飄香(広尾)
冬の寒い日、広尾の飄香(ピャオシャン)へ。良かったポイントをメモ。フレンチのテイストが入った四川料理。
まず器が素晴らしい。四川から上海に流れる長江流域、太湖付近に景徳鎮というポーセリン(磁器)の産地があるらしく、一人の作家の作品をオーダーメイドして揃えている。16世紀のお茶文化と共にヨーロッパに伝わったチャイナの中心地で、粗く言えばマリアージュフレール等で使われるポーセリンの源流と言える。硬質な器は長石によるガラス化が必要だが当時付近の山でしか長石が採れず多孔質で脆い陶器の時代に高級茶器として流行した。*1
料理と同じくらい(それ以上に?)磁器のデザインが際立って目を惹いた。中国茶を飲みながら空いた器を卓に並べてうっとり眺めるだけでも楽しい。自分は裏千家だったので陶器が好きだと思っていたけど、磁器の方が好きかも。
難しいフレンチと四川料理の合成の解として、四川の典型である麻辣ではなく薬膳や食材方向からフレンチとの間に見出せる細い共通接線の上を綱渡りをしているようなハラハラ感があった。確かに麻辣を使わなくても食材は四川、ソースをフレンチにすれば合成したと言える*2。でもやはりギリギリ。分離する文化をいかに繋ぎ止めるか腐心しているように感じた。
それで不自然なほどポーセリンにこだわっている説明がつく。全く関係しなさそうなものの間にギリギリ成立する絶妙な「縫い目」を発見し総合芸術として成立させるためには、どうしても全方位からにじり寄る必要がある。ポーセリンは距離がある四川とフレンチの文化の総合的な接続を補強するための記号として機能している。食材に麻辣を使っても、食器にフレンチポーセリンを使っても四川xフレンチの合成は成立しない。
その縫い目の上でもメインが素晴らしい。パリパリとした皮に北京ダックの風格を残しつつ火入れはフレンチのように厳密、ソースは金華ハムとパイナップルなどで四川に寄せており、曲芸のようなフュージョンの中でもどっしりとした火入れの精度の安心感に支えられた傑作。
食器には金継ぎされたものがあった。自分ならレストランをしていて割れた食器を金継ぎして客に出せるだろうか。たぶんできない。この金継ぎには文化に対する造詣の深さと余裕(オーダーメイドなので一つの食器が高価という)経営のバランス感覚を感じた。割れた(金継ぎした)食器を出してもコンテキストが伝わるだろうという、客層に対する信頼感があって初めてできる。
*1 ちょっと不正確なので補足。ボーンチャイナのマグカップがマリアージュフレールから出ている。対してウェッジウッド、フォートナム&メイソンなどのイングランド系ティーサロンではボーンチャイナが人気らしい。
*2 ポジションの取り方としてはわかるが本当に必要な探求なのかは正直よくわからない(くらい難しいと感じた)。
(おわり)
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