T2 トレインスポッティング〜“どうしようもない奴ら”が未来を選んで大人になるということ
『T2 トレインスポッティング』(T2 Trainspotting/2017年)
日本では2017年4月8日に劇場公開された『T2 トレインスポッティング』は、ある世代のための映画のように思える。それは、20代の多くを1990年代に過ごし、30代をゼロ年代、そして10年代は40代として生きた世代。
1993年に出版されたアーヴィン・ウェルシュの小説『トレインスポッティング』が、ダニー・ボイル監督によって映画化されたのは1996年。当時のイギリスはブリット・ポップやクラブ・カルチャーの全盛期。この映画も大ヒットした。
日本(とりわけ東京)では渋谷のミニシアターの記録を塗り替え、渋谷系な人々を中心に、ファッションやストリートカルチャーにも多大な影響を与えた。
何よりも『トレインスポッティング』に登場する“どうしようもない奴ら”の言動が、バブル崩壊後の不景気感、オウム事件などが漂わせる世紀末感に覆われた東京の風景ともどこかシンクロしていた。元気だったのはコギャルの女子高生くらいだ。
『T2 トレインスポッティング』(T2 Trainspotting/2017年)は、前作から20年後の“どうしようもない奴ら”の姿を描いた続編。
イギリスでは1月に公開され、相変わらずチャンスと裏切りに振り回される登場人物たちに絶賛の嵐。舞台はスコットランドのエディンパラ。20代半ばだった彼らは、40代半ばになって“再会”。
レントン(ユアン・マクレガー)
20年前、4人で手に入れた大金を持ち逃げして、オランダのアムステルダムに渡った。ドラッグと縁を切り、ジムで汗を流すような人間に変わっていたと思いきや、急性肝不全を患い、結婚生活や仕事も破綻。自分を取り戻すために、過去の件を清算しようと、故郷エディンバラへと戻って来る。
シック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)
母親から継いだ潰れかけのパブを経営する裏で、金欲しさにパートナーのヴェロニカと組んで、金持ち相手に売春現場の恐喝を繰り返す日々。ビジネスを拡大するため、アダルトサウナへの進出を見計らっている。レントンとの腐れ縁でそれが現実に動き始める。
スパッド(ユエン・ブレムナー)
相変わらずジャンキー。妻子とは別居中。自殺を試みている最中に、訪ねてきたレントンに救われる。禁断症状に苦しみながらも、ヴェロニカのアドバイスのおかげで、小説執筆という才能を開花させていく。
ベグビー(ロバート・カーライル)
3人が一番恐れている兄貴分。気性の荒さで、20年前に殺人を犯して刑務所に服役中。のはずが、持ち前のズル賢さで脱走。経営学を学ぶ大学生の真面目な息子に、自分の犯罪に無理やり同行させる。バイアグラに頼らざるを得ない下半身。レントンが戻ってきたのを知って、復讐に燃える。
どうしようもない男どもに対し、女たちはしっかりしている。中学生だったオマセな少女ダイアン(ケリー・マクドナルド)は弁護士として登場。ブルガリアから“出稼ぎ”に来ている美女ヴェロニカ(アンジェラ・ネディヤコバ)は、物語に重要な役割を果たす。
また、前作の回想シーンが効果的に使われ、音楽の力も強い。映画の二大テーマ曲であるアンダーワールドの「ボーン・スリッピー」とイギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」は、新バージョンやリミックスで流れる。
フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「リラックス」、ブロンディの「ドリーミン」、クイーンの「レディオ・ガ・ガ」、ザ・クラッシュの「ハマースミス宮殿の白人」あたりの懐かしい選曲も映像とマッチしていて印象的だ。
思えばこの20数年、僕たちはいろんな変化をこの目で見つめてきた。
受け入れながら、抵抗しながら、疑問に思いながら、スルーしながら、そうやって年を重ねてきた。
何人も変わった首相。奪い取られる税金。信じられない事件の数々。決定的になった経済格差や高齢化社会。凄まじいスピードで浸透したIT革命とネットカルチャー。背が伸びるだけの街の開発。消費された膨大なヒット商品。誰かが仕掛けたファッションや流行語。それからたくさんの音楽と映画とアニメとゲーム。そして亡くなった人々……。
レントンがヴェロニカに語った言葉が、見事に代弁している。
文/中野充浩
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