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【フィールドノート】取手滞在1~2日目|2024.8.13-14|阿部健一

8/13(火)

キャリーケースを引いて、16時過ぎに取手駅に到着し、2分後に発車する井野団地行きのバスに乗った。東口の降り口付近の車両に乗れば2分あればバスに飛び乗れるみたいだ。バスの時刻表は事前に調べておいた。基本的に1時間に4本出ているようだ。最終が22時なので、22時まで都内で勤務の日にはバスがない。自転車で駅まで来ておくか、歩いていくか。
バスには「井野団地」とだけ大きく表示されている。都営バスのように記号とか数字とかはなく、井野団地。実際団地と駅前の往復路線なのでその通りなのだけど、ささやかな見慣れなさも感じる。

どの停留所が平井さんのお部屋の最寄りかわからず、井野2丁目で下車をした。間違ってはいなかったみたいだが一つ手前のショッピングセンターでもよかったのかもしれない。他のお客さんはショッピングセンターまでで全員下車していて、井野2丁目まで行ったのは自分ひとりだった。

この日の目的は荷物を運び込むことだったので、キャリーケースをかついで4階まで上がる。平井さんは留守にしており、お預かりした鍵で中に入り、まだ全然身体化されていない部屋のなかをうろうろしながら衣類、食器、ハンガー、延長コード、クリップライト、お風呂セットなどを配置していく。ここから数日都内の仕事が立て込んでいるので、この日は生活していけるように物資を揃え、諸々の「やり方」を把握しようと考えていた。まずはどこに行けば何が買えるのか、それがどのくらいの距離なのか。羽原さんからお借りした自転車に乗って近い順番にお店を巡った。

最寄りのコンビニ、セブンイレブンへ。ここは24時間営業ではなく23時で閉店する。そばには常磐線の踏切があり、向かい側はぶどう畑?キウイ畑?だった。暮らす場所、農地、工場がその存在を感じられるほどには近くにあるというのが郊外の風景なんだろうか。
セブンイレブンの近くに「サンフレック」という看板の残された空き店舗があった。生鮮品を売っていたお店のようだ。井野団地の周辺では空き店舗や空きテナントをよく見かける。中を覗くと、たしかにかつてここには人が行き交っていたこと、だれかの生活を支えていたことが想像された。AM8〜PM1という営業時間も、そうである必然性がなにかあったんだろう。

線路際を離れて南へ。スーパーで一番近いのがマスダ。お寿司がやたら安かった。狭くはないしお客さんも入っているけれど、なんとなく店内が暗い。何ヶ所か明かりを落としているコーナーがあるようだった。
マスダに自転車を停めたまま平井さんにおすすめ?された近くのローソンへ。棚が妙に少なく、並んでいる商品も普通のコンビニと比べると少ない、不思議な感触のローソン。

次にミスターマックスへ。マスダからミスターマックスへ抜けていく住宅地は整然としていて、井野団地のほうとは違う思想でまちが作られているかんじがした。ミスターマックスは、生鮮も売っているホームセンターのようなものを勝手にイメージしていて、だからハンガーをかける物干し竿も買えるかなと思っていたのだけどホームセンターというよりも超巨大なスーパーとテナントの集合体だった。
仕事で遅く帰ってきても何かしら作れる状態にしておきたいのでどこかしらのスーパーで食材を調達予定だったが、ミスターマックスは野菜がすごく安かったので、冷蔵庫のキャパシティを心配しつつここで野菜や肉を購入した。店内はかなり賑わっていた。

スーパーに行くと自分はまず鮮魚コーナーを見る。ミスターマックスの鮮魚コーナーは解体される前の魚がたくさん扱われていた。マスダにはほとんどなかったし、このあと向かったヤオコーにも丸の魚はほとんどなかった。丸の魚を買える場所があるのはうれしい。年に一回くらい、イナダを一匹買ってきて半身は刺身半身は鰤しゃぶにして食べることがある。バラバラに買うと高くつくものも自分で手がけると安くなる。
一周してもお米を見つけられなかったので店員さんに聞くと、いま入荷が減っていて指差した方向のお米コーナーになければもうない、ということだった。コーナーにいくとわずかしか売っていない。結局ヤオコーにもお米の選択肢はほとんどなく、2kgの小さな袋を1つ買った。

卵をかごに入れて走ったからなおさら感じたのかもしれないけれど、取手は路面がボコボコしている場所が多い。井野団地の近くもそうだし、ミスターマックスからケイヨーD2方面に向かう歩道も街路樹の根っこが地面を押し上げてボコボコになっている。これも郊外の風景なんだろうか。父方の実家の富山県富山市もこんなかんじだったなということを思い出す。

ヤオコーの通りの反対側は田んぼ。都市計画の境界線というかんじがする。大通りを離れて住宅地を走るときもぽこぽこっと田んぼが出現した。田んぼのにおい。これも富山市の実家の近くを思い出す。青い稲穂がすくすくと育っていた。

ケイヨーD2方面から井野団地に戻るルートは初めてだったのでナビに案内をしてもらう。去年の5月にはじめていこいーのへ案内してもらったときは、想像していたよりもこじんまりとした団地だと感じた。それは最近の高層団地と比較して5階建ての背が低かったからそう感じたんだと思う。何度もいこいーのに行ったり土地勘が身についてくるなかでも、決して大きな団地ではないという捉え方をしてた。
しかし井野公民館側から夕方に団地へ戻ってくるとここはどこだかわからず混乱した。似たような建物が果てしなく広がっていて、ナンバーが振られていてもその法則を知らなければ意味がない。広さは面積だけでなく認知や知覚、見通しの立たさなによるものでもあるとするとこのとき、井野団地の広さを経験しなおしたように感じた。わたしはこの団地のことをまだほとんど知らない。ここにはたくさんの生活があるということが明滅する部屋の明かりから感じられるが、やはりそのどれも知らない。どこかから音が聞こえてくるが、姿は見えない。

食材をしまい、駅前のダイソーに向かおうともう一度部屋を出たとき、部屋の前でアジア系の若者がいてびっくりする。What are you doing?と声をかけるが苦笑いを浮かべるだけで返事はなかった。だれかと電話をしているようだった。階段室タイプの住棟で上には住んでいるひとがいないから誰もここまで来ないと思っていたのでなおさら驚いた。

自転車で駅へ。やはり坂がきつい。自転車では乗り越えられず結局押して上がる。その足で駅の近くの駐輪場を物色する。1ヶ月契約してしまったほうが楽そうだが、どうだろうか。
リボンビル4Fのダイソーの隣にはクレーンゲームやガチャガチャがたくさん並んでいた。いろいろな音が鳴っている分、妙に静けさを感じた。3Fでは昭和10年の取手駅のジオラマ展示が行われていた。

駅前から団地に帰りながら、『サンセルフホテル』はこの団地の一室をホテルとしてゲストをお迎えするプログラムだったんだよなあ、と思う。この団地で。わたしはただ荷物を持ってきてひとりで買い物をし、このあと料理をつくって眠る予定だから『サンセルフホテル』の追体験はまったくしていないけれど、でも、ここで、だったんだなあと思う。団地は太陽が出ている間も沈んでからも静かで、セミの声すら少し遠いここで行われた様子を想像すると、キラキラしていただろうなあと思った。だれも見たことのないハレの日で、単なる「住民」でなくなる日で、この団地を別のものに自分たちの手でしていく。一生懸命歩いても駅まで15分以上かかるここは鉄道に乗ればどこにだっていける首都圏の交通システムから少しだけ離れている。特に年配者やこどもにとってはそうだと思う。この場所を一日だけ変えることに宿る意味は、都心部の住宅地ともまた少し違ったものがあったのかもしれない。

今日見たもののうち、TAPがはじまった頃からあるものはどれだろう。だれかのTAPの記憶のなかにも登場する風景はあったのだろうか。これは取手のリサーチではなく、TAPクロニクルを内側から見ていくためのリサーチなのだ。まだ、なにもわからない。

もうひとつ。このまちでの暮らしが始まった感じがしないなあ、とも思った。それはひとりだからだろうか。ひとりで荷物を運び込み、ひとりで今日の食べ物を探し歩いた。今日、朝からだれとも会話をしていない。土地や地域なるものに入ったのではなく、あくまでわたしという個がたまたま井野団地にいるというかんじがする。以前豊島区でレジデンスをしたときは、移り住む度にもう少し自分の軸をいじったような取り返しのつかなさがあったのだけど、まだ取手ではそれを感じない。豊島区のときは移り住んだことを周囲に積極的に伝えて交流をしていたけど、今回はそれとは少し目的も異なる。どうしたら「住んでいるまち」を実感し始めるのだろう。それとも「住んでいる感覚」はないままいくのだろうか。

お米を炊いて、ポークソテーと、玉ねぎとアスパラを炒めたものを食べた。悩んだ末にお寿司も魚も買わなかった。


(後日追記)

8/14(水)

朝食は昨晩多めに炊いたごはんとインスタント味噌汁と目玉焼き。
コンロの火力の調節がけっこう難しくて、弱火にしようとすると消えてしまう。結果焼きすぎてしまう。そんなようなものを朝食べた。調理をせずとも食べられる何か簡単な食べ物を用意しておこう。

5Fのサービスフィールドに移動し、8月11日と昨日8月13日のnoteを書いた。水まわりを撤去した代わりにアトリエのような内装にされたサービスフィールド。肌触りがよく気持ちがいい。4Fから持ってきた冷たいお茶のグラスは一瞬で結露でびしゃびしゃになる。塗装をしていない天板にグラスを置いたときの丸いシミはなかなか取れないので、早めにコースターを買おう。

思い出しながらnoteを書きつつ、昨晩チェックしてきた駅前の駐輪場を調べる。1ヶ月2500円と書いてあったが調べてみると日割りがないらしく、8月半から9月半ばまで使うときは2ヶ月分になってしまうようだ。そうなるとその都度100円や200円を払ったほうが安上がりだ。どれくらい留置きしていくだろうと想像したが、予想がつかずひとまず駐輪場の契約は保留とした。

そのあとは地形を検索する。井野団地から駅前までは坂を登って降りる。自転車を一度降りないと登れないほど急だ。見てみるとおよそ15mくらいのアップダウンみたいだ。どうにか脇道に入ることで回避できないかと調べたがダメだった。

利根川のほうへ大きく迂回するしか方法がないが、それだと距離が倍近くになる。何度か行き来した経験から駅と団地は歩けなくはない距離という認識だったけれど、日常を送り始めるとこの坂が大きな壁となって立ち会わられる。1回や2回、それも涼しい時期だったらどうにかなるだろう。でもこの地形は日常的な行き来をためらわせ、実際以上に心理的な距離を生んでいるような気がした。よっぽどヤオコーやケイヨーD2、田んぼエリアのほうが心持ちとして近い。
TAPにもゆかりのある「取手の坂道愛好会」という方々がいて以前りぼんビルで展示を見たこともあるけれど、これが彼らの愛し好んだ坂なのですね。悟りの境地なのだろうか。

お昼はベーコンとナスとアスパラを塩麹で炒めたものを食べた。

昼過ぎから都内で待ち合わせがあったので13時半頃に団地を後にする。バスはちょうどいってしまったので徒歩で。ざくざく歩けば15分くらいだったけれど駅前に着く頃には干からびそうになっていて、ローソンで水とタオルを買って常磐線に乗った。
取手から都内に通勤している方々は必ずしも駅の近くに住んでいるわけではないだろう。そういう人々は自宅と駅の行き来をどうしているのだろうか。駅から駅への距離よりも、駅と家の距離に郊外を感じ始めている。

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