タヌキの親子見聞録 ~俵山温泉(山口県長門市)
2023年も終わろうとしている12月29日、タヌキ一家は何か物足りなさを感じていた。クリスマス前に急激に冬がやってきて、年末になってまた穏やかに晴れてくると、
「あぁ~高野山行けなかったからどこか行きたい!どこでもいいから行きたい‼」
と、むずむずと旅に出たがる母ダヌキの虫がおさまらなくなって騒ぎ出した。実は、今年の11月に高野山に修業を兼ねた宿坊に泊まる旅を計画していたのだが、弟ダヌキインフルエンザ罹患のため、キャンセルを余儀なくされたのだ。旅行に行く予定だった日は、晴天で、高野山ではきれいな紅葉とお寺が待っていただろうに、タヌキ一家は巣ごもりに予定が変更となった。
「このままで年を越してなるものか」
恐ろしい執念で、近場の観光名所のパンフレットを読み漁っていた母ダヌキは、美味しそうな猿のまんじゅうに目が留まった。そこには「愛され続ける名湯、長門・俵山温泉の秘密を探る」とあり、パンフの中には「俵山温泉 ここがスゴい‼」と題して、俵山温泉の泉質やレトロな温泉街の魅力や、今時一つ50円というリーズナブルな三猿まんじゅうについて書いてあった。タヌキ一家の巣から1時間半もかからないところで味わえる源泉かけ流し温泉への旅の誘惑は、2023年がもう終わってしまうという焦りとあいまって、
「明日、予定ないから朝から行こう‼」
と、急遽決まったのだった。
俵山温泉の「町の湯」は、朝6時から営業していて、電話で確認すると、年内は休まず営業するとのことだった。翌日30日の朝6時50分に出発して、まだ日の当たらない暗い山道を、濃い霧の中、俵山温泉へと車を走らせた。気温は-2度~1度と寒く、暖かい温泉に早く浸かりたいと思いながらも、父ダヌキは安全運転を心がけた。
午前7時を少し過ぎると、ようやく空が白んできて、黄色く見えていた月も、白く薄くなっていった。途中、これまた有名な温泉地である湯本温泉を通り抜けて、さらに進むと、レトロな宿場町のようなところが見えてきた。
俵山温泉には午前8時15分頃到着した。俵山温泉に入ってすぐに、観光客のための無料駐車場があったので、車を停車すると、タオルを持って「町の湯」を目指した。
俵山温泉は日本最高レベルのPH値9.8を誇るアルカリ性温泉で、リュウマチや神経痛に効能があるとされている。ここのほとんどの旅館には内湯が無く、泉質と清潔さを守るため、全国的にも珍しい外湯を利用する温泉となっていて、「町の湯」と特産品売り場など施設の充実した「白猿の湯」の2か所でお風呂に入ることができる。
「町の湯」に入ると、入口から硫黄の匂いが漂ってきた。
入口左手に飲泉が出続けている。紙コップに注いで飲んでみると、匂いもそんなになく飲みやすかった。シミ・しわに効くと書いてあったので、もう少し飲もうと思ったが、あまり飲むとお腹が悪くなることもあるようなので、一杯だけ飲んで、チケットを購入し温泉へ。
温泉内は、源泉かけ流しの1号湯と源泉だけれども循環している2号湯の二つの湯舟がある、シンプルなお風呂だった。体を洗って温泉に浸かると、すぐに普通の水とは違うのがわかった。かかとやひざを触ると肌がとろけるような感じがあった。「皮膚の悪いところがとけているのかな」と思うぐらいとろみが感じられる湯で、ゆったりと浸かっていると、体中の皮膚がゆで卵のようになるのではないかと思った。
午前8時半前に入ると、女風呂は4人、男風呂は10人ぐらいの人が入浴していた。みんな源泉かけ流しの1号湯に入りたがるようで、いっぱいの時は2号湯で様子を見ながら、人があがったすきに1号湯へと移動した。
お店の人に聞いたところ、明日の大晦日は人が多くなり、元旦は午前中はそれほどでもないが、昼から人が多くなり、2日・3日は込み合う予想ということだった。
あまり長湯をすると逆に体に悪いと書いてあったので、20分ぐらい浸かって温泉を出た。出た後でまた飲泉を飲んだ。体の内と外でキレイになる感覚がした。
「町の湯」から出た後、町を散策しているとすぐ近くに「白猿の湯」を発見。まだ開いていないので、1階の売店に入ってみる。
売店で「COFFEE&ROASTER YAMA」の100g入りのコーヒー豆を購入した。
「白猿の湯」から引き返して、無料駐車場へ戻る途中、おまんじゅうを焼いている姿が見えた。三猿まんじゅうで有名な「福田泉月堂」は朝8時から開店しており、お店の人がお猿さん型のおまんじゅうを焼いていた。
黒あんと白あんがあった。タヌキ一家は黒あんが好みなので、黒あんばかりをお願いして購入した。
近くの駐車場まで戻ると、まだ焼きたてのまんじゅうを食べた。温泉からあがり、少し町を歩いて冷めてきた体に、ほかほかの三猿まんじゅうが沁みた。
帰る前に、神社にお礼を言って俵山温泉を後にした。
帰り道、湯本温泉にある「吉冨幸進堂」という和菓子屋さんで「黒糖ろおる」を購入した。以前、湯本温泉に来た時に偶然見つけ、試しに購入したらとても美味しく、次回近くに来たら買おうと決めていたのだ。朝7時半から営業しており、本日も俵山温泉に行く途中で前を通たら、もうすでに電気がついていた。
午前11時半には帰宅できた。半日の旅だったが、体中が喜ぶ旅だった。お昼ご飯の後、「COFFEE&ROASTER YAMA」のコーヒー豆を挽いてコーヒーを淹れ、「黒糖ろおる」でひと息ついて、来年の高野山再挑戦を固く誓ったタヌキ一家であった。