NPOグッドネーバーズ・ジャパンの財務分析
特定NPO法人グッドネーバーズジャパン(以下GNJ)の収支構造がXで話題になっています。
ここはYoutube広告で母子家庭で親子ともにご飯を我慢している描写のCMを流して寄付を募ったりしている団体ですが、公的資金もかなり投入されておりました。
本記事は、なるべく決算書の読み方がわからない方向けに解説したいと思っておりますが、基本は「数字から見えてくる構造」を重視します。正確な決算を行っていれば、数字にお金の流れが現れるからです。
まずは決算書を見てみましょう。読み方がわからない人は以下の用語だけ覚えてください。なお、200Mと記載があったらMはミリオン(百万円)です。
200Mは2億円のことです。
仮払金:とりあえず現金を払い出したものの、決算時点で費用として計上できない事情があり仮に計上されている金額。
未収金:収益に計上されているがまだもらっていないお金。NPOの場合は助成金であることがおおい。(もしくは業務委託料など)
前受金:お金を受け取っているものの、決算時点で収益に計上していないお金。来期に収益で計上されるであろうもの、NPOの場合は補助金であることが多い。負債として計上されているが、借金ではなく将来の利益です。
正味繰越財産:一般の企業では純資産とか自己資本と呼ばれるもの。NPO独特の科目。この金額が法人の本当の余力。補助金等は何に使うか定められているがこれは自由に使えるお金。NPOの場合は使途に定めのない寄付が貯まったものであることが多い。
以下、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を5期連続で並べたものです。並べることで、推移(トレンド)と増減(何にお金を使ったか)がわかります。

B/Sはぱっと見、不審な点はあまりない。しいて言うなら2020年からうなぎ上りで資産が増加、その分の大半は海外支援で消える予定に見える。
(仮払金と前受金の半分が相殺されるように思える)現金増加分も将来の海外支援向けの前受金だろう。
見方としては、例えば現預金が直前期比で225M増えてますがその分前受金も202M増えているので、増えた原因はこれだな、というのがわかるのです。これが並べる意義です。そして前受金が何かを決算書の財産目録を見るとウクライナやネパール支援の補助金だなということが見て取れます。
つまり海外支援用の資金を受け取って、まだ使っていないんだなとわかります。(これ自体は普通のことであり問題ない)
次は連続P/Lも見てみましょう。

コロナ禍を境に収支構造の変化が顕著。バンバン助成金や補助金をもらってますね。ただ物資含む一般寄付もうなぎ上りで増加、5年で10倍以上。特に国内向けの支援を本格的に始めた2020~2021年あたりから急上昇。
内訳をみると直近1,153Mの内、321Mは現物の物資ですね。800Mくらいは現金寄付です。
人件費も2021年から急増しており、業容拡大がみてとれる。
B/Sの退職給付引当金(従業員の退職が発生した時用の積み立て)はあまり変動がないのに人件費だけ何倍にも伸びている??コアメンバーではなく、平社員的なスタッフが増えているのだろうか。もしくは給与を引き上げた?従業員51人で人件費総合計278M、福利厚生費はそのうち36Mだったので差し引くと242M。51人で割ると平均年収475万円くらいか。まあ、都市部でやっていると考えると年収は低め。NPOとしては常識的な年収か。
この中で最も気になるのは経費の中でも金額が大きいもの。
トップ3を抜粋すると、一番は資機材費1,160M。次に広報費498M。そして先述の人件費278Mに続きます。これだけで経費の大半を占めておりますので他の項目はさほど注目しなくてもいいかと。
資機材費ですが、これはいわゆる支援に使った(貧困層に届けられた)資金、物資です。ただし海外向けも含みます、国内向けは350Mくらいです。
P/Lの寄付を見てください。

ん??国内向けの金銭寄付が546Mで350Mしか日本の貧困家庭に届けられてない?しかも寄付物資321Mもあるのに。仮に寄付物資の大半が食品である場合、おそらく国内消費が大半でしょう。あれ、日本の支援はほとんど物資で成立してますね。金銭寄付のお金546Mは間接経費に消えたのでしょうか?寄付合計1,153Mに対し資機材費(海外含む)は1,160Mでぱっと見は見合っていたはずなのに。
答えは助成金・補助金の合計と広報費にあります。
外務省等からの助成金や補助金は合計で1,076Mありますが、B/Sの現金増加分が225Mあるので実質使ったのは851Mとしておきましょうか。

そうすると資機材費1,160Mから国内分350M引くと810Mなのでほぼ見合います。これらの補助金等は海外向けに費消されているとわかります。
国内向けの支援は寄付物資で賄われていると申し上げましたよね?じゃあ金銭寄付546Mは何に消えたのか。そう、広報費498Mです笑
色々書きましたが、財務諸表の注記という資料を見るだけでそれはわかります。

なんかもう最初からここにほとんど答えが出てました笑 r◯◯先生が詳細分析にあまり興味を示さなかったのは簡単すぎるからか?
ご丁寧に日本国内向けでいくら収入がありいくら広報費(広告費になってますが)に使ったかまるわかりでした。
問題点をおさらいしてみよう
この法人は、元々は海外の途上国や被災国を支援するために設立された海外NGOの日本法人です。2020年までは海外にある本部からの助成金で日本人向けの海外支援の啓蒙活動をメインにやっていたようです。
しかしながら、2020年より運営方針が転換されたようで、「日本国内向けの貧困家庭支援」も行うようになったようです。(数字を見る限りは)
※ひとり親家庭の支援「グッドごはん」自体はわずかながら2017年から開始しているとのこと。今よりはるかに小さな規模ですが。
YoutubeでCMを放映したり、HPも国内の子供を支援するのがメインのようなデザインですね。(2025年2月現在)一応国内「外」と書いてはあります。
公式HPリンク
今回、ネットで物議を醸していたのは、「かわいそうな貧困家庭の様子を再現してセンセーショナルな広告を行っている割には、国内の児童支援をしている割合は低いのではないか?」
という点です。その外にも意見は色々あるみたいですが。
これに対しすぐさまGNJは声明を発表しました。
当団体に関する誤情報について
対応がはええ、わずか数日の話。
定性部分については、公開情報では測れない部分があるので決算書の数字のみの切り口で意見を述べます。
これは当団体に賛同したり非難したりするものではなく、単に数字から見える事実の部分について見解を述べるものですのであしからず。
事業構造の変遷について
何がきっかけかはわかりませんが、2020年度より本格的に国内向け支援も開始しました。貧困支援系は2020年から活発になっているところが多いです。
以下は財務諸表の注記の抜粋の抜粋です笑

寄付物資は性質上、国内支援にほとんど使われてますね。
問題は「カネ」です。そもそもこの団体への寄付(しかも国内向け分)が国内支援に使われている割合が非常に低いのです。高くても4割無い程度。当然、モノを配るにはコストがかかります。それはわかります。でもね、それ以上に経費を「食っている」支出があるのです。そう、広告費ですね。
この広告費は国内向け100%に支出されています。皆様が見たことがあるCMもそうでしょう。先程、国内支援は大半物資の寄付で賄っていると言いましたね。金銭部分はどうでしょうか。
収入のうち金銭部分に対し広告費で使われた割合は、約半分。収入広告費率のことです。直近期に至っては87%と大半です。
また、国内向けの経費を構成するもののうち、広告費が占める割合は半分程度。支援した金額よりも広告費が多いのは、GNJ曰く
金銭のご寄付は、食品の寄付で賄えない部分の購入や、倉庫・拠点の維持管理、食品の搬送、人件費のほか、活動周知費にも充てていることは事実です。活動周知費は、支援対象者およびご寄付の検討をされている方等に活動内容をお知らせするためのチラシ印刷や送料、メディアへの出稿費等の広報費用が含まれておりますが、寄付金が支援活動には使われていないということはございません。
まあ、嘘は言ってないね。でもね、普通は「割合」で判断するんだよ。
金銭収入のうち、半分くらいはずーっと広告費に使ってるじゃん。
この広告費の支払先は黒塗りされてるから詳細はまだわかんないけどさぁ。
外務省とかからもらったお金は大半国外に送金してるんでしょ?なんで日本だけこんなに広告費じゃんじゃん使うのよ。海外向けの広告費は「ゼロ」だよね。
広く寄付を募るために広告が必要であるという理屈は誰だってわかるよ。
問題はさ、これだけ順調に業容拡大出来ている中で、金銭収入の国内向けの使途の半分が広告費だよ?
それやめて、子供のために晩は水だけで過ごしているお母さんに5万円くらい渡せばいいんじゃないの?10,000人のお母さんの1か月分の晩飯代くらいにはなるよ。
生活保護が受けられずにそんな我慢してる人、国内に何人いるか知らないけども。
国内向けの事業の支出割合、さすがに見直した方がいいのでは?寄付した人、怒るかもしれませんよ。貧困家庭に食材を届けようと思っていたら、広告費に消えているなんて。しかもどこに払ったか黒塗りだと。
なんと言い訳しようが、数字はありのまま。GNJは正確に認識したうえで発信しなおした方がよいのでは?
結論
国内向けの家庭に届いた支援はほとんど寄付物資。金銭部分の方がはるかに大きいのに、それが子供たちに届いているようには私には見えません。
(広告以外の間接経費を差し引いてもね)
どこに広告費を支払っているか知りませんが、寄付を募る以上は決算書に大きく現れるくらい直接支援に使ってあげてください。あんな毎年何億も使うほどの壮大な広告、打ってます???SEO対策かなにか?
あとね、HPがあたかも国内の貧困家庭をメインに支援しているように見えますけど、単に割合でみると海外の方が倍以上大きいよね。半分ぐらい外国の子供たちの写真に差し替えたら?
以上です。おもしろかったら支援してやってください、ほかの題材を扱うときのはげみになります。
なお、広告支払先を開示請求する動きもあるので、判明したらこの記事に追記するか、別記事を書きます。