組織のパフォーマンスを下げる目標の立て方
本屋さんにいくと、組織開発のビジネス本がとてもたくさん並んでます。
「チームの生産性を劇的に向上させる方法」とか「チームが生まれ変わるためにやるべき10のこと」みたいなやつです。
「パフォーマンスをあげたかったらコレをやりなさい」「こうすれば組織はうまくいく」系の本はたくさんあるのですが、逆に「組織開発でコレをやってはいけない」とか「コレをやるとチームのパフォーマンスが下がる」みたいなアンチパターンの本はあまり見たことがありません。
(アンチパターンに特化したタイトルという意味で)
ひとつだけ「組織開発のアンチパターン」で思い出すのは、数年前に話題になったアメリカの諜報組織CIAが保管している「敵国の組織をダメにするためのスパイマニュアル」です。当時ちょっとバズったのでご覧になった方もいるかもしれません。なぜ当時これが話題になったかというと、そこに書かれている「組織をダメにするための方法論」が、まんま日本企業の典型的な行動様式だったからです笑
一部を紹介すると、
●可能な限り案件は委員会で検討。委員会はなるべく大きくすることとする。最低でも5人以上。
●会社内での組織的位置付けにこだわる。これからしようとすることが、本当にその組織の権限内なのか、より上層部の決断を仰がなくてよいのか、といった疑問点を常に指摘する。
●重要でないものの完璧な仕上がりにこだわる。
という感じです。
私もいま「コテコテの日本企業」に所属しているのですが、この「敵国の組織をダメにするための行動様式」は未だに社内で横行しています笑
(イヤ笑いごとじゃないんですけどね…)。
そこで今回は、実体験に基づく「組織開発のアンチパターン」を書いてみます。組織開発といっても実に色んな側面があると思いますが、ここではとくに「組織目標の立て方」にフォーカスします。
「組織目標」とはなにか
わざわざ説明するようなもんでもないのですが、一応…。
「組織目標」とは、その組織(チーム)が「達成すべき成果」や「到達すべき状態」を定義したものです。例えば営業組織なら「半期で売上〇〇%アップ!」とか「契約件数〇〇件達成!」とか。開発組織なら「〇〇%性能アップ!」とか「〇〇の開発納期遵守!」とか。組織が背負うミッションや組織が置かれている状況に応じて、色んな組織目標が立つことになります。
そのため「組織目標」は、組織に所属する全てのメンバーが公平に共有できる「価値基準」であり「行動指針」であり「共通言語」になります。優れた「組織目標」が立てられれば、メンバーの意識と行動を同じ方向に向けることができるので、チームとしての優れた成果やパフォーマンスに繋がります。しかしイマイチな「組織目標」を立ててしまうと、チームは本来のパフォーマンスを発揮できません。
以下、実体験に基づいた「パフォーマンスが出ない組織目標の立て方」の型を3つ紹介します。
「こんな組織目標の立て方をするとメンバーのテンション下がりますよ」ってことです。
なお、あくまで私個人の実体験に基づく類型なので、汎用性があるかどうかは分かりません。業界や業種が違えば事情は異なるので。
1. 一律型
組織目標が「一律」に設定されるパターンです。
「営業メンバー全員、対前年で売上xxx円アップを目標とせよ!」とか
「全開発部門は、開発コストを前年から1割削減せよ!」とか
そういうやつです。
「一律の目標」というのは不公平を生みます。なぜなら目標が一律であっても、その目標を達成するのにメンバーが必要な努力は、必ずしも均一にならないからです。(むしろ不均一になるケースがほとんどのはず)。それはつまり、メンバーによって目標達成のしやすさ/しづらさに「格差」が生まれます。この「格差」が「不公平感」につながりメンバーのパフォーマンスをじわじわと蝕んでいきます。
その「格差」が、目標達成時/未達成時の考課や人事評価で汲まれるのならまだ救いもあるというものですが、目標の設定者(組織のリーダー)が一律に目標を設定する裏には、メンバーそれぞれの細かい事情を考慮せず(しきれず)、一律で設定することによる簡便性・コスト削減を狙ったものであることが多く、そうなると考課や評価のタイミングで各々の事情を汲むとは考えにくいです。
目標を立てる側の人からすれば「いちいち個々の事情なんて汲んでられないよ…」と思うのかもしれませんが、目標を立てるにあたっては、やはり個々の事情を汲むということは決してサボっちゃあいけないことだと思います。
2. 対処療法型
これは目標の立て方が「近眼的」ということです。
目標を立てる立場にある人(=組織のリーダー)が「いま起きている問題への対処」で頭がいっぱいで、視野狭窄に陥った状態だとこういう目標になりがちです。確かに「いま起きている問題への対応」=「火消し」は重要ですが、それを「組織目標」として据えるのが妥当なのか?をよく考慮すべきです。
例えば、
「売上目標が未達の案件をゼロにすること」とか
「クレームが出ている不具合を優先的に直すこと」とか
という目標設定になったりします。
マイナス要素というのは目につきやすいので、早めに潰しておきたいものです。しかし、「組織として今取り組むべきことは本当にそれなのか?」という点はよく考えるべきです。
上の例でいえば、仮に「売上目標が未達の案件」が残ってままであっても、その案件の他に大きく売上に貢献する案件が新たに取れればトータルでは組織の成果は上がるかもしれません。同様に「クレームが出ている不具合」への対応に費やす時間の一部を別の機能開発にあてることで、トータルで組織の成果はより高くなるかもしれません。
もちろん、チームの特性やメンバーの性格によっては「目先の火消し」を組織目標に据えたほうがパフォーマンスが上がる場合もあるでしょうし、「目先の火消し」自体を是とする組織文化や事業特性もあると思うので一概には言えません。しかし、組織の「目標」として掲げるからには、長期的視点に立った、少し背伸びする内容の方がメンバーのモチベーションもチームのパフォーマンスは高くなるというものではないでしょうか。
また、目標を立てるリーダー本人よりもメンバーの方が「目標の近眼度」に敏感だったりします。その場合、リーダーとメンバーの間でちゃんとコミュニケーションが取れていれば「その目標、ちょっと近眼的じゃないですかね?」というポジティブなツッコミが得られますが、関係性がイマイチだとメンバーの腹の中に蓄積され、ひょんなことから爆発したりします。
3. 権威型
最後は、立てた目標が「権威に頼ったもの」であるということです。
「権威に頼る」とは、言い換えれば「外からもってきた正解に依存する」ということです。
例えば、
「政府がxxxという目標を掲げたので、我々もそれを達成する」とか、
「某大学のxxx研究所から●●●という数字が出たので、それを満たす」
といった具合です。
先に断っておきますが、こういった「権威の主張」を使う事自体が悪いということでは決してありません。例えば他者を「説得」する時などは、こういった「権威の主張」を借りるのは大変有効な手段です。「政府がxxxという目標を掲げてることですし、コレやりませんか?」とか「某大学のデータで●●●っていう数字が出てますし、いけるでしょ!」とか。
「権威の主張」というのはあくまで「補足的、補助的」に使うものであって、それを組織目標として丸呑みすべきではないということです。
「権威の主張」にはそれなりに裏付けがあり、妥当性があり、反論しづらいので、それを「組織目標」として掲げることで一定の「安心感」や「正しさ」が保証されるのは確かです。しかし、組織の目標はやはり「内から生じる問題と正解」に立脚して設定されるべきです。「内から生じる問題と正解」とは、組織の当事者である自分たちにしか見えない「問い」とそれに対する自分たちが見出した「答え」です。それを昇華させて「組織目標」に据えることこそが、メンバーがその組織に所属して腕を振るう意義(=アイデンティティー)になるのだと思います。
「権威が主張すること」それ自体は間違ってはいません。間違っていませんが、『それだけ』です。『間違ってはいない』というだけで、それが自分たちにとっての「正解」にはなり得ないということです。
番外編:もはや何も言ってないに等しい型
もはや「型」とすらいえない、「それってもう、何も言ってないに等しいよね」いう目標設定のパターンがあります。
具体的に言うと
「当組織の今年度の目標は、売上アップとコスト改善です!」
みたいなやつです。
ビジネスとしてやってる以上、(株主から)その結果が求められていることはメンバー全員が百も承知なわけで、そのうえで組織のリーダーたる者は「それを達成するために、この組織は何を目指すか」を目標として設定すべきなのですが、それすらも「メンバー自身に考えさせる」という大義名分なのかわかりませんが、こんな空虚な組織目標が設定されることがあります。(※実体験アリ)
もはや「安全第一!」とか「世界平和!」と同じレベルで
「わざわざ言われんでもデフォでやっとるわ!」
と言いたくなります。
(その組織リーダーはやがていなくなりましたが)
まとめ
今回は組織のパフォーマンスを『下げる』目標の立て方(アンチパターン)を3つ紹介しました。(最後のはちょっと余計でしたが…)。このほかにも色々なアンチパターンがあると思います。
今回挙げた3つの型を総じて一言でまとめるなら、これから自分たちがどこに進むべきかは、「自分たちでちゃんと頭使って考えないとダメ」ってことになります。イヤ当たり前すぎることなんですが。
おしまい。
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