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ナチノマチ・ヒト① 川柳
那智勝浦とホテル浦島は、まさに二人三脚で発展してきた町と宿。
その歴史をより深く知るため、実際にマチのヒトに話を聴く
シリーズ「ナチノマチ・ヒト」
祈念すべき第一回目は紀伊勝浦駅から徒歩一分の場所で長年営業を続ける
名店「川柳」さんを訪ねてきました。
お食事処 川柳
今から64年前、大阪で五本の指に入ると言われた腕利きの板場さんが、将来性を見込んでこの地にやってきました。
昭和36年の創業当時、まだマグロを提供する店が少なかった那智勝浦で、鉄火山という酢飯にマグロをのせた丼ぶり(現在はマグロ丼)を看板メニューに掲げた川柳は、まさにこの地の「元祖」と呼ぶにふさわしい存在です。
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最高の料理を提供してくださる代表の田宮さんは三代目。
マグロの目利きは仲買人の腕にかかっています。尾を切って品質を見極め、市場で競り落とすのは仲買人だけの特権。老舗ならではの信頼関係で、優れた目を持つ仲買人から常に良質なマグロが届けられます。
冷凍マグロは一切使用せず、必要な分だけを仲買人に依頼する仕入れ方式で鮮度を保っています。全国でも生マグロを提供できる店は限られていますが、その中でも特に新鮮なマグロを味わえる名店として知られる川柳。長年の実績の背景には、地元の良質な食材へのこだわりが光ります。
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美しい赤身は見るだけでうっとり。もっちりとした食感は、スーパーでは決して出会えない格別の味わいです。「大間のマグロより美味しい」という声も少なくないとか。ホテル浦島への行き帰りに、ぜひ立ち寄っていただきたい逸品です。
女将さんの魅力も、このお店の大きな特徴です。「お客様との会話が何より楽しい。食事だけでなく、ここでの時間を楽しんで帰ってほしい」と語る笑顔が印象的です。
長年の商売で苦労も多かったそうですが、
「来てくださるお客様は気のいい方ばかり。少し話して笑ってもらえると幸せ」
と語ります。この温かな人柄があってこそ、また訪れたくなる居心地の良い空間が生まれているのでしょう。
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川柳はホテル浦島の団体客向けに弁当も提供しています。
「ホテル浦島があったからこの町がある」と女将さん。
「あの人はすごい人だった」と元社長の浦木清十郎氏への深い感謝の念を今も持ち続け、ホテルで働く人々のことを家族のように語ってくれました。
マグロ料理をはじめ、刺身定食やオムライスなど豊富なメニュー、2階には団体席も完備。様々な場面で利用できる川柳は、ホテル浦島とともに那智勝浦の魅力を伝え続けています。
取材を終えて
今回、川柳を取材して特に印象に残ったのは、地域との深い結びつきです。64年という長い歴史の中で、単にマグロ料理を提供するだけでなく、那智勝浦の発展とともに歩んできた様子が随所に感じられました。
特に印象的だったのは、女将さんがホテル浦島について語る際の表情です。
「ホテル浦島があったからこの町がある」という言葉には、単なる取引先以上の深い絆が感じられました。
また、品質へのこだわりも素晴らしいと感じた点です。冷凍マグロを使用せず、信頼できる仲買人との関係を大切にしながら、最高品質の生マグロを提供し続けている姿勢は、まさに職人気質そのもの。
このように、川柳は那智勝浦における「食」と「人」をつなぐ重要な存在として、これからも町の魅力を伝え続けていくことでしょう。
今回の取材を通じて、地域の歴史を紡ぎ、未来へとつなげていく店の在り方について、多くのことを学ばせていただきました。