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ウルフ・オブ・ウォールストリート〜実在した破天荒な株式ブローカーの成り上りと破滅
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(The Wolf of Wall Street/2013年)
マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオが、5度目のタッグを組んだ『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(The Wolf of Wall Street/2013年)は、実在したウォール街の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートのクレイジーな成り上りと放蕩ぶり、そして逮捕までの道程を描いた衝撃のエンターテインメントだ。
原作は、ベルフォート自身が綴った回想録『ウォール街狂乱日記〜「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』。
わずか26歳で証券会社を立ち上げ、貯金ゼロから年収49億円を荒稼ぎするまでに至り、36歳の若さで楽園を追放された男の破天荒な人生が描かれていく。ちなみにやってることはメチャクチャ。これが面白くないわけがない。
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(以下、ストーリー含む)
一攫千金を夢見るベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、学歴・コネなしの不安要素を乗り越え、24歳の時にウォール街の歴史ある証券会社に潜り込むことに成功。電話の取り次ぎ役としてスタートする。
右も左も分からない新人をランチに誘ってくれたのは、カリスマブローカーとして君臨するマーク(マシュー・マコノヒー)。酒と女とコカインに明け暮れる上司の姿に圧倒されるベルフォートに、マークは業界のルールを叩き込む。
いいかい。君がもしウォーレン・バフェット(世界で最も成功した投資家。その資産は2024年時点で約20兆円)だとしても、株が上がるか下がるなんてそんなことは誰にも分からない。それは幻だ。存在しないんだ。
客が儲けたらまたその金ですぐにまた投資させろ。観覧車に乗せ続けるんだ。それを繰り返せ。客は金持ちになった気分でいる。紙の上でね。君は客のためではなく、君と君の家族のために、何があっても“手数料”で稼ぎ続けることだけに専念しろ。
そして1987年10月19日(月曜)、半年間の修行期間を経たベルフォートのデビューの時がやって来る。しかし、その日は1929年以来の大暴落が勃発。「ブラックマンデー」と呼ばれる歴史的な日となった。1899年創業の会社は脆くも破綻してしまい、ベルフォートは元の生活に戻った。
ある日、職探しをしていると、妻が見つけた新聞の求人広告に目がとまる。すぐに面接に出向くと、そこはガレージ規模の中小企業を扱う、いわゆる店頭公開のペニー株専門会社だった。
客はこんな会社に投資してもまず儲かることはない。だが、会社の手数料が驚異の50%であることを聞かされると、顔色を変えたベルフォートは持ち前のセールストークで、知りもしない会社のクズ株を善良で教養のない人々に次々と売りつけていく。
26歳の時にドニー(ジョナ・ヒル)らとストラットン・オークモント社を設立。社員にはドラッグ・ディーラーもいた。今度は金持ち相手のセールスを仕掛けるため、ベルフォートは自ら編み出したマニュアルとスピーチの力で会社を改革。詐欺行為にも関わらず、巨額の手数料が転がり始める。
経済メディアには「狼」と揶揄され、崇拝する従業員も増加してたちまち1000人に。ベルフォート帝国の舞台は、薄汚い倉庫から広々としたインテリジェントビルのフロアへと移っていた。
悪評も広まってすでにFBIも動き出していたが、会社の信用を打ち出すために真面目な会計士の父親を雇い入れた。
それでもベルフォートはお構いなしに、創業仲間たちとドラッグ・パーティを繰り返す。知り合った元モデルの美女ナオミ(マーゴット・ロビー)との関係も妻にバレて、あえなく離婚。
ゴールドディガー(金目当て)のナオミと結婚したベルフォートは、新しい妻にココ・シャネルのために建造されたという豪華クルーザーをプレゼントする。豪邸に別荘2つ、高級車6台にサラブレッド3頭、プライベートジェットにヘリコプター。一方で、酒もギャンブルも娼婦遊びもやめられない二重の散財生活。
富と権力を得た男はやりたい放題だった。さらに幹事会社となったIPO(新規公開株)も不正操作して大儲け。金はスイスの銀行に隠せばいい。そんなベルフォートにいよいよFBI捜査官が接触してくる……。
1998年、ベルフォートは証券詐欺や資金洗浄によって起訴された。司法取引で創業仲間を売ったものの、22ヶ月も投獄された。回想録はこの時に書きとめられたものだ。
ベルフォートを演じたディカプリオは、この映画の製作者でもある。人間の欲と本性に惹かれたそうだ。本人と初めて会った時に「本当にあんな酷い状況だったのか」と質問すると、ベルフォートは言った。「いや、もっと酷かったよ」
彼はとても正直で、あの時代に自分がやったことをまったく隠そうとしなかった。そしてどう酷かったのかをいろいろと細かく説明してくれた。それは映画の中でも使われている。
もし彼が当時のことを歪曲したり、オブラートに包んで見せようとしたら、この映画は面白くならない。そうじゃなかったからこそ、僕はこれを作りたいと思ったんだ……彼は今、新しい人生を歩んでいて、以前と違う人間になろうと最大の努力をしていると思うよ。(レオナルド・ディカプリオ)
サウンドトラックはスコセッシ映画だけにバラエティに富んでいるが、中でもブルーズが強い印象を残す。エルモア・ジェイムスの「Dust My Broom」、ハウリン・ウルフの「Spoonful」、ジョン・リー・フッカーの「Boom Boom」など、本来は富と権力とは対極にある彼らのブルーズが、この映画には妙に合っているから不思議だ。
最初のシーンの出演にも関わらず、この映画全体のムードやトーンに大きな影響を与えているのは、名優マシュー・マコノヒー。彼が口ずさむ“歌”が、ベルフォートの会社の社歌となるのも見どころだ。
文/中野充浩
参考/『ウルフ・オブ・ウォールストリート』パンフレット
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