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【フィールドノート】取手滞在23〜26日目|2024.9.19-22|阿部健一
9/19(木)
都内でこの日にスタートする案件があり夕方まで現場にいたため、池袋を19時くらいに出て取手には21時前に到着する。この日から三連休までが今回の取手・井野団地滞在の最後のフェーズ。幸い湾岸部の職場への通勤は数日お休みなので、ほとんど取手にいられる予定だった。
2ヶ月くらい仕込んでいた企画が無事に始まった〜お疲れ自分たち〜という労いもありお酒を飲もうというマインドで常磐線に揺られる。コンフリと思ったが先に何か食べたかったので東口のむらこ志屋へ。隣のおじさんがチャーハンをおいしそうに食べているのを見てチャーハンと瓶ビールを注文する。
おじさんとお店のご主人は「イオンモールはどうなるのかね?」という話をしていた。テレビでは中国で日本人のこどもが殺されたというニュースが流れていた。取手にいてテレビに触れるのはむらこ志屋と寺田屋だけだったな。テレビは、基本的にいまここではない場所の話をしているはずなのに、テレビのある光景にむしろローカル感を覚えるのはよく考えると不思議だ。
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さくっと食べたらコンフリへ。カウンター客4人くらいで割と落ち着いていた。クラフトビールを飲みながら、あれ、初めてでしたっけ?いえ、TAPのひとと何回か来ていて、というようなやりとりをする。
お客さんがポロポロと帰宅し、女性客と自分だけになったらなんとなくお店のひとと3人でいろいろしゃべった。女性は取手生まれ取手育ちで、白山商店街には昔50円で1ポイントたまるポイントカードがあって制服を買うと台紙何枚分もたまったとか、駄菓子屋があったとか、学校で取手の歴史を習ったときに坂が多いからお城も多かったということを知って「取手すごいじゃん」と誇らしくなったこととかを教えてくれた。すでにできているコミュニティに加わることにはけっこう苦手意識がある(あるいは潜入調査中みたいな気分を事前に用意して入る)のだけど、面白い人だったので前からの知り合いだったかのように楽しくお酒を飲んだ。「太平海」という日本酒がおいしかった。
話のなかでY.Tというお店を知り「私いまから行きますけど一緒に行きます?」と誘ってもらってついていく。Y.Tは東横インの前の道を入ったところにあった。外から店内が見えないつくりなので自分ひとりだったら入ってなかったと思う。
心地のよい暗さのバーで、半分寝落ちているんじゃないかというおじさんがひとりカウンターで飲んでいた。久々にバーに来たことがうれしくて、ニコラシカとギムレットを飲む。Y.Tのマスターも昔、井野団地に住んでいたと教えてくれた。あとここでもイオンモールの話が出た。最近、市のWEBサイトからページが消えたらしい。他にもいろんな話をしたと思うけどあまり覚えてない。
0時くらいになって「阿部といいます」と自己紹介をした。
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お酒は好きだけど、自分はお酒のコミュニティに加わったことはない。家の近くにいる時間が最近は減っているから、同じまちでルーティンの行動を取りにくいというのもあるけれど。
お酒の場でのコミュニケーションは社会人的な前段をスキップして友達のようになれるんだなと感じた。こどもの頃に近所の公園の砂場とかで名前も知らない子となんとなく一緒に遊ぶみたいな。うまくいけば。名前を知らなくてもひとは遊べるし、むしろ知らないほうが純粋に遊べたりする。そこに地元民ではない自分のような人間も加われるというのは嬉しかった。地元民でないから、(TAPという共通言語はあるが)どこのコミュニティにも属していないからお互いに気楽だというのもあるのかもしれない。
この土地と、これまでとは別のレイヤーで関わりを持ち始めたという感覚も残った。豊島区のときとも似ているが、豊島区は物理的に自宅と近かったので今にして思えば生活圏の拡張という側面もあった。取手は生活圏というには遠いすぎるし、かといって旅先とも違う。こうして関係性が名づけえぬものになってきたかんじは楽しい。
1時くらいに解散し帰宅。クタクタで眠くってばーっとシャワーを浴びたらすぐに眠った。
9/20(金)
8時くらいに目を覚ます。頭と全身が痛い。二日酔いだ。布団をたたんで水を飲み、畳の上でしばらく休みながら平井さんがいこいーのに出勤していくのを見送った。
やっと10時くらいにマシになってきたので昨晩西友で買った見切り品のサラダと冷奴を食べ、洗濯へ。肌を差すような日差し。コーヒーを飲む気分ではなかったので洗濯が終わるまでランドリーで待ちながら『サンセルフホテル」のインタビューを読み進めた。このランドリーでの洗濯もこれが最後だろう。
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ランドリーへの道すがらには野菜の直売所があって、並んでいる日とそうでない日がある。結局一度も買わなかったが、この日はゴーヤーやナス、冬瓜が並んでいた。田んぼだらけの取手で野菜の販売は地味に珍しいのかもしれない。そもそも家庭菜園以外の畑をあまり見ない。
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洗濯物を干したら12時頃。いこいーの+Tappinoへ。前回は座れないくらいたくさんの人が集まっていたが、この日は半分が埋まるか埋まらないかぐらいだった。
お客さんの話を片耳で聞きながら『サンセルフホテル』のアルバムを2017年から2014年へ、最終回から初回へと遡ってめくっていく。インタビューを読んでいるとそこにいろんなことが断片的に書かれているので、その答え合わせをするようでもあった。場所や間取り、人物を知っていると「ここで」「あそこで」「あのひとが」ということが最初に浮かぶ。理解が深まっているのか、想像の余白が減ってきているのか、なんともいえない。
そうえいば大昔、たしかArts Chiyoda 3331で受講したなにかのレクチャーでサンセルフホテルを知ったとき井野団地はもっと大きな団地を想像していた。練馬生まれの自分にとって当時団地といえば光が丘団地を思い浮かべていたことも多分ある。
途中、羽原さんも顔を出され、常連さんにいろいろと話しかけられていた。
13時くらいに黒騎士さんが到着。会えるといいなと思っていたのでばっちりお会いできてうれしい。TAP2008の布団のエピソードやクレーンゲーム用に今つくっている折り紙の指輪のことなどを教えてくれた。
閉店間際、「TAPをボードゲームにするとしたらどうしましょう?」と尋ねたら前に黒騎士さんがつくられたすごろくを見せてくださった。対戦型ではなくて協力型、サイコロを使わずに全部カードでできるなど、細やかな工夫が行き届いている。黒騎士さんのゲームは黒騎士さんだからつくれるものだけれど、黒騎士さんの「こうしたい」というこだわりより遊ぶこどもたちのことを考えたつくりになっていて、それがとても素敵だと思う。
TAPのすごろくがあったとして、それはどうなったら「上がり」なんだろう。
いこいーのに集まる年配のみなさんの印象もこの日はこれまでとは少し違って見えた。みなさんすぱっと集まり、すぱっと帰る。「のんびり」とか「日常」から想起されるよりもずっと積極的にこの時間は生み出されているのかもしれない。日常は放っておいても回るものではなく、繰り返し繰り返し手をかけることでようやく維持されるものだよねということを思い出すなどする。
15時にOMONMA TENTを予約していたので、一旦部屋に戻って日焼け止めを塗ったら再出発。
道すがら、パペエテのたまごサンド屋さんに寄って柑橘のドリンクを買った。たまごサンドは明日か明後日に食べに来よう。水分とミネラルがぐんぐん外に出ていく状況での柑橘ドリンクはおいしいしうれしい。
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先月藝大まで行ったときとは別の道で行こうと思い、利根川の土手の上を進む。トノサマバッタがすごい。自転車が近づくとみんな草むらに飛んで逃げるし、こちらにぶつかってくるのもいた。総じて人間より昆虫が多い。
TAP2007にM1を活用した展望台を置いたら好評でその後恒久設置されたという展望台にも立ち寄った。もうちょっと高くしてもよかったのでは?と思わないでもない高さ。
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利根川沿いにいけばどうにかなるだろうと思って相野谷川の合流地点も越えて進むと土手の上の道が終わってしまった。グーグルマップは「引き返せ、さもなくばこの道沿いに川の方へ降りていけ」という。土手の上はひらけているが、下ったら野生の世界。はっきりと、明らかに、湿度が急上昇した。誰もいないし、普段ひとが通っているところとも思えない。写真で見るよりもスリリングで、緊張感のある場所だった。
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すぐ隣のヤブのなかで大きな生き物が動いたとしか思えない「がさがさっ」という音がする。宮ノ前公園で見たイノシシ注意看板を思い出して冷や汗が流れる。何も飛び出てこないと判断し一気に駆け抜ける。タヌキか、アライグマか、イノシシか。相変わらずバッタもすごい。早くこの道を抜けたい。
グーグルマップが「ここを曲がれ」という場所に道はなかった。
うかつに入り込んだこの道は、まちに戻ることがほとんど想定されていない。親水公園やサイクリングロードのようなものだと思っていたが違ったみたいだ。だったらサイクリングロードのような顔をしないでほしい。
余裕を持って団地を出たのに早めに予約時間も近づいている。次の曲がり角こそ現存していてくれ。道はあった、でも空を樹木が覆っていてひどくぬかるみ、スリップしないように細心の注意を払う必要があった。マップ上でこの曲がり角は「神出しの渡し 跡」とピンが打たれていたが現場には何もなかった。
森を抜けると人家が見える。助かった。
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15時ちょうどにOMONMA TENTに到着する。おしゃれで、文化的で、清潔感のある建物だった。
今月のスペシャルをオーダーした。お茶とデザートもつけてみた。サラダ、鶏肉、パン、どれもとってもおいしい。開催中の展示もじっくり見る。
値段がついていると絵を見るときの身体が変わるなーと感じる。購入して自宅に飾るという選択肢が、絵に対する当事者性を上げる。演劇はどうだろうか。チケット代を払ってもらっているがそのことは何か当事者性を醸せているのだろうか。興行と販売は違う論理だといえばそれまでだけれど。
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さきほどまでいこいーので『サンセルフホテル』というアートプロジェクトの記録に触れていたから、逆説的に絵画という作品、展示という行為のパワーを感じる。作品をつくって見せる、販売もする、そういう美術をめぐるコミュニケーションのメインストリートを自分は通ってきていない。かなり早い段階から「そうでないもの」のほうに親しんできた気がする、出自が美術の畑でないからそれはいい悪いではなく単なる事実でしかないけれど、最近パートナーが「現代アートは美術全体のごく一部」と言っていたことも思い出す。
絵画や彫刻があって、現代美術というものがあって、アートプロジェクトがあって。モノからコトへと拡がってきた美術の周縁はこの次どうなっていくんだろう。そこから先は美術教育やアウトリーチがカバーする世界なのか、それとも社会とアートの次の生産様式があるのか。TAPは?
お店を出て、ここまで来たのだからと小貝川のほうまで行ってみることにした。小文間の道は路肩も歩道も草に覆われている。不思議な光景もあった。茶色い小山はなんなんだろう。砂? もみがら? 米糠?
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小貝川にかかる橋まで出る。水面が空を映し出していた。境界線は複雑なグラデーション。
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利根町に渡り、小貝川に沿って遡上する。草、草、草の世界。
水門の上を渡って取手市に戻り、ここまで来たなら高須まで行ってみようと北へ向かう。
このあたりは去年の春先に大内さんの運転で案内いただいて以来だ。集落を抜けて田んぼに入るあたりを「おすすめ田んぼビュー」といって紹介してくれたと思う。白鷺があちこちにいて、我が物顔で飛んでいた。どこかで何かを燃している匂いがする。そう、郊外には都市にない匂いがある。
遠いな、高須。
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TAKASU HOUSEの前を通り過ぎたあたりで帰り方を検討しはじめる。車の往来の多い道を西にまっすぐいくと藤代に着くということだったので、ひたすらいく。日が傾くにつれ空中の小虫がものすごく増えてきて目や口に入ってくるようになったので、ひたすら小虫を払い落としながら進んだ。
藤代駅まで出る頃には日はほとんど沈んでいて、暗い旧水戸街道を延々と南下する。
帰宅したのは19時くらい。たぶん18kmくらい自転車に乗っていたんじゃないだろうか。ある地域の外周を一周するのに一時期ハマっていて、横浜の若葉町、埼玉県富士見市、豊島区でやったことがある。取手は広すぎるし境界線がほとんど川だし暑すぎるしで見送っていたが、結果的に取手市の東半分は一周できた。だからなんだということはないのだけど、意味があるのかないのかわからない目的に向かって体を追い込む経験はやめられない。
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ドロドロだったのですぐにシャワーを浴び、またサンセルフホテルのインタビューを読み始め、やっと読了。まだ印象などをことばにすることができない。団地のひと、外のひと、若いひと、年配のひと、深く関わったひと、スポットのひとなど、属性を付与することで構造として整理することはできるのかもしれないが、そこに「生活」が肉薄しているとなるとためらいが生じる。東京芸術祭の『くらしチャレンジ(大人とこどものための戯曲集)』で、誰かのくらしのエピソードをそのまま扱うことはせず全てフィクション化させたことを思い出したりする。
フィクション化。寓話化。作品化。
その後、平井さんが帰宅され、"ゲーム"についてあれこれお話した。ゲームは、固有の文化や経験を構造化して、追体験させることが(も)できる、ということを中国の古代文化をモチーフにしたボードゲームを紹介してもらいながらお聞きする。またゲームマーケットというゲームの同人即売会の話から、プロ性とアマチュア性、そもそもを問い直せるアマチュアの強さ、麻雀の作者が誰かなんてもうわからないことなどもお話する。オーサーシップを手放したアートプロジェクトの例として悪魔のしるしの『搬入プロジェクト』を思い出すなどした。
23時近くになりやっとお腹が空いてきたのでナスとベーコンのパスタをつくって食べた。そして西友で買ったたまごを全て茹でて味玉として仕込んだ。
9/21(金)
朝ごはんはベーコンエッグと先日いただいたマクワウリ。マクワウリは野菜と果物のあいだの味がする。切り方がよくわからない。
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取手を自由に動ける日としては大体この日が最後。昨日は東半分に行ったので西へ向かう。同じく昨年に一度連れて行ってもらった「500坪」を目指す。なぜ500坪に行くのか自分でもよくわからないが、「再訪すること」を試みているのだと思う。戸頭も、高須も、500坪も。
踏切を渡ったところにあるパン屋さん「ベリーハウス」で菓子パンなどを買った。あとで合流する羽原さんたちへの差し入れと思って4つ。
国道を越えて白山の方角へ。Canonの工場、曇り空と同じ色をしている。
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「戸建自治会」と書かれた住宅地を抜けて500坪と呼ばれている場所に来た。ここに前回来たのも去年の5月で、うろ覚えの記憶だったがなんとかたどり着くことができた。タップスイミングがヒントになった。
ここはTAPのメインテーマとして半農半芸が動き出したとき、最初の活動拠点だったと聞いた。しかし直後に東日本大震災が発災。放射線の影響で活動ができなくなり、そのうち持ち主に返すこととなったらしい。
三脚を立て、カメラを回す。
500坪で活動していた頃のTAPを当然自分は知らないし、この場所での思い出は去年の訪問しかない。でもそのときからもすでに1年以上が経っていて、この間にいろんなことが動いているし、変わっている。
画角のすぐ左には住宅街があってじわじわと農地に近寄ってきている。いずれはここもすべて住宅になるのかもしれない。
午後、羽原さんとパペエテのたまごサンド屋さんで合流することになったがその待ち合わせ時間までまだ余裕があったので、駅のほうに引き返しながら取手競輪へ。取手ではレースは開催されていないが、小田原と岐阜で開催されているものを買ってモニターで見るというひとがけっこうたくさんいた。ほとんどがおじいさんだった。
何も見ずに小田原の第1レースを300円分買ってモニターの前に座る。
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ベリーハウスのパンを食べ始めたら職員のひとに声をかけられた。「缶の持ち込みは禁止なんです」と、口の開いているリュックの奥にちらっと見えた缶コーヒーを指して指摘された。「紙コップに開けてください」と言われたので「ここでは飲まないのでそのまましまっておくのでもダメですか?」と質問するがダメだった。渡された紙コップに中身を開け、缶は処分される。しまったままのはずがここで飲みきらなければいけなくなった。音のしない遊園地みたいだと3月に来たときには思ったが、あくまでここは公営賭博場だったことを思い出す。小田原の第1レースは外れた。
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第2レースを買うことはせず、(レースが行われていないので)だれもいない競技場に上がり、客席で平井さんから借りた本を読んだ。家族形態についての冊子の作品。余白が多い作品で、よかった。風が吹くところで読むというのもよかった。
このとき客席にたぶん帽子を忘れたんだと思う。あとでパペエテに行ったあたりで帽子がないことに気がつくが、このときは気づかずに自転車に乗り、白山商店街を抜けて団地に戻った。
シャワーを浴び、さっきまで来ていたTシャツを手洗いで洗濯して、干して、今度はパペエテのたまごサンド屋さんへ。お店の前で羽原さんと娘さんと合流。お店には、先日稽古場にも来てくださった悦子さんがいらっしゃった。羽原さんがおしゃべりされている様子を横から眺める。たまごサンドはやっぱりとてもおいしい。
風が強くなってきた。
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「取手の北限・岡堰に行ってみよう」「高須で開催されているWSを覗こう」という提案を羽原さんからいただいており、一旦別れて駅前で再合流。車に乗って岡堰を目指す。
岡堰は、普段だったら水が流れている部分が干上がっている状態だったらしい。ふだんは川底に沈んでいるところへ降りていくことができた。逃げ遅れた巻き貝がたくさん落ちていた。
地層的なことか、土の質の問題なのか、川底の土は表面だけがバリバリに干上がっていて、ヨーロッパの地図みたいな景色が延々と広がっていた。うっすら植物が生えていたりして、足元を見るとなにかのジオラマを見ているみたいでもある。場所によっては赤みがかっていたりと変化にも富んでいた。たぶん、けっこう珍しい景色なのだと思う。動物の足跡も残されていた。
表面はレンガのような塊になっていて、塊のまま地面から簡単に剥がすことができる。なんとなくどこまで高く積めるか競争が始まった。二人で積んだら門のようになり、最後は打ち砕かれた。遊びだ。でもものをつくる楽しさを久しぶりに原始的に味わった気がする。
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いろいろと面白くて割と長い時間を過ごしてしまったが、15時頃に岡堰を離れて高須へ。この日は高須公民館で、翌年の凧揚げに向け絵の具をつくって絵を描くWSが行われていた。高須の公民館は、田舎の旅館に行ったときにも似た馴染みよいかんじがした。WSにもいい空気が流れているように感じた。
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取手の駅前まで送っていただき、いったん都内の仕事に向かうため16時前の電車に乗って東京へ。常磐線も山手線も、どれも混雑していて座れなかった。明日と今日の2回に分けて荷物を引き上げるためけっこう大きな荷物を持っていたので、ぐんぐんと体力が削られていった。
用事が済んで池袋を出たのが21時半頃。夕食を取手で食べるか、池袋で食べるか迷ったが、あいだを取って日暮里の馬賊で餃子を食べた。
団地に帰ったのは23時過ぎ。シャワーを浴びて、明日の荷物を減らすため冷蔵庫のビールを一本飲んだ。夜風が涼しく、ついにエアコンを入れずに窓を開けて寝ることができた。
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9/22(日)
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8時頃に目覚め、味玉を食べたらシーツ類を抱えてランドリーへ。一昨日、これが最後になると言っていたがそんなことはなかった。雨がぱらついていたし、予報を見ると夕方まで激しく降るということだったのでついに乾燥機にもかけることにする。おばちゃんに600円を渡すと「2時間後に来てね」と言われたのでしばらくローソンで過ごす。なんとなくこのローソンは陽の気で満ちている感じがする。1ヶ月、ここにはずいぶん救われた。
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今日は平井さんが関わっている展示「130」が団地の5階で開催されていた。雨が止んだ隙に三日連続のパペエテに行き、平井さんたちへ差し入れにたまごサンドを購入。訪ねるだけで少し元気が出るお店だ。今後もまた来ますー、と簡単にご挨拶してすぐに戻る。
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5階で、関係者の方々に自己紹介をしているうちに「130(いさお)」の主役のいさおさんが到着する。雑談なのか、お話なのか、パフォーマンスなのか、それらが混ざり合ったノンストップトークが始まる。アーティストを見るでもない、でも日常でもない、緊張感とリラックスのどちらともいえない独特の時空が漂い始めてしばらくそれに揺られていさおさんの話を聞いていた。ふだんの自分だったら、ここでいろいろ質問をしたりしたかもしれない。でも極力何も聞かず、その場にいてみた。独特の心地よさを感じたが、これがなんだったのかは今もよくわからない。
途中、飲み物を買いにセブンイレブンに歩いていった。
そして展示会場ではなく部屋に戻って、使わせてもらっていた部屋に掃除機をかけ、布団を干した。あとはもういつでも出られる。
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17時頃、いさおさんが帰ろうというタイミングで羽原さんが到着。いさおさんの『走れメロス』を聞いていて、既存のお話だっていくらでも自分の解釈に書き換えて語り直すことができるんだと知ったことと、TAPが何かリンクする気がしてそれをことばにしようとしたけれどあまりまとまらず、頭もあんまり働いていない気概がしてやめた。
お借りしていた自転車の鍵をお返しし、羽原さんは乗って帰った。夕暮れがすごい色をしていた。
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団地を出ようとしていたら、この部屋のもうひとりの住人・福原さんが帰宅する。離脱間際でついにご挨拶をすることができた。しばらく、ここで自分がしていた作業や上演プロジェクトのことなどを話すなどした。滑り込みだったが、お会いできてよかった。
みなさんに厚くお礼をして、スーツケースを引いて団地を後にする。団地二丁目のバス亭でバスに乗りこんだら「前からじゃないよ後ろだよ」と怒られた。バスに乗っていた人は全員井野公民館前で降り、団地から駅まで乗って行ったのは自分ひとりだった。
* * *
都内の自宅に戻ってこの記事をわーっと書いている。取手に帰らない生活の再開はあっというまに9/22までの記憶を変形させていく予感がしたので、記憶が新鮮なうちに記録だけでも残そうと思った。変形していくにつれて書き足したり書き換えたりするかもしれないが、それは今はまだわからない。
とても眠い。明日も取手だ。取手はふたたび通う場所になる。
* * *
そういえばパペエテのたまごサンドを買いにいったときに悦子さんに「パペエテってどういう意味なんですか?」と尋ねたら、タヒチにあるまちの名前ということだった。「昔、タヒチにいたときがあって、ハワイとは比べ物にならないくらい美しい場所だったんですよ、だから地名なんです」と。
取手からタヒチ。遠くへ!