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暗い海の美女と円形脱毛症
あくる日の朝、私は真っ暗な海の底で目を覚ました。
ぼやけた視界であたりを見渡すとゆらゆらと動く光が見える。
よく目をこらすと、それは深海魚だった。
醜い造形をしたそれを幻想的な光が美しいものであるかのように振舞っている。
ふと、海の底にも社交辞令のようなものがあるのだろうかと思った。
もちろん、りんごは赤い。
しかし、人魚が本当に存在するのだとしたら、きっと暗い目をした陰鬱な存在に違いない。
鱗は
【彼の記録、彼方から。】2018/05/07
スマートフォンのアラームが鳴り響く。
連休の間、ずっとアラームを使わずに起きたい時間に起きる生活を続けていたエヌには、そのアラームが脳髄まで響いているように思えた。
しかし、無理矢理にでも布団から出ると、意外にもすっきりと目覚めることができてエヌは驚いた。
これまで経験上、連休明けの朝は黒ずんだオイルのような憂鬱に苛まれることが予想していたので意外だった。
自由奔放で自分勝手に生きているエヌだが
【彼の記録、彼方から。】2018/05/06
何もない日だった。
少なくともエヌにとっては。
大型連休の最終日、エヌはとくに予定もなく、ふらふらと街に出た。
部屋にこもっていると、考えたくもないことが頭に浮かんできてしまう。
本来、エヌはインドアな人間だが、何か辛いことがあるとどこかへ飛び出してしまいたいと思う習性がある。
その日も、堂々巡りする答えのない問いに悩まされ、居ても立っても居られなくなり、街へ出た次第である。
クラッチバックに電子
【彼の記録、彼方から。】2018/05/05
その日もいつものように、私より一足先にエヌがバーにいた。
私が店に入ったのに気づくと軽く右手を上げる。
そして何事もなかったかのように、ウイスキーの入ったロックグラスを暗い顔で眺める。
「自分がどうしようもない人間だって気づいたんだ」
私がエヌの隣に座ると、にわかにそう呟いた。
「そんなこと知っているよ。なにを今更」
「君は真面目な男だけど、デリカシーってものがないね」
「人を選んで、言葉を選んで
【彼の記憶、彼方から】2018/05/03
「そういえば、昨晩、絵描きになると言っていたけど、まだ気は変わらないのかい」
皮肉交じりにエヌに尋ねてみた。
彼は余熱で生きているような人間なので、どうせあの情熱だってすぐに冷めているに違いないと思ったのだ。
しかし、エヌからの回答は意外なものだった。
「もちろんだとも。今日だって絵を描いていたんだ。幸い僕には友達が少ないから、邪魔が入らず集中して描くことができたよ」
他の誰かが言っていたなら「か
【アイデア】電子書籍版物理本棚
電子書籍版の物理的な本棚があったら面白そう。
イメージとしては、本棚サイズのディスプレイがあって、
タップすると電子書籍端末で選んだ本が開かれるイメージ。
スペースを取らないことが電子書籍のメリットの一つで相反する性質のようにも思える。
ただ、もう少し大きなくくりで「読書」というくくりで捉えた場合、そこまでナンセンスではないように思う。
読みたいを本を本棚から探すという行為が与える印象って意外と大
【彼の記録、彼方から。】2018/05/02
「絵描きになろうと思うんだ」
唐突もなく、エヌはそう言った。
突飛なことを言うのが常だから、もはや驚きはしなかったが、
これまた、絵描きとはどういうことだろうか。
「どうしてまた、絵描きになろうなんて思い立ったんだい?」
「簡単なことさ、自分の描きたいものを自由に描けたら楽しいに決まっているじゃないか」
「それは、そうに違いないが。私が知りたいのはどうしてそう思うに至ったかということなんだ」
「バ
【彼の記録、彼方から。】2018/05/01
いつものバーに行くと、一足先にエヌが一番奥のカウンター席に座っていた。
その日、エヌは山手線大塚駅近くのバッティングセンターに行ったらしい。
人もまばらな閑散とした真昼間のバッティングセンターで、黙々とバットを振り続けたと言っていた。
その日、エヌは有給休暇を取ってのんびりとしていたらしい。
有給を取ってまでして、なぜバッティングセンターに足を運んだかは謎だ。
きっとエヌのことだから、理由なんて
傷ついていないのに慰めないで、傷つくから。
ある日、僕は重要なプレゼンを任された。
重要といっても、社内向けのプレゼンだし、僕がプレゼンに失敗したところで会社になんの影響も与えない些細なプレゼンだ。
重要というのは、僕にとって重要であるという意味だ。
僕はプレゼンにこだわりがある。
自分のためのプレゼンではなく、参加者のためのプレゼンにする。
それが僕のこだわりだ。
プレゼン慣れしている人にとっては当たり前かもしれないが、
新卒2年目の僕に