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コーチ物語 クライアント27「見えない糸、見えない意図」その6
こんな感じで二回目のレクチャー終了。今日はとても大きな収穫があったな。終わった後はいつもの通り、みずきと食事。
「でね、コーチングの聴き方ってすごいと思ったの。こういう風に早く自分もなってみたいなぁ」
今日は韓国風の焼肉店。レタスにお肉をくるんで、それをほおばりながら話をする私。今日はみずきが一方的な聴き役になってくれているので、調子に乗ってたくさんしゃべりすぎちゃった。
「真澄、やっとコーチングの本質に気づいたみたいね。コーチングって相手の心を読むためのものじゃなく、相手の心の中にあるものを引き出すお手伝いをするもの。そこにやっとわかってくれたんだ」
「えへへ、本では読んでも私って感覚で身につけるタイプだから。ミクの実践のお陰でなんとなくそういうのがわかってきたわ」
そんな話をしていたら、隣にいた男性二人組が私たちに声をかけてきた。
「あの、失礼ですけど。今コーチングの話をしていませんでした?」
「えっ、は、はい」
「いやぁ、もしよかったらもう少しその話、詳しく教えてくれませんか?」
そう言って二人組が名刺を出してきた。
「はまなホーム、営業今井さん。住宅会社の方ですか?」
「えぇ、実はこいつと私、今営業で困っているんですよ。で、上司からお前らコーチングを身に付けてこい、なんて言われて。で、どうすればいいのかちょっと困っていたところで」
二人の話はこうだった。住宅の営業をやっているけれど、なかなか成約に結びつかないとのこと。何が足りないのかを考えていたけれどそれがわからなくて。そのことを上司に相談したら、コーチングの話をされたそうだ。
「もっとお客様のニーズを引き出さないと、信頼される営業マンになれないって言われて」
一人は今までコンピュータの仕事をしていた畑中さん。今までの仕事に限界を感じて。で、地元に帰ってきてはまなホームの営業マンを始めたらしい。もう一人の今井さんは、学校を卒業してもなかなか就職できずアルバイトで食いつないでいたらしい。で、はまなホームの社長から拾われて営業をやっているとか。二人とも営業経験ゼロからのスタート。
「なるほど。じゃぁ、今真澄が習っている先生に習いに行くっていうのはどうかな? 真澄はコーチングの個人レッスンを受けているの」
「ぜひその先生を紹介してください!」
なんだかトントン拍子にコーチングのレッスン仲間が増えちゃったな。でも、ちょっとうれしいのはコンピュータの営業をやっていた畑中さんがちょっと私のタイプだってこと。うまくいけば新たな彼氏ゲット、かも。
「真澄、今何考えているか当ててあげようか」
焼肉屋の帰り道、みずきがそんなことを言ってきた。
「えっ、いいわよ。当ててみてよ」
「さっきのうちの畑中さん、彼がいいなぁって思ってるでしょ」
「えへへ、ばれちゃった?」
「だって、真澄ってずっと畑中さんの方を向いているんだもん。こりゃ意識しているなってわかっちゃったわよ」
「みずきも人の心を読むのがうまくなったなぁ」
「これも羽賀さんのコーチングを受けているおかげよ。羽賀さんは耳じゃなく目で聴けって言うの」
「目で聴く?」
「そう、言葉にならない感情や思い、それは態度や表情で出てくるんだって。だからしっかりと相手を観察しながら、今何を考えているのかを感じ取るようにして聴くことた大事だって」
目で聴く、かぁ、それはミクは教えてくれなかったな。よし、来週までに目で聴くってのを意識してみよう。もちろん、今日学んだあいづちやうなずきなんかもうまく入れて。やることがたくさんになってきたな。
翌日、私は早速課長の話を聴く時から意識をしてみた。ちょっとわざとらしいくらい大きくうなづいて。あいずちをうまくいれて、わからないところは積極的に質問。
「じゃぁ、そういうことで頼んだぞ」
「はい、わかりました」
課長の態度がいつもとちょっと違う。いつもは必ずと言っていいほど、私に何かを命令した後は「大丈夫かなぁ」とつぶやいていたのに。今日はそれがなかった。それどころか、やたらと晴れ晴れとした顔をしている。
私は私で、課長が何をお願いしたいのか、今まで以上に手に取るようにわかった。特に今回の会議資料の注意点。縦と横が混在しているから、綴じ方の方向には十分注意をすること。さらに出席者は十人だけど、あとで役員報告用の資料も必要だから十二部いること、など。今までだったら出席者が十人ってところしか頭には残っていなかったからなぁ。 この日の夕方には資料が完成。早速課長に提出するとこんな言葉をかけられた。
「真澄くん、今日はなかなかいいじゃないか。うん、こうやって仕事をしてくれれば私も怒らずにすむんだよなぁ」
まぁ、これは褒め言葉としてとっておこう。何にしても相手の話を聴く態度を変えただけで、こんなに気持ちよく仕事ができるなんて。今まで私損をしていたよなぁ。よし、この聴くってのに磨きをかけなきゃ。
私は一つのことに熱中すると燃えるタイプ。とことんまで突き詰めてやろうって思うのよね。でもその想いが強すぎて、彼氏になった人のことも知りたいって思いすぎて。それがしつこいって思われて、別れる羽目に。今度こそ逃さないようにしなきゃ。って、まだ畑中さんが私のことをいいって思ってくれたわけじゃないのに。
なんてことを思っていたら、就業後のロッカールームでみずきからこんな提案が。
「昨日の二人と一緒に飲みにいかない?」
「えっ、でも大丈夫かな?」
「えへへ、実はすでにもう連絡済みなんだ」
みずき、いつの間に。というか、どうやら今までアルバイトで食べていた今井さんから電話があったらしい。もう少しコーチングレッスンについて聞きたいので、今度四人で会えないかって。
「行くいく! で、いつなの?」
思わず乗り出してしまった。行くのは今度の土曜日。こりゃ気合を入れなきゃ。うまくいくと、私の運命の赤い糸が結ばれるかもしれないし。今度こそチャンスを逃さないようにしないとなぁ。
あ、その前にちょっと自信をつけたいな。ということで私は早速ミクに電話を入れてみた。こういう時のコーチングのコツを教えてもらおうと思って。
「じゃぁ、今日はちょっと仕事があるから。金曜日のいつもの時間なら大丈夫だよ」
「ミク、私の運命がかかっているから、よろしくお願いします」
電話口でミク大明神に祈る私。どんなアドバイスがもらえるかな。ちょっと期待しつつ、金曜日を待つことになった。その間にももちろん聴くことの訓練は欠かさない。おかげで今週は課長に怒られずに過ごせそうだ。こういう結果が出るのもコーチングさま様だなぁ。ミクに足を向けて寝られないや。