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欲望〜スウィンギング・ロンドンと60年代ポップカルチャー

『欲望』(BLOW-UP/1967年)

1960年代のある特定の時期(つまり1965年〜67年頃)におけるロンドンは、「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれて、間違いなく世界のポップカルチャーの中心地だった。

それは、ファッション、デザイン、映画、文学、アート、写真、そして音楽などに携わる人々、それらを支持する人々が醸し出した、一つの確固たる文化革命ムードであり、ロンドンが最も輝いていた時代。「スウィンギング・ロンドン」は、今でも奇跡的な伝説として語られる。

それまでヨーロッパでは、パリがモードやカルチャーの権威だった。しかし、この時期はロンドンに眩しいくらいのスポットライトが当たる。その起爆剤になったのは、「若者」「音楽」「ファッション」の3つだった。

第二次世界大戦後のベビーブームの影響で、1960年代は10代の若者人口が増加。その消費力はいよいよ無視できなくなってくる。

いわゆる「ティーンエイジャー」という存在が都市ロンドンでも浮上して、コリン・マッキネスの小説『アブソリュート・ビギナーズ』(アラン・シリトー『土曜の夜と日曜の朝』をはじめとする“怒れる若者たち”の作家の一人)で描かれたような、モッズ族が全盛期に入る。

“完璧な10代のライフスタイル”を追求したモッズたちは、ドラッグをやり、イタリアン・ルックに拘り、何よりも音楽を愛した。

モダン・ジャズ〜R&B〜ロンドンのビートバンド〜モータウン・ソウル〜ブルービート/スカといった、彼らがクラブで聴いて踊りまくった音楽は、そのまま「スウィンギング・ロンドン」のサウンドトラックとなった。

大人気だったTV番組『レディ・ステディ・ゴー』で、ザ・フーやヤードバーズはTV初出演を果たしたし、ローリング・ストーンズ、ビートルズ、キンクス、スモール・フェイセズ、エリック・クラプトン、ロッド・スチュワート、デヴィッド・ボウイ、スティーブ・ウィンウッド、ダスティ・スプリングフィールド、マーク・ボラン、ジミ・ヘンドリックス、ピンク・フロイド、ドノヴァンもすべてが、「スウィンギング・ロンドン」の一部だった(イミディエイト・レーベルも)。

ファッション界ではミニスカートとボブ・ヘアーが革命を起こした。デザイナーのマリー・クワントやピエール・カルダン、あるいはヴィダル・サスーン。ジーン・シュリンプトン、ツィギー、アニタ・パレンバーグ、マリアンヌ・フェイスフル、パティ・ボイドといった可憐なモデルたち。「ヒズ・クローズ」「ビバ」「バザール」などの最先端のブティック。

ピート・タウンゼントのユニオン・ジャックのジャケットも「スウィンギング・ロンドン」だ。ストーンズのプロデューサーだったアンドリュー・オールダム、のちにセックス・ピストルズを仕掛けるマルコム・マクラーレンも、みんなこの空気を吸い込んでいた(ドラッグの「パープル・ハーツ」も)。

しかし、ヒッピー/LSD文化の浸透やポップスターの相次ぐドラッグ逮捕劇、そして英国が経済不況に覆われ始めると、時代のスポットライトは「スウィンギング・ロンドン」から、アメリカ西海岸サンフランシスコへと移っていく。

こうしてロンドンは1970年代前半のグラム・ロック到来まで、ポップカルチャーの主役の座を再びアメリカに譲ることになった。

「スウィンギング・ロンドン」のムードを記録した映画は、『ナック』『OO7』をはじめ何本か存在するが、最も有名なのはイタリアの巨匠、ミケランジェロ・アントニオーニ監督による『欲望』(BLOW-UP/1967年)だろう。

日本公開時の映画チラシ

主役は売れっ子カメラマンという設定で、これはローリング・ストーンズのレコード・ジャケットや雑誌ヴォーグのファッションを撮ったカメラマン、デビッド・ベイリーがモデルになったと言われている。

音楽はモダンジャズのピアニスト、ハービー・ハンコックが担当。本作ではR&Bっぽいオルガン・ジャズを披露して、ロンドンの全盛期を見事に音にして表現してくれている。

また、若かりしジェーン・バーキンも出演していることにも注目。さらには、ジェフ・ベックとジミー・ペイジ在籍時のヤードバーズのライブ演奏も記録されていて話題になった。

物語は売れっ子カメラマン、トーマス(デヴィッド・ヘミングス)の日常や仕事を描きながら、たまたま通り掛った公園で撮影した不倫カップルの写真に、殺人の証拠が移り込んでいるというもの。

トーマスが現場を再訪すると、そこには死体が転がっていた……「スウィンギング・ロンドン」のムードを、この上なく満喫出来る作品だ。

文/中野充浩

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