美味しんぼネオ
「このおにぎりを握ったのは誰だぁっ!」
海原雄山の怒号が調理場に鳴り響く。自信のない様子のZ世代の大将は慌ててスマートフォンを取り出し、YouTubeの動画を再生し始める。
「東西新聞文化部chのシャッキリポンです!」
「喪服だ…」
「究極のメニュー」を探し求めていたはずのライバル陣営のYouTube動画に驚きを隠せない雄山。息子がまさかYouTuberになるとは青天の霹靂だった。
「この動画を参考に作ったんです!」と大将は白状した。美食倶楽部はYouTubeをリファレンスして料理を作っていた事実が露わになった。
「YouTuberの料理など食える訳ない!貴様は料理を愚弄する気か!」
おにぎりを投げつけ海原雄山は料亭を後にした。調理場には山岡士郎の「究極のおにぎりランキングを発表する。理由はあとでわかるよ…」という音声が悲しく響き渡っていた。
海原雄山は焦っていた。新聞の発行部数は年々減少していき、「究極vs至高のメニュー」という特集は経費削減のため打ち切りを告げられていたのだ。何か起死回生を、と思い彼なりにFacebookに手を出したものの高齢化が著しい界隈相手ではバズを起こせる訳なく意気消沈する日々だった。文化部という存在自体が今の時代もう余裕がないのだ。美食倶楽部料理人も外国人実習生を受け入れグローバリズムを謳っていたが、維持費の捻出のためであるとは口が裂けても言えない。
自宅に帰り落ち着きを取り戻すと型落ちアンドロイド端末で改めて東西新聞のYouTubeを開く。東西新聞は究極vs至高がカネにならないと判断したようで、山岡栗田のカップルchに方針を切り替えYouTubeチャンネルを始動していたのだ。新聞社オフィシャルであるのにも関わらずカップルを公言する栗田と山岡のコンビはそのキャラクター性も含めて評判を呼び、バズりにバズりを繰り返しているようである。特にポップな雰囲気であるのにも関わらず美食倶楽部や帝都新聞を徹底的に断罪する企画は好評を博していた。
美食倶楽部の料理人たちも山岡たちの動画を参考に料理を作っていたとは思いもしなかった。出されたおにぎりに日頃のストレスもあり、手にも付けずに怒りにまかせ投げつけたものの、まさか上記のYouTube企画の1位である「アンキモおにぎり」であったとは。
「士郎め!」と怒りをぶり返すがこの現実は受け入れなければならない。美食倶楽部も東西新聞の傀儡に陥っていたとは不覚であった。
怒涛の勢いでその後反論を紙上で公開したが、その次の日の動画のサムネは「帝都新聞の新聞紙で至高の焼き芋作ってみた!」というアンサー動画であり、海原雄山はさらに憤怒した。