人間はいつから殺し合うようになったのか
西洋と日本の歴史を戦争の視点で比べる
イシコフ: では、日本列島で殺し合いが始まったのはいつからか、という話に戻ろうかな。
その前に、日本の外ではどうだったのか、ということをざっと見ていこうか。
凡太: 世界史ですね。
イシ: 縄文時代の1万年あまり、日本列島では大きな戦いくさがなかったとするなら、その頃、日本の外ではどうだったのか、ってことだね。
いろんな説があるけれど、スーダンのヌビア砂漠にある「ジャバル=サハバ117遺跡」というのが、人類史上最古の戦争の痕跡と言われている。ここではおよそ1万5000年前の旧石器人の骨がたくさん見つかっているんだけれど、それらの骨に武器で殺傷された跡があるそうだよ。それも1つ2つではなく、相当数見つかっている。
1万5000年前の戦争って、原因は何だと思う?
凡太: 食料の奪い合い、領土の奪い合いですか?
イシ: う~ん、1万5000年前というと、石器時代だからね。まだ余剰作物の蓄積とかはなかったはずだろ。
となると、最初は個人レベルだった怨恨が集団と集団の殺し合いにまでエスカレートしていった、と考えるのが妥当なのかな。
凡太: 暴走族や暴力団の抗争みたいな?
イシ: 昔は集団による信仰とかしきたりの違いなんかが原因になったかもしれないね。あとは猟場や水争いの類とか。
石器時代だと文書による記録は皆無だから、遺跡から発掘された人骨や武器と思われる石器なんかを根拠にして推論するわけだけれど、記録されているもので世界最古の戦争というと、紀元前25世紀頃、現在のイラクの一部に当たる古代メソポタミア地方で起こった「ラガシュ・ウンマの戦い」というのがあるそうだ。
縄文時代後期くらいかな。
凡太: 紀元前から戦争というのはあったんですね。
日本ではそれが弥生時代くらいから始まったわけですか?
イシ: そうだねえ。大規模な武力闘争というのは大陸から渡来人が入ってきて、青銅や鉄の武器なんかも作られ始めてからかもしれないね。
ただ、戦争というのは、武力闘争だけではないんじゃないかな。
凡太: どういうことですか?
イシ: 領土や富の奪い合い以前に、個人間や集団間で生じた恨みつらみや、親族意識や宗教意識の違いからくる嫌悪感がエスカレートして、相手を消してしまいたいと強く思う。古代においてはむしろ、そうした精神的な歪みが戦争を生み出したのだとすれば、呪い殺すとか、そういうのも、広い意味では戦争だと考えていいんじゃないかな。
凡太: 呪い殺す? 藁人形に釘を打ち付けたりするみたいな?
イシ: 邪馬台国の卑弥呼は呪術師だったというのは有名な説だろ。三国志には「卑弥呼は鬼道に仕え、よく大衆を惑わし、その姿を見せなかった。生涯夫をもたず、政治は弟の補佐によって行なわれた」といったことが書かれている。
直接の武力を使わず、呪術的なことで敵を殺したり病気にさせたりできれば、命がけで戦う必要はないわけで、戦争の手段としては最高だよね。
凡太: でも、科学的な話ではないですよね。
イシ: どうかな。今の先端技術や生命工学をもってすれば、それと同等のことはできるよ。
そうした願望が、太古の昔から人間の心の中に強くあったことは間違いない。
例えば、旧約聖書に書かれている「出エジプト記」なんかは、とても興味深いね。
あそこに書かれている時代は紀元前13世紀だとか紀元前15世紀だと言われている。当時のエジプトはファラオと呼ばれる王が権力を握っていて、異国から連れてきた奴隷を使って巨大建造物を造ったりしたとされている、あの時代。
出エジプト記は、モーセが神から「エジプトにいるヘブライ人(イスラエル人、ユダヤ人)を約束の地・カナンへと逃がせ」と言われて、それを実行するという内容なんだけれど、ファラオと交渉してもファラオは許さない。そこで、神に「10の災害」をエジプトにもたらしてもらう。
その10の災害とは、
ナイル川の水を血に変えて魚を殺し、水を飲めなくする
カエルの異常発生
ブヨの異常発生
アブの異常発生
疫病を流行らせ家畜を殺す
膿の出る腫物を流行らせる
雹を降らせ作物を全滅させる
イナゴの大量発生
三日間エジプト中を暗闇で覆う
家畜を含め長子をすべて殺す
……というもの。
凡太: おっそろしいですね。
イシ: だよねえ。現代風にいえば、大規模環境破壊、生物化学兵器の使用、気象兵器の使用、武力による無差別虐殺……ってところかな。
これを聖書の中の「神」はヘブライ人という特定の民族の解放のために他民族に対してやってしまうわけだね。
もちろん、旧約聖書は紀元前に書かれたわけではないから、後の時代の人がいろんな意図で創作しているわけだけど、少なくとも、この時代には、階級社会や戦争を作りだした人間がいて、それを受け入れていた大勢の人たちがいたということだね。
凡太: 今と変わらない社会ですね。
イシ: そう! そういうことなんだよ。
支配する側とされる側、殺す側と殺される側という構図は、紀元前の時代にはすでにできあがっていて、それが今もずっと続いている。ただし、今のほうが、やり方はずっと巧妙かつ大胆になっている。
現代では、旧約聖書の中の神がモーセの要求に応えたようなことを、人間ができるようになってしまった。
ここから先の人類史、「人間史」を見ていく上でも、この視点を忘れてはいけないよ。
凡太: なんだか辛い気持ちになってきちゃいました。
イシ: まあまあ、そう言わずにもっと学んでいこうよ。辛いから何も見ないことにする、知らないことにしてしまったら、そこでおしまいだよ。歴史を学ぶ、というか、見直してみることで、いろいろな気づきがある。それを楽しいと思わないと。
凡太: ……はい……。
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現代人、特に若い人たちと一緒に日本人の歴史を学び直したい。学校で教えられた歴史はどこが間違っていて、何を隠しているのか? 現代日本が抱える…
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こんなご時世ですが、残りの人生、やれる限り何か意味のあることを残したいと思って執筆・創作活動を続けています。応援していただければこの上ない喜びです。