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電撃傷へのアプローチ

Dr.さいころのメモ帳

はじめに

疫学

  • 電気熱傷および落雷による損傷は、米国では毎年3,000件の入院があり、熱傷の3-4％を占めています

  • 最大40％が致死的で、年間推定1000人が死亡しています（J Safety Res．2003;34(3):241-8.）

  • 電気傷害の発生率は乳幼児と成人（就業可能年齢）の二峰性です　10代で減少し、成人に入ると再び増加します　これは家庭内での小児の誤飲や事故と電気関連に働く成人の労災によって起こるためです

  • 曝露した原因によって電圧が変わります

    1. 低電圧：600-1000V未満、家庭内でのコードやコンセントとの接触がほとんどで小児に多いです

    2. 高電圧：1000V以上、高圧送電線では10万V（ヒ○カチュウ）を超える電圧がかかります　成人に多いです

    3. 雷：1000万Vを超える電圧が数ミリ秒かかります

電撃損傷のメカニズム

  • 電流や電圧、接触時間や組織の抵抗が損傷に影響します

  • 感電した際にいくつかの事象が発生します

    1. 直接損傷：通電により致死的な不整脈（心室細動や心静止）が発生します

    2. 組織損傷：身体が通電した際の熱エネルギーによる損傷です　抵抗の高い組織（皮膚や脂肪）は熱が発生し凝固します＝熱傷　抵抗の低い組織はそのまま電流が伝わります　そこで細胞が破壊されると横紋筋融解症や臓器障害を来します

    3. 二次的外傷：直流電流では筋痙攣を一度引き起こし、そこから飛ばされることがあります　例えば高所で通電した場合にそのまま転落し外傷を受けることがあります

  • 交流電流の場合には複数にわたり筋収縮が起こり、通電するものから手を離せず通電時間が長くなる傾向にあります

  • 電撃傷では「入口」と「出口」があり、その間にある臓器は損傷を受けます　心臓を通った場合には不整脈を来す場合があります

  • 落雷は1000万Vを超える電圧が1/10－1/1000秒通電する直流曝露であり、他の電撃傷にはない特異的な損傷が存在します

－Contact strike：落雷に接触している他の物体から電流を受けることです　電気コードを通じて屋内でも発生する場合があります
－Side-flash/splash：他の物体に雷が接触し、その際に電流が空気中を飛び越えて付近の被害者に及ぼす損傷です　アーク熱による損傷の一種です
－Ground strike： ストライド電圧は被害者の雷との接触点に距離があるとき（例：地面と浮かせた足など）、電位差が生じ電流の流れが促進されることを言います　この電圧は周囲にも影響するため、複数の被害者が出ることがあります
－フラッシュオーバー効果：雨や汗で湿った皮膚では抵抗が減少します　その際に皮膚を急速に伝わる電流のことをさします　皮膚を伝わり電流が地面に伝わるため、電撃熱傷としては軽度に見えます
－Keraunoparalysis：フラッシュオーバー効果による末梢神経や血管の損傷により、一過性の感覚障害や痙攣を伴うことです　下肢に好発し数日で改善することが多いですが、不可逆なこともあります
－衝撃波：落雷により周囲の空気が急速に加熱し、最大20気圧の衝撃波が発生します　二次的な外傷をもたらす場合があります

臓器別の損傷

【心臓】

  • 電撃傷は心室細動による心停止を起こすことがあります　電撃傷後の不整脈は推定15％ほどで出現するとされています（Am J Cardiol. 1962;10:223.）

  • 感電死における致死的不整脈は実験結果からほぼ全例心室細動が生じるとされています　落雷は例外的であり、呼吸停止からの心静止やPEAが起こるとされています（Heart Rhythm O2. 2023 Jun 9;4(7):457-462.）

  • その他には伝導障害（房室ブロックや徐脈）、心筋障害（冠動脈攣縮での虚血）を引き起こすことがあります

【中枢神経系】

  • 電撃傷は呼吸停止を引き起こします　これは呼吸中枢の正常な電気信号が障害されるためです

  • 末梢神経障害による感覚麻痺、運動麻痺を認めることがあります　遅発性に数か月遅れて症状を引き起こす場合があります

【皮膚】

  • 乾燥した皮膚では電気抵抗が高く、熱が生じるため熱傷を生じます　電気抵抗が高いため、臓器の電気障害を保護する役割を持ちます

  • 濡れた皮膚では電気抵抗は極めて低く、多くの電流を臓器に流すため臓器障害を引き起こしやすいです　臓器障害に比して外表からの熱傷が軽度に見えます

  • 小児がコードを噛んで感電した場合には口唇熱傷を引き起こします。口腔内の遅発性の出血が起こる可能性があります　帰す場合には翌日にフォローアップの受診をさせましょう　最大24％で出血するとされています（Emerg Med Pract. 2018 Nov;20(11):1-20.）

  • 落雷ではリヒテンベルク図形と呼ばれる枝状の形をした熱傷を呈します

簡単なイメージ図　このような形でミミズ腫れのような皮疹を認めます

【筋骨格系】

  • 高電圧に曝露した場合には電気抵抗が高い骨やその深部組織である。発生した熱により骨膜の熱傷や骨の壊死を生じます

  • 深部組織の壊死と浮腫によりコンパートメント症候群を引き起こします

  • 筋破壊が起こると横紋筋融解症や腎障害を引き起こします

【眼や耳】

  • 落雷による衝撃で50-80％で鼓膜破裂が起こります（J Laryngol Otol.2001;115(1):4.）

  • 白内障や硝子体出血、視神経損傷を落雷での損傷後に引き起こす場合があります（Crit Care Clin.1999;15(2):319.）

【血管損傷】

  • 血管の電撃凝固により血管損傷を引き起こすことがありますが、それはまれです

  • 既報では遅発性の動脈血栓、動脈瘤が報告されています

各臓器の損傷をまとめたものです

電撃傷に対する治療戦略

  • 病院前でのトリアージでは、心停止患者を優先します　VFであることがほとんどであり、蘇生の可能性があります

  • 電線などの曝露の場合には電源をまず解除します　それまでは傷病者に近づかないでください　二次被害を防ぐためです

  • 傷病者を救出したら速やかに撤退します　落雷の場合には再度の落雷の恐れがあります

  • 心停止の患者に関して、瞳孔から神経学的予後を推定するのは誤りです　脳損傷ではなく自律神経の障害で瞳孔異常をきたしている可能性があるからです

  • 初期の輸液ではほか疾患の治療より多く必要になる可能性があります　筋肉の損傷により横紋筋融解症をきたすからです　尿量は0.5-1.0ｍL/kg/ｈを目安に輸液するのがよいとされます（Electrical Injuries：PMID: 28846317）

  • 広範囲の損傷が予想されるときには、重炭酸塩を1～2mEq/kgの投与を検討します

  • 筋肉の損傷にともないコンパートメント症候群をきたす可能性があります　いわゆる5P（疼痛、知覚鈍麻、蒼白、脈拍消失、麻痺）に注意します

  • 高電圧の曝露した症例では少なくとも12－24時間は心電図モニタリングをします　受傷から12時間で心室性不整脈を生じた例があります（J Trauma. 1986;26(2):166.）

おわりに

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