わり、ペントハウスのドアマンも、会社の警備員も、確認しに戻って来たジャックを不審者のように扱う。

隣人と話し込んでいるうちに、自分が何者であるかを知るジャック。ケイトの父親の店でタイヤのセールスマンをしており、スポーツの話題に夢中になり、保育園の送り迎えやオムツの交換に勤しむ、良きファミリーマンだというのだ。ウォール街での勇姿とはあまりにもかけ離れた自分がいた。

金融会社の会長がタイヤの交換をしにやって来たことが縁で、転職して家族にリッチな生活をさせようと試みるジャック。しかし、ケイトはそんなことを望んでおらず、ジャックもいつの間にか家族のある生活に幸せを見出していた。

スーパーで出逢った青年から「輝きは永遠に続かない」と言われて、無事に元の世界に戻るジャックだったが、彼の心には何かが芽生えていた。

本当のケイトは独身で、やり手の弁護士となっていて、パリへ移住する直前。13年前と真逆の状況の中、ジャックはケイトを追いかける。そして雪降るクリスマス・イヴの夜の空港で、二人は同じテーブルで向かい合いながら話をする……。

監督は、「両方の生き方を体験し実感してもらうのがこの作品の狙いで、どちらが正しいとは決めていない」と言う。

なお、サウンドトラックには、シール、クリス・アイザック、U2、エルヴィス・コステロ、トーキング・ヘッズ、ミスター・ビッグ、デルフォニックスらのナンバーを使用。

できれば12月や1月の週末の深夜帯に、一人でゆっくりと向き合い、何かを感じ取ってほしい作品だ。窓の外が、都会であっても郊外であっても。

文/中野充浩

参考/『天使のくれた時間』パンフレット

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