11月は薬剤耐性(AMR)対策月間
毎年11月は薬剤耐性(AMR)対策推進月間
去年からはPCRの3文字がずっと話題になっていますが、AMRのことも忘れてはいけません。
AMRはAntimicrobial resitanceの略で、抗菌薬が効かない「薬剤耐性」を意味します。
抗菌薬(抗生物質)は細菌感染症に利用される薬剤ですが、使い方を間違えると、これまで効き目のあった抗菌薬が、細菌に対して効かなくなる、すなわち薬剤耐性を獲得して、感染症治療がうまくいかなくなることが問題になっています。
この薬剤耐性による影響で、何も対策をしなければ、2050年にはこの薬剤耐性で年間1,000万人が世界中で亡くなる推定が報告されています。(資料は厚生労働省)
このため薬剤耐性に対して世界中でアクションが必要です。
2015年には世界保健機関(WHO)が薬剤耐性に対するアクションプラン(Global action plan)を策定し、WHOは、加盟国に対してもそれぞれの国でアクションプランを作成・実行することを促し、日本でも2016年からアクションプランが策定されています。
この薬剤耐性(AMR)対策アクションプランには、6つの柱である
①普及啓発・教育
②動向調査・監視
③感染予防・管理
④抗微生物剤の適正使用
⑤研究開発・創薬
⑥国際協力
が含まれており、また医療分野だけではなく、動物・畜産分野や環境分野においても重要であり、さまざまな分野が薬剤耐性対策に取り組まなければいけません。
薬剤耐性対策には不必要な抗菌薬を使わないことが重要ですが、単に量を減らすことだけが目的ではなく、適切な抗菌薬使用(Antimicrobial stewardship)をしていくことが薬剤耐性対策においては大切です(必要ないときに使わないに越したことはありません)。
ペニシリンの発見
昔から肺炎や敗血症などの細菌感染症で人々は命を落としてきました。
人類の歴史は感染症との戦いとの歴史でもありますが、この感染症治療の大きなブレイクスルーのひとつがアレクサンダー・フレミングによる最初の抗菌薬であるペニシリンの発見です。
フレミングは青カビからペニシリンを発見し、1929年に論文で発表。その後1945年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。
実際に薬剤として利用されたのは発見から10年以上経った1942年ですが、そこから多くの人々を感染症から守っています。1940年代は第二次世界大戦でもあったので、負傷兵や戦傷者にも利用されていたようです。
フレミングによるペニシリン発見のことはよく知られていますが、実はそれより早くに抗生物質を発見した科学者がいました。
それが秦佐八郎で、ドイツのエールリッヒ(ドイツの細菌学者。1908年ノーベル賞受賞)の元で学び、サンバルサンという抗生物質を発見し、梅毒の治療に利用されました。
のちに副作用の影響が大きいためペニシリン以降は使われなくなったようです。
耐性菌の出現
ペニシリンが実用化されてから、ペニシリン以外にもさまざまな抗菌薬が開発されました。
これ自体はよいことなのですが、使用するにつれて、今度は細菌がその薬剤に負けない耐性を持つようになりました。
ペニシリンが利用されはじめた40年代からペニシリンに効きにくい細菌が確認されています。有名なものにMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)というものがあり、1961年にこのMRSAの感染例が確認され、日本でも1980年代から医療機関で問題になりました。
ひろげない、つくらない
耐性菌をつくらないためには、不適切な抗菌薬使用をやめることです。抗菌薬そのものをやめてしまうことはできないので、必要のない抗菌薬の使用をしないことや、またターゲットとなる細菌・感染症に対して適切に使うこと、適切な期間、治療に使用することが重要です。
また処方された抗菌薬を余らせたり、次の時にとっておいたり、人にあげることも薬剤耐性をつくることになります。そのため自分の判断で処方された薬の使用を止めたりしないことです。
細菌もウイルスと同様、人の手を介して広がることがあるため、手洗いや消毒も重要です。
感染症によってはワクチンもあるため、感染して広げないように、ワクチンで予A防することも大切です。
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)もパンデミックですが、薬剤耐性もゆっくり広がるパンデミックです。
薬剤耐性で苦しまない2050年を迎えたいですね。
トップの画像は、国立国際医療研究センターホームページより
http://amr.ncgm.go.jp/information/campaign2021.html