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違法の冷蔵庫 ~ショートショートnote杯~
【前書き】
先日、ショートショートnote杯というコンテストを知った。参加者各位の作品をいくつか拝読するうちに、当方も一作だけ執筆してみようと思い立った。なにせ “誰でも気軽に” と謳われている。
作品の文字数は、上限僅か410字。凡そ原稿用紙1枚分である。
そして、タイトルは予め用意されている11個の中から選ぶ必要がある。
当方は「違法の冷蔵庫」にタイトルを定め、以下本文410字丁度で纏める。スペースは1字とのことなので、普段用いる文頭のスペースを取り除く。改行が字数に入るか分からず、その他不備があるやもしれないが、細かいことを気にせず、さくっとお出ししたい考えである。
【本文】
兄は就職活動で挫折して、自室に籠りがちになった。何か法に触れることを仕出かしそうな雰囲気である。
そんな状況が長らく続き・・・
或る晩秋の夕暮れ、私が学校から帰宅すると、鍵の掛かっていない家の中は薄闇だった。肌寒い空気に血生臭い匂いが漂っていた。
「ただいま」
いつもの返事はなかった。
電気を付けると、居間のソファーに兄の背中が浮かび上がった。悲鳴を上げそうになったが、兄はぴくりと動いた。
「お兄ちゃん」
「ほっといてくれ」
ふいに思い出されたのは、母と兄が激しく言い争った昨晩のこと。
「お母さんはどこに行ったの?」
兄は誰もいない台所を気怠げに指差した。そこには大きな冷蔵庫がある。
ま、まさか・・・
私は恐る恐る近付いた。嫌な匂いが増してゆく。
そして、震える手で冷蔵庫を開けた。
『チンして食べてね』
そういえば婦人会だった。冷蔵庫は直筆の温もりを冷やさず、背筋をほっと温めてきた。
違法だと笑い飛ばして、シンク台に横たわる魚に目を向けた。