生きろ、しかる後に死ね

生きろ、しかる後に死ね

これは、この世界における唯一の至上命令である。

我々は生まれることを選択できない。自分の意志とは無関係に世界に投げ出され、生きることを強制され、そして死ぬことを運命づけられている。

生きろ、しかる後に死ね

これは、あらゆるものが解体され、もはや大きな物語があり得なくなった現代における唯一の真理である。

この世の苦しみ、悲しみ、矛盾は、すべてこれに由来する。

芥川龍之介の『河童』には、父親の呼びかけに対し、河童の胎児が生まれることを拒否するシーンがある。

「お前はこの世界へ生れて来るかどうか、よく考えた上で返事をしろ。」
(中略)                             「僕は生れたくありません。第一僕のお父さんの遺伝は精神病だけでも大へんです。その上僕は河童的存在を悪いと信じていますから。」

これが人間として生きることの苦しみ以外の何であろう?

生きろ、しかる後に死ね

これは我々が逃れえない運命である。主の不明な声である。乗り越え得ない約束であり、我々の存在そのものである。

命令に背かないのが善なのだ。生きることが善なのだ。




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