コーチ物語 クライアント23「まさかの一日」その4
「そうか、集客か……赤坂さん、ちょっと質問してもいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「赤坂さんがこれがあれば絶対に行くってお見合いパーティー、どんなことがありますか?」
「そうですねぇ……」
私が悩もうと思った瞬間。
「はい、はい、はーい!」
さっきまでアレンジフラワーを見ていた明神さんが急に話に割り込んできた。これにはびっくりだ。
「はい、どうぞ」
羽賀さんは冷静に明神さんを受け止め、意見を促した。
「はいっ、やっぱりカップル制約が確実なこと。これがあったら私は間違いなく行きますよ!」
何を当たり前なことを、そう思ったのだが。羽賀さんは違った。
「うーん、なるほど。確実にカップルになれるってこと。これがあればいいってことですね」
「だって、そのために行くんだから。ね、赤坂くんもそう思うでしょ」
半分強制的に首を縦に振らされた感じもするが。しかしその意見はもっともだ。羽賀さんはさらに言葉を続けた。
「では、100%とはいかないにしてもカップル成約率が高いってことになるとどうでしょうね?」
「確かに、それはいい謳い文句になりそうだな。みんなそのために必死になって相手を見つけようとしているんだから」
うん、そういうのはいいかもしれない。
「でもさ、どうしようもない人って来ちゃうよね。超オタク系の人とか、明らかに不潔そうな人とか。そんな人もカップルにさせちゃうなんて、さすがに無理じゃない?」
「明神さんの意見ももっともですね。だからこそ、今夜の企画があるんですよ」
今夜の企画? 羽賀さんに言われて思い出した。そうだ、もともとは羽賀さんが講師をするセミナー、
『あなたの婚活、応援します。婚活パーティーでの上手なコミュニケーションのとりかた、教えます』
これを見たからここに来たんだった。
「そうか、事前にしっかりと教育をすること。これがあれば婚活パーティーやお見合いパーティーもうまくいく確立が高くなるわけだ」
「はい、そのとおりです。今回この企画は、とある結婚式場から依頼されたものなんです。そこはたまに婚活お見合いパーティーを開いているのですが。なかなかうまく行かないということでボクに相談があって。それでこれを開くことにしたんです」
そのアイデア、いただきだ。そう思ったのだが。よく考えてみたらこの結婚式場が羽賀さんをお抱え講師にしてしまったら、ボクたちがやることは二番煎じになってしまう。これではダメだ。
ボクは頭をかかえてしまった。
「よかったら、お茶をどうぞ」
ここでお花屋さんの店員さんが私達にお茶を入れてきてくれた。
「舞衣さん、ありがとう。舞衣さんの入れてくれたお茶は天下一品ですからね。ぜひ飲んでみてください」
羽賀さんの勧めもあり、とりあえずお茶に手を付けることに。
「う、うまい。まさかこんな味に巡り合えるとは……」
今日何度目のまさかだろうか。しかしこんなに感動的なまさかに出会えるとは。これにはおどろいた。
「すごーい、これおいしー。ね、どんなお茶使ってるの? どうやって入れてるの? ね、教えておしえてっ。私も彼氏ができたら、こんなお茶いれてあげたいなー。お願い、教えてっ!」
明神さんは舞衣さんに質問攻め。
「明神さん、落ち着いて。こらこら」
「あはは、お茶は普通のスーパーで売っているお茶よ。別に高級なものは使っていないわ。私は私が淹れたお茶を飲んでくれた人がおいしい、幸せな気持ちになってくれたらな、そう願いを込めて淹れているだけなの」
「うそーっ、それだけでこんなに美味しいお茶が淹れられるの? もっと他にコツがあるでしょ。こんなお茶を出されたら、男性もイチコロじゃないの?」
えっ、明神さん今なんて言った? こんなお茶を出されたら男性もイチコロ……
「そ、そうかっ、ひらめいた!」
私が急に立ち上がってそう言ったものだから、みんなびっくり。
「赤坂くん、急にどうしたのよ?」
「それだよ、それ。男性は女性の何に惹かれているのか。逆に女性は男性の何に惹かれているのか。そこが事前にわかっていれば、そしてそこに対してしっかりと学習をした上で婚活お見合いパーティーにくれば。当然成約率は高くなるに決まってるじゃない。そういう仕組をつくっておけばいいんだよ」
「なるほど、そこで事前に必要な学習まで仕掛ければ、当然ながら相手の気を惹くことも可能になりますね」
「はい、今までのパーティーって、その場で短い時間で相手のことを知ろうとしたり、自分のことをアピールしようとしたりするから無理があるんですよ。この部分にしっかりと時間を掛けて、さらにそこを教育するような仕組みを作れば」
「なるほど、それは面白いですね。ボクはコミュニケーションの教育しか頭にありませんでしたが。その他のことだって興味はあるんだから。それこそ、美味しいお茶を望んでいる男性がいれば、舞衣さんが講師になってお茶の淹れ方を教えるなんてこともできるかもしれませんね」
「えーっ、私講師なんかできませんよー」
羽賀さんの言葉に照れながらそう答える舞衣さん。しかし羽賀さんの言うお茶の入れ方講座なんてのも女性向きにはありだな。
「それならさ、四星商事が抱えているカルチャーセンターがあるじゃない。あれと連動させるような仕組みを作ったらどう?」
「明神さん、ナイスアイデア! そういうところで短期的な集中講座を受けるだけでも違うし。それもパッケージにした婚活お見合いパーティーなんてのもいいかもしれないな」
「ちょっと高額になっちゃうかもしれないけど、確実に相手が見つかるのならそのくらいのお金出してもいいって人は多いんじゃないかな」
明神さんが急に冴えだした。確かにその意見にはボクも賛成だ。ある程度年齢がいっている独身男性ならそれなりのお金も持っているはずだし。こういうのにはお金を使ってくれるかも。これなら他の婚活お見合いパーティーとは違うブランド性を打ち出せるかもしれない。
「なんだか急に話がトントン拍子に進んじゃいましたね。でもかなり面白そうな企画ですね」
羽賀さんはにこやかな顔でそう言ってくれる。ボクもまんざらではないとい気持ちになってきた。
「じゃぁ早速行動を開始しよう。明神さんは一般的にどのようなニーズを相手に求めているのか。そのアンケート調査をお願いします。ボクはこのアイデアを早速企画書にまとめて、部長に振ってみます」
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