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恋しくて〜80年代の青春を魅了した“ジョン・ヒューズ学園映画”のラスト作

『恋しくて』(Some Kind of Wonderful/1987年)

1980年代の映画を語ろうとする時、ある時期の“学園映画”を見落としてはならないこと。そしてその頂点に君臨していたのが「ジョン・ヒューズの学園映画6本」であったことは、『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』でも語った通り。

あれから40年近くが経ち、これまでもたくさんの学園映画が製作されてきた。だが、「あの頃のヒューズ作品を超えた」という話を一度も聞いたことがない。

それほど彼の映画には、観る者を魅了する一貫したムードと世界観が息づいていた。そんなヒューズも1987年を最後に学園映画を撮らなくなり、2009年8月6日に59歳で亡くなった。

雑誌編集に携わりながら、コメディ映画の脚本家でもあったジョン・ヒューズが、初監督を担当した『すてきな片想い』(Sixteen Candles)でデビューしたのが1984年。16歳の女の子の心情を描いたこの作品ですべてが始まった。

続く『ブレックファスト・クラブ』(The Breakfast Club/1985年)では、様々なタイプの高校生を登場させ、『ときめきサイエンス』(Weird Science/1985年)では、ギークと呼ばれるオタクを主人公にした。

さらに『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(Pretty in Pink/1986年)では、貧富の差を超えたロマンスを実らせ、『フェリスはある朝突然に』(Ferris Bueller's Day Off/1986年)では、学校をサボることの有意義さを説いた。

また、このうち3本に主演したモリー・リングウォルドは大ブレイク。「こんなコどこにでもいるよね」的な普通のルックスもあってアイドル化し、アメリカでは公開時の映画館に長蛇の列。彼女のファッションを真似る女の子たちが続出して“リングレッツ”現象も起こった。

ヒューズ映画は、学校の人気者以外のタイプを主人公に設定したことが新しく、大きな共感を呼ぶことになった。

それは日本の高校や教室にもシンクロして、ちょっとオシャレな高校生なら見逃す奴なんていなかった。ヒューズの愛弟子ともいえるハワード・ドゥイッチ監督は、人気の秘訣を語る。

青春時代は複雑なものだということをヒューズは充分に認識している。その時代の悩みに対する様々な解決方法を彼は常に探して求めているんだ。そこには数え切れないほどのストーリー、ヴァリエーションがある。ヒューズはそれを知っていて、その作り方を心得ている。彼は若者と真面目に付き合う。それゆえに若者たちも彼を慕うようになる。

『恋しくて』パンフレットより

『恋しくて』(Some Kind of Wonderful/1987年)は、ジョン・ヒューズが脚本・製作を担当し、ハワード・ドゥイッチが監督した“最後の学園映画”。まさにラストを飾るに相応しい集大成的な内容だった。

日本公開時の映画チラシ

主演は『初体験リッジモント・ハイ』のエリック・ストルツ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のリー・トンプソン、そしてボーイッシュなショートカットが印象的なメアリー・スチュワート・マスターソン。

(以下、ストーリーと結末含む)
絵を描くのが好きで、ガソリンスタンドでアルバイトする日々を送っている物静かな高校生キース(エリック・ストルツ)。彼にはお幼馴染のワッツ(メアリー・スチュワート・マスターソン)がいる。ワッツは髪を短く切り、男言葉を話し、ドラムを叩くような強気な女の子。

エリックが密かに想いを寄せるのは、アマンダ・ジョーンズ(リー・トンプソン)。いかにも学校のマドンナ的存在の彼女には、ハーディという学園一のお坊っちゃま彼氏がいて、ワッツからも「高望みはするな。お前なんか眼中にない」と馬鹿にされる始末。口達者なハーディは、学校で別の女の子たちを口説くような奴だった。

想いが募るキースは、アマンダがデートで授業をサボって早朝登校を命じられたことを知ると、自分もワザと問題を起こして、同じ場にいる機会を作ろうとする。翌朝、意気揚々とキースが教室に入ると、そこはスキンヘッドの不良たちしかいなかった。

キースとワッツは、何かと口喧嘩が絶えない。アマンダのことを話すと、ワッツは否定的なことばかり。キースから「この気持ちは恋をしていないから分からないんだ」と言われると、ワッツは辛くなった。本当はずっとキースのことが好きなのだ。見た目に関して何もかも正反対のアマンダと自分。どうやら通じそうもない。

ワッツの気持ちなど知るはずもないキースは、ハーディの軽薄さに嫌気がさし始めたアマンダと、デートの約束を交わすことに成功する。ワッツに付き合ってもらい、アマンダへの高価なプレゼントを買いに行くキース。「もし彼女がキスを求めてきら? 練習台になってやるよ」。ワッツはこれで最後になるかもしれないキースと口づけをする。

ハーディは自宅のパーティにキースとアマンダを招待したが、これには裏があり、仲間たちとキースを袋叩きにするつもりでいる。それを知ったキースは逆に立ち向かう。「いずれそうなるのなら、逃げ隠れなんかしない」

いよいよアマンダとのデートの日。ワッツは運転手役になって二人の恋を見届ける。夜の美術館に忍び込むと、完成したアマンダの肖像画を見せてびっくりさせるキース。すると、アマンダは自分が見栄っ張りであったことを恥じ、一人でいることが怖くて、金持ちグループと付き合っていたことを告白する。

パーティに出向くと、ハーディたちが待ち構えていた。「俺とヨリを戻したいなら、ひざまづいてお願いしろ」とアマンダを侮辱するハーディ。思わず殴り掛かるキース。仲間たちを使ってキースを外に連れ出そうとしたその瞬間、スキンヘッズの不良たちが乱入してきて状況は一変。早朝登校のおかげで、みんな仲良くなっていたのだ。

ハーディに平手打ちを喰らわしたアマンダは、「本当の自分を取り戻せたわ。もう大丈夫」と言ってキースに微笑む。プレゼントされたイヤリングを外し、「あなたの本当の好きな人にあげて」。一人涙を流して舗道を歩くワッツを、キースは追いかけていく……。

ヒューズ映画はサウンドトラックも秀逸で、本作ではチャーリー・セクストンの「Beat's So Lonely」が流れていることにも注目。また、ロックファンならもうお気づきかもしれないが、キース、ワッツ、アマンダ・ジョーンズと登場人物たちの名前が、ローリング・ストーンズのメンバー名や曲名。もちろん「Miss Amanda Jones」も使われているので、そちらもどこで流れるか探すのも楽しい。

文/中野充浩

参考/『恋しくて』パンフレット

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