タヌキの親子見聞録 ~高野山編⑥~大阪~兵庫(姫路)
第1章 子ダヌキたちの夢の都大阪から姫路へ
飛鳥駅から1時間半ぐらいで大阪駅に着いた。電車の乗り継ぎは、母ダヌキも子ダヌキたちもちんぷんかんぷんで、父ダヌキの背中を一生懸命追って行くしかできない。父ダヌキは、迷いなく乗り換える先の乗り場へ歩くので、その点は本当にすごいと、タヌキたちは尊敬していた。
天王寺駅で200円ぐらいしか運賃を払わないのに、あと10駅先でようやく大阪に着くと聞かされて、
「山口だったら200円じゃ2駅3駅ぐらいしか乗れないんじゃない」(そんなことはない)
と、母ダヌキは驚き、やはり大阪は都会なのだなと感心した。
大阪駅で降りると、午後7時前で、大勢の乗客の中をかき分けて駅を出ると、ポケモンセンターとニンテンドー大阪の入っているデパートへ急いだ。二つとも同じフロアにあり、午後8時には閉まってしまう。父ダヌキの後を一生懸命ついて行く弟ダヌキの足取りは、吉野の山や飛鳥の郷を歩く時よりも力強く、やる気が違うのがよく分かった。弟ダヌキとは対照的に、母ダヌキは、列の一番最後を、重い足を引きずるように、何とかついて行った。
「ここだー‼」
「ようやく着いた‼」
タヌキの兄弟は、思い思いにポケモンセンターとニンテンドー大阪を満喫した。
「あっ!あれやりたい」
弟ダヌキは、大画面でできるゲームをやりたがり、とうとうタヌキたちは閉店の音楽が流れるまでデパートにいた。
「これから姫路に行くけれど、大阪でご飯を食べるか?姫路について食べるか?」
父ダヌキに聞かれても、兄弟はポケモンセンターとニンテンドー大阪で自分の思ったものが買えて満足しているためか、ちゃんとした返事がなかった。
「とにかく宿泊先の姫路に行った方がいい。食事をすると移動が面倒になりそう」
疲労困憊気味の母ダヌキがそういうので、食事を取らず大阪駅から姫路へ向かった。姫路までは約1時間かかり、着いたのは午後9時半頃だった。
「どこかで食べて、ホテルへチェックインしよう」
と、決めたタヌキたちだったが、姫路駅の周辺では食事処がラストオーダーを過ぎ、食べるところがほとんど無かった。
「どうする?」
「もう疲れた」
「でもなんか食べないと寝られない」
疲れた体で荷物を背負い、食事をする場所を歩いて探していると、だんだんと不機嫌になってきた。午後10時頃に、どうしてもコンビニ以外で食事をしたかった母ダヌキが、ラーメンはどうかと難色を示す父ダヌキの意見を振り切って、「姫路タンメン」というラーメン屋に決めて食事をすることにした。
「ラーメン3つとライス一つ」
弟ダヌキが一つ丸々食べるには、メニューの写真を見てボリュームがあり過ぎると思ったので、母ダヌキと分けて、足りないところはライスで補おうとした。しかし、オーダーの時には通ったライスの注文が、途中で、
「ライスが無くなったのですみません」
と言われ、食べられなくなった。タヌキたちの注文の後、カウンターの女性がライスを注文し、それを提供したせいだった。
「こっちが先に注文したのに」
母ダヌキはそう思ったが、仕方がないとやり過ごした。「姫路タンメン」は、上にのっている野菜やお肉がたっぷりで、弟ダヌキに分けてあげても十分ボリュームがあった。注文のメニューが来るまで、お客が多かったり、注文したお客が何かでへそを曲げて途中で帰ったり、お店の店員がそれに動揺して少しごたごたしたり、アルバイトが途中でやってきて対応したり、なんか落ち着かない店なので大丈夫かなと思っていたが、味の方は間違いなかった。
「ごちそうさまでした」
支払いを済ませて帰ろうとすると、決済のシステムがうまく動かず急に現金払いになり、しかもレシートもくれなかった。最後までごたごたしているお店だった。
第2章 温泉付きホテル?
コンビニで飲み物と翌日の朝食にするためのパンを買って、ホテルにチェックインしたのは午後10時45分頃だった。疲れ果てたタヌキたちは、予約した部屋に入ると、荷物をベッドに置いてお風呂の準備をした。
「今日のホテルは温泉付きだから」
父ダヌキは、旅の最後はいつもくたくたに疲れるので、タヌキたちのリクエストを聞いて、温泉とサウナのあるホテルを予約したのだ。
「よしっ!早く温泉とサウナ行こう‼」
タヌキたちはホテルの最上階にある温泉へ行くため、準備をし始めた。
「そういえば、この部屋にも温泉がついてるはず」
と、父ダヌキは温泉を探しに別部屋を見に行った。浴室の隣に、大きな梅干しを漬けるような鉢に、お湯がたまっていた。しかし、側にある竹の筒からはお湯が出ていない。
「これが温泉だよね。なんでお湯が出てないんだろう」
父ダヌキは竹筒をよく見てみたが、お湯を出すような仕掛けは見つけることができない。
「説明の紙には、温泉のお湯は抜かないでとか、温度調節はフロントまで連絡しろとか書いてあるよ」
母ダヌキは、チェックインの時にもらった紙を見ながら、父ダヌキに言った。
「でも、これが温泉なら、お湯が出てないと洗ったりしにくいよね。浸かるだけなのかな?」
せっかく温泉付きのホテルを予約したのに、部屋の温泉の使い方がわからないと入れないので、父ダヌキはフロントまで電話して、温泉のお湯の足し方を聞くことにした。
「この温泉は、この竹筒から常にお湯が出ているのではなく、必要となったらホテルが足すような仕組みになっています」
ホテルの支配人のような風格の男性スタッフが説明してくれた。どうやら、このホテルの温泉は、どこかの温泉地の温泉を運んできて、温泉付きの部屋のお風呂と大浴場へ入れているらしい。だから、湯量に限度があるため、ホテルでの管理が必要であるので、常時竹筒から出すようなことは出来ないというのだ。
「温泉付きっていうけれど、なんか使いづらいね」
部屋のお風呂を使っても、湯量が少なく、すぐにフロントへ連絡するようになるだろうから、タヌキたちは、やはりサウナのある大浴場へ行くことに決めた。タヌキたちが大浴場へ向かったのは午後11時半頃だったので、ほとんど人がいなくて、気兼ねなくサウナも楽しめた。
入浴後部屋に戻ったのは、日付が変わった頃だった。父ダヌキは、みんなを引き連れて予定通りに回るため疲れたのだろう。コンビニで買った新発売のビールの大きな缶を一本開けると、すぐにいびきをかきながら眠ってしまった。母ダヌキと子ダヌキたちは、お風呂の後に小腹が空いたので、コンビニスイーツのチーズスフレを食べて、テレビを見ていたが、
「明日、姫路城は朝の開城時間の9時に行くよ。早く寝ないと起きれなくなるよ」
と、母ダヌキに言われ、ベッドにもぐりこんだ。
母ダヌキも寝ようと思ったが、この旅は、ずっときちんとした食事がとれていないので、最終日ぐらいは、どこかお店で座って、ゆったりと定食か何か姫路名物を食べたいと思った。姫路駅周辺のショッピングや食事処などが載った無料の観光ガイドブックを、さっき夕飯を探し回る際に取ったことを思い出して、何店か目星をつけて眠ることにした。
「明日は絶対美味しいランチをたべるぞ!」
母ダヌキは、ホテルに備え付けてあったコーヒーを飲んで眠い目をこじ開け、みんなよりも1時間遅くベッドに入った。
第3章 世界遺産 姫路城へ
朝7時ごろ目が覚めると、朝食を取って、8時半には姫路城へ向かった。父ダヌキは、温泉付きの部屋を取ったのに、部屋の温泉を全く使わないのはもったいないので、朝風呂に浸かってみた。
「温かかったから、ずっと保温されていたみたい。まあまあ気持ちよかった」
と、さっぱりした顔で出てきた。母ダヌキも、足だけつけて、本日の歩きに備えた。
ホテルは姫路駅の近くで、歩いて駅の北口へ向かうと、姫路駅から出ている通りの突き当りにお城が建っているのが見えた。その両端の歩道を歩く人たちは、多分姫路城へ向かう人達だろう。
「急がないと入場するのに並んで時間がかかってしまう」
タヌキたちは、姫路駅からのびる通りを、城めがけて少しでも早く付けるよう歩き出した。
姫路城前に着いたのは会城時刻の15分前頃だっただろう。大手門から三の丸広場に入ると、姫路城と三の丸広場をぐるっと囲む桜を一緒にカメラにおさめようとする人や、城を見ながら花見をするために席取りをする人など、すでにたくさんの人が広場にいた。
「金曜日の平日でこんなに人がいるんだから、明日やあさってはどんなことになるんだろう」
吉野で見た人の数よりもたくさんの人が、朝の9時前の時点で姫路城前の広場にいたので、タヌキたちはビビってしまった。
姫路城に入るためのチケットを買う列に並んで、ようやく入れたのは9時10分頃だった。並んでいる人の多くは、外国の人が多かった。タヌキたちもそうだが、外国の観光客は城と桜という被写体を撮るのに、あちこち立ち止まりながら、姫路城内部の見学場所へ向かった。
内部見学は靴を脱いでビニール袋に入れて、地下1階からスタートした。テレビなどで見て姫路城の予習はしてきたが、東西の大柱や武者隠しなどを実際見てみると、その大きさや質感など、現地で実際に見てみないとわからないものがたくさんあった。
「しゃちほこって、あんな顔してるんだ」
「石落とすところって、こんな感じなんだ」
タヌキたちは、たくさんの観光客の中で、細い木製の階段を上り、1階1階念入りに興味があるところを見てまわった。姫路城に一番興味のあった兄ダヌキは、マインクラフトのクリエイティブでこの城を造りたいと思っていたので、特に城の細かいところをよく観察していた。父ダヌキも母ダヌキも兄ダヌキに付いて、城の内部構造や窓から見える外の景色を楽しんでいた。
気になった城の構造があったので、城の案内係のおじいさんに聞こうと思って辺りを見回した時に、弟ダヌキの姿が無いことに気が付いた。
「どこ行った?」
「1人で先に行っちゃったんじゃない」
だんだんと観光客が増えて、弟ダヌキを見つけるのは簡単ではなかった。
「どうしよう?」
「もっとしっかり見たいのに」
父ダヌキと母ダヌキと兄ダヌキは、悩んだ挙句、弟ダヌキを見失った3階で、城の案内係のおじいさんにお願いして、出口に戻る階段の列に入れてもらって、弟ダヌキを探すことにした。
第4章 下手な羞恥心
「まだ見てないところがたくさんあるのに」
兄ダヌキは不服そうに階段を降りる。
「係の人に頼んで、もう一度見学させてもらうから」
父母ダヌキは、兄ダヌキをなだめながら、たくさんの人が出口へ向かう1階へ向かった。すると、出口付近のベンチで見覚えのある後ろ姿があった。
「こらっ!1人でさっさと降りて!」
「こんなにたくさんの人の中で迷子になったら大変でしょうが!」
父母ダヌキの雷を一気に浴び、弟ダヌキは顔をこわばらせた。迷子になったのも困ったが、大勢の観光客の中で叱られるのも恥ずかしく嫌だったのだろう。
「まだ兄ちゃんが4階から見てないから、城の係の人にお願いして、もう一度1階から見学していくよ!」
「今度はぐれたら、もう連れて帰らんからね!!」
そう怒られると、そそくさと父母ダヌキの後を追うように、見学スタート場所に移動し、地下1階から細い階段を、観光客の列に連なって上り、まだ見ていない4階から見学を再開した。
どうしてもあちこちしてしまう弟ダヌキを、2度と見失わないように、母ダヌキは尻尾をしっかり捕まえて、城を観光したので、必要以上に疲れた。そんなのはお構いなく、興味がない城の中をふわふわと歩いて観光する弟ダヌキであった。
城の内部見学を終え、外を見学していると、城前の広場に枝垂桜がきれいに咲いていた。その側にかの有名な「お菊井戸」があったが、みんなそれどころではなく、きれいな桜を撮ることで一生懸命のようだった。城前の広場から離れて、城の石垣の側まで近寄って石落とし場を見上げていると、備前門の方からあずき色の衣装を着た忍者が突然現れた。子ダヌキたちは「あっ!」と言ったが、羞恥心が芽生えたのか、興味がないふりをして横目でちらちらと見ていた。そこへ歓声を上げながら外国人観光客の親子がやってきて、一緒に写真を撮って欲しいとジェスチャーで忍者に頼んだ。忍者は外国の観光客に引っ張りだこで嬉しそうに見えた。タヌキたちも、外国人観光客のように、素直に写真を撮って欲しいとお願いできたらよかったのだが、「どうってことないです」と言わんばかりに、さっさと忍者と写真撮影している横を通り過ぎて行った。
姫路城の最後の見学場所である西ノ丸へ向かう途中、城の入口を通るのだが、朝よりも多くの観光客であふれていた。西ノ丸前の広場に、姫路城と桜と松が見える場所があり、みんなこぞって写真におさめていた。
西ノ丸からは、次に向かう予定の好古園がお堀の向こうに見えた。
第5章 甘く見ていたランチタイム
姫路城に入る時に、好古園にも行くつもりだったので、タヌキたちは姫路城と好古園が入場できる、お得な共通券を購入した。大人1050円、小・中学生360円で、タヌキ一家は合計700円も得をした。
城から出ると、大手門へ向かう途中、三の丸広場全体で交通安全か何かのイベントが行われていた。たくさんの人がそのイベントに参加しているのか、三の丸広場は人やイベントブースでいっぱいになっていた。時刻は11時半になろうとしていて、ここで昼食へ向かったほうがいいかなと思ったが、好古園まで戻ってくることができなくなりそうなので、タヌキ一家は大手門を出て、右に曲がり、好古園へ向かった。
姫路藩主の下屋敷があったこの好古園は、池泉回遊式庭園(ちせんかいゆうしきていえん)で、姫路城を望む本格的な日本庭園である。入ってすぐにあるレストランは、もうすでに行列が出来ていたが、母ダヌキが昨夜チェックした店はここではないので、予約リストに名前を書かず、庭園をまわってみることにした。園内は高級料亭のような雰囲気で、俳句の1つでも読めそうな、風流な庭園だった。池の上を渡る廊下や、石橋の上を、スペイン語を話すお年寄りたちが、泳ぐコイを見ながら、小さな子どものようにはしゃいでいた。
正午を過ぎると、この旅行期間で一番天気が良く暑くなった。持参している飲み物を飲んで、喉の渇きと空腹を紛らわせながら、駆け足にいろんなテーマの庭を見学した。
「よし!まだ1時前だから、ランチ行けるでしょ」
タヌキたちは急いで好古園を出ると、姫路駅方面へ、昼食を求めて歩き出した。
城前を再び通って、朝とは別の商店街の通りを姫路駅へ向かおうとすると、城前の道路をはさんだ反対側の広場では、出店がたくさん出ていてお祭りのようだった。
「今日平日なのに、すごいね」
母ダヌキは、たくさんの人達が、出店で売っている物を美味しそうに食べているのを見て言った。タヌキ一家になんとなく嫌な予感が流れたが、
「平日だし、大丈夫だろ」
と、言い聞かせ、疲れてあげるのも困難な足を鞭打って、ランチを求めて目的のお店へ急いで向かった。
「あっ!ここだ!5種類くらいから選べるランチメニューがあるはず」
母ダヌキが、昨夜探していたお店を見つけると、のれんをくぐった。
「すみません、ランチは売り切れてしまって」
お店の人が申し訳なさそうに言った。
「えっ!まだ1時前ですよね?」
「人が多くて売り切れです」
第一候補のお店が撃沈して焦った母ダヌキは、すぐ近くにある第二候補を父ダヌキに案内すると、
「ここ居酒屋じゃないの」
と、難色を示した。お店の看板にある写真を見て兄ダヌキは、
「オレ、アナゴとか海鮮無理だから。マック無いの?」
と、眉間にしわを寄せた。唯一、弟ダヌキだけ、
「アナゴのてんぷら美味しそうだよ」
と、賛成してくれたが、他の2人が嫌な顔をして文句を言うので、疲れがピークに来ていた母ダヌキはキレた。
「だったら、あんたたちがみんなが納得する店を探してよ‼」
第6章 青い権現様のような母ダヌキ
毎回よく歩く旅のタヌキ一家であったが、今回はスケジュールを詰め込み過ぎて、食事をゆっくりとる時間がほとんどなかった。1日目のスシローで少しゆっくり食べられたぐらいで、その他は立ち食いや落ち着かないラーメン屋など、時間を気にせずゆっくり地の物を堪能することが出来なかった。それに、1日目は雨の後処理があり、父ダヌキや子ダヌキがゆっくり風呂に入っている時間に、母ダヌキは休まず働いていた。だから、余計に「最後の日ぐらいゆっくり美味しいもの食べるぞ!」と、いう意気込みが強い母ダヌキだった。しかし、思うようにはいかず、ランチタイムにお目当てのお店が売り切れてしまってたり、自分の選んだ店を他のタヌキに難癖付けられたりして怒りが爆発したのだった。母ダヌキの怒った顔は、金峯山寺で拝んだ青い権現様の顔のようになっていて、それを見た父ダヌキも子ダヌキたちもどうしたらいいかわからず、姫路駅周辺の食事処をおろおろしながら探した。
「こんなになるんなら好古園のお食事処で予約を取っておくべきだった」
と、父ダヌキは言ったが、時はすでに遅く、どこのお店に行っても、母ダヌキが見つけていたような選択肢がいくつかあるご飯屋さんは簡単には見つからなかった。海鮮にすれば兄ダヌキが嫌な顔をし、鳥にすれば地元飯が食べたい父ダヌキが難色を示した。
「私は、あんたたちが寝ている時間に、どこに食事に行ったらいいか探してたんだよ。それに文句つけるんだったら、みんなが納得するところに連れて行ってよね!」
母ダヌキの背中から、怒りの気が青い炎になって燃え上がっているようだった。父ダヌキも子ダヌキたちも、食べたいものが一致せず、結局は、父ダヌキはアナゴ飯弁当を選び、子ダヌキたちは別の売店で唐揚げとおにぎりを買って、新幹線の時間が迫っているため姫路駅構内で食べた。
「結局アナゴ飯にするんなら、私が選んだ2番目のお店でも食べられたよ。何種類かあったから、アナゴじゃないのも選べたと思うよ」
母ダヌキは、父ダヌキの選択に納得がいかない様子で、眉間に大きなしわを寄せて怒りながら言った。そして、怒りで食欲まで失った母ダヌキは何も食べずに山口へ帰ったのだった。
帰宅してからも、夕飯を作る気力を失った母ダヌキは、さっさと部屋に閉じこもって眠ってしまった。父ダヌキや子ダヌキたちは夕飯もしっかり食べたのだが、母ダヌキは食欲が無く、みんなの顔を見るとまた怒りの炎が燃え上がるので、何も食べずに部屋に閉じこもって眠った。
次の日、フラフラしながら部屋から出てきた母ダヌキは、
「私は、その土地の美味しいものをゆっくりと味わう時間が欲しかった。あんたたちがニンテンドー大阪やポケモンセンターに行けなかったらどう?悲しいでしょ?それと一緒で、楽しみにしていた食事が取れなかったから怒ったの」
と、子ダヌキたちに怒りの原因がわかるように説明した。子ダヌキたちは、ポケモンセンターとニンテンドー大阪に行けなかった自分たちを想像したのだろう、
「それは怒るよね」
と理解を示した。
「本当に、旅の最後でこんなに怒ってしまって、旅を台無しにしてしまったのは申し訳ないけれど、我慢ができなかった。こんなふうになるのなら、私はみんなと旅をしない。また怒って旅を台無しにしたくないから」
母ダヌキは、最後に怒りに狂って、楽しいはずの旅が台無しになったことを後悔していた。母ダヌキの言葉を聞いて、父ダヌキも子ダヌキたちも何も言えず立ち尽くしていた。
青く燃える権現様は、母ダヌキの弱いところや悪いところを燃やしきらなかったのだろうか。それとも、燃やしたから、こうやって自分の気持ちを素直に表すことができ、怒ってしまったのだろうか。いずれにしても、スケジュールがきつい旅は、どこかにしわ寄せがきてしまうといういい教訓ができた旅であった。