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初体験リッジモント・ハイ〜ビデオテープのある箇所で必ず画像が乱れた理由とは?

『初体験リッジモント・ハイ』(FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH/1982年)

映画館へ映画を観に行くという行為が、特別な意味を持っていた頃がある。

幼い頃は、親に連れて行ってもらうアニメや娯楽映画に心弾ませたり、思春期には、恋愛やミステリー映画を観に行って隣にいる恋人にドキドキしたり。でも中高生時代に、仲の良い友達と一緒に出向いた映画も忘れられない輝きを放っている。それはたいてい硬派な青春か、学園ものだった。

学園グラフィティ永遠の名作として知られる『初体験リッジモント・ハイ』(FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH/1982年)は、今の50代半ば前後の人には特に強烈な印象を残した作品かもしれない。

日本公開時の映画チラシ

映画は1982年11月に劇場公開されているが、1985年3月に『ゴールデン洋画劇場』(フジテレビ系列)で初放映されて、夢中になった人も多かった(当時はまだレンタルビデオが普及し始めた頃)。

この映画の最大の魅力は、大人が描くステレオタイプ化された高校生像ではなく、1980年代当時のリアルな高校生ライフが描かれていた点だ。

台詞の言い回しだけでなく、ファッションや音楽などのポップカルチャーにも現在進行形の空気が漂っていた。南カリフォルニアの高校生と日本の都市部の高校生のライフスタイルはどこか似ていた。

『ザ・エージェント』『あの頃ペニー・レインと』『エリザベスタウン』などの監督として、一流映画作家の仲間入りを果たしたキャメロン・クロウ。

わずか15歳でローリング・ストーン誌の音楽ジャーナリストになっていたクロウは、大学卒業後に高校生の話を書きたくなってわざわざ人知れず高校に“再入学”した(童顔が幸いした)。

そして1年間、高校生になりすまして“潜入取材”。出版化された本がこの映画の原作であり、エピソードの数々はクロウが手掛けた脚本にも活かされた。

監督は女性のエイミー・ヘッカーリング(当時28歳)。彼女はこの映画で「時の流れは早すぎる」ことをテーマにしたかったという。

そこにはセックスや中絶、マスターベーションやドラッグといった若者たちの現実描写は欠かせない。しかし、この作品がどこまでも楽しいムードに満ち溢れているのは、多彩な登場人物と各自の言動の面白さによるところが大きい。

物語はリッジモント高校の1年の始まり、クリスマスや期末テストを経て、卒業プロムまでが、高校やショッピングモールを舞台に描かれる。

ジェフ・スピコリ(ショーン・ペン)は、仲間たちとサーフィンやドラッグに取り憑かれて勉強なんてしないし、リンダ(フィービー・ケイツ)は、妹分のステイシー(ジェニファー・ジェイソン・リー)にセックスの体験談や処女喪失のアドバイスばかりしている。

ステイシーの兄貴ブラッド(ジャッジ・ラインホルド)は、車のローンが原因でバイトの日々を送り、金儲けに余念がないマイク(ロバート・ロマナス)は、ダフ屋のビジネスを展開中。

そんなある日、真面目な童貞少年ラット(ブライアン・バッカー)が、授業で見かけたステイシーに恋をする。その他にも名優レイ・ウォルストンがハンド先生役、フォレスト・ウィテカーが高校アメフトの選手役、ニコラス・ケイジも端役で出演している。

サウンドトラックも話題になった。ジャクソン・ブラウン、ゴーゴーズ、スティーヴィー・ニックス、イーグルスの面々、トム・ペティなど映画の全編に渡って西海岸のロックが効果的に流れる。

パット・ベネターを真似る女の子たち、レコード店に設置されたデボラ・ハリーの看板、部屋に貼られたピート・タウンゼントのポスター、VANSのスニーカーなど小道具も見逃せない。

この映画が完成した直後、新進気鋭のキャメロン・クロウは、映画会社の幹部にお披露目するための試写会に参加した。

ところが、誰一人笑わない。「僕はもう終わりだ」と、5分ごとに一緒にいたガールフレンドに呟いた。映画は大コケすることが必至とされ、上映館は大幅に減らされた。クロウは何もかも忘れたい気分になった。

公開翌日、クロウはそれでも客の入りが心配になって映画館に立ち寄った。すると、若い観客で満員だった。みんなスクリーンを観ながら笑っている。それは他の街でも同じだった。人生の敗者から一転して、一生の仕事を見つけたと思ったそうだ。

また、この映画がレンタルビデオになった頃、フィービー・ケイツがビキニを脱ぐプールのシーンで必ず画像が乱れたという。みんなが“一時停止”をしていたのは言うまでもない。

ちなみに登場人物たちのその後は、エンディングで説明される。『アメリカン・グラフイティ』へのリスペクトだ。

・ブラッドはスーパーの主任に昇格。
・マイクはダフ行為が捕まって、セブンイレブンでバイト中。
・リンダは大学に進学。異常心理学の教授と同棲中。
・ステイシーとラットは恋愛中。しかしセックスはまだなし。
・ハンド先生は教え子全員がヤク中だと確信。
・ジェフは溺れかけたブルック・シールズを救助。謝礼金で誕生日パーティにヴァン・ヘイレンを呼んだ。

文/中野充浩

参考/『初体験リッジモント・ハイ』パンフレット、『ニューズウィーク』誌「シネマの20世紀」

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