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読めないラブレター【秋ピリカ応募作】

卒業式の日、いよいよこの高校ともお別れかと感傷に耽る中、不意に後ろから呼び止められた。

「あのっ!」

驚いて振り返るとそこには、少し大きめなメガネを掛けたお下げ髪の、絵に書いた様な地味な女子……誰だっけ?

「こ、これを!」

モジモジしながら彼女が差し出したのは淡いピンクの封筒で、突然のことで受け取るのを躊躇していると、

「さ、さよなら!」

と、いきなり別れの言葉を口にして、封筒を半ば強引に俺の手に握らせると走り去ってしまった。

「おっ、ラブレターか!? モテモテじゃねえか!」

友達にからかわれて少し気恥ずかしい思いをしつつ、これも高校最後の思い出かと思いつつ帰路についた。家に帰り着いて封筒を取り出す。ハート型のシールが貼ってあるし、やっぱりラブレターだよな。でも、名前も何も書いてない。期待と少しの不安が入り混じった感情で中の紙を取り出してみると、

「白紙!?」

綺麗に畳まれた封筒とお揃いの便箋には、一文字も書かれていなかった。えっ、イタズラ!? あぶり出しとか!? もう何がなんだか分からず、衝動的に破り捨てようとしたが思い留まる。彼女の様子、あれはとてもイタズラとは思えない。

「そうだ、名前」

卒業アルバムで彼女を探す……川村文乃、申し訳ないけど、名前を見てもピンとこない。高校の三年間、彼女と喋った記憶がない。そんな俺にどうしてラブレター? しかも白紙の? 一体どうしろって言うんだ……途方に暮れながら、何気なくその手紙を卒業アルバムに挟んで閉じたのだった。


目まぐるしく時は流れて。今年26だから、高校を卒業してもう8年も立つんだなあ……何気なくそんなことを考えながら一人暮らしのマンションに帰宅すると、ポストにハガキが入っていた。

「高校の同窓会か!」

テンションが上がる。仲の良かった男友達とは卒業後も何回か会っていたけれど、地元を離れて就職したから最近は疎遠になりがち。一ヶ月後の連休中だし、地元に帰って出席することにする。

そして同窓会当日。実家から駅近な居酒屋に出向くと、そこには懐かしい顔が集まっていた。

「おー、上原! 久しぶり」
「ああ、卒業して以来だな」

久しぶりに会った友達と他愛のない会話。でもそれがとても心地よい。やっぱ地元の友達っていいよな、と思う。そんな中、近寄ってきた一人の女性。

「上原くん」
「……」

そしてすぐに気が付いた、彼女だ!

「川村!」
「覚えててくれたの!?」
「これな」

鞄の中からあの手紙を取り出すと、彼女は少し頬を染めて気まずそうに、けどどこか嬉しそうにはにかむ。実家に戻って卒業アルバムを見ていた時、この手紙が間からハラリと落ちたんだ。途端、あの日のことを思い出した。

「今日会えて良かったよ。色々聞かせてくれよな」
「私もそのつもりで出席したから……」

あの日、文字のないラブレターから確かに感じた彼女の想い。それは、一枚の紙が繋いだ、二人の運命、だったのかも知れない。


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