ボクらのみつけた偶然の空 〜『闘魂2019』ライブ配信レポート 〜
2021年9月3日。「オンライン ライブハウス」を標榜する、ライブ配信プラットフォームのLIVEWIREで、以前に行われたあるライブが配信されました。
そのライブとは、『 闘魂2019 -Fishmans × cero- 』。
【概要】
” Fishmansが、YO-KING、SUPER BUTTER DOG、HONZI、Buffalo Daughter、東京スカパラダイスオーケストラといった面々を競演者に迎え、1997年から99年にかけて行っていたシリーズ企画「闘魂」。2019年2月にこの「闘魂」が20年ぶりに開催、対バン相手にはceroが選ばれ、世代を超えた注目の競演が果たされた。”
音楽ライブのオンライン配信は、コロナ禍でライブ会場の入場人数制限や無観客開催などを余儀なくされた昨年以降、急速に拡大しました。
しかし、なぜ2年半前のライブを今になって配信するのでしょうか?
じつは、Fishmansのドキュメンタリー『映画:フィッシュマンズ』が今年7月に公開され、彼らに対する注目度が上がってるという背景があるのです。
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Fishmansとはなに者なのか? まず、簡単にご紹介します。
Fishmansは1991年にメジャーデビューした5人組(当時)のバンドです。今年でデビュー30周年を迎えました。彼らの奏でる音楽は、デビュー当時の寸評によると「忌野清志郎の影響を受けたボーカルスタイルの軽いレゲエ」です。同期デビューのスピッツなどと比較され、レコード会社からは売れセンの曲を期待されていたようですが、彼らはダブやヒップホップ・エレクトロニカなど当時の最先端のジャンルに影響を受け、その音楽スタイルを常に変貌させていきました。
しかし、一部のマニアの間では人ぞ知る存在になっていましたが、彼らの作る作品は売れませんでした。メンバーも徐々に脱退し、ついには2人になってしまいます。そして、ほとんどの作品の作詞作曲を担当していたボーカル佐藤伸治が1999年に亡くなると、活動休止状態になってしまいました。
ひとり残されてしまったメンバー、Fishmansのリーダー茂木欣一は東京スカパラダイスオーケストラに移籍しましたが、「このバンドを存続させ、佐藤伸治が残した楽曲を鳴らし続けたい」という一心で2005年にFishmansの活動を再開させ、不定期ながらもオリジナルメンバーを中心としたメンバー構成と多方面からのゲストボーカルを招聘して、今に至るまでライブ活動を続けています。
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続きまして、配信されたライブについてレポートを進めていきます。
対バンライブのトップバッターを務めるのはceroです。
彼らは2004年にデビューした3人組のバンドです。ジャンルにとらわれない多彩な楽曲を奏で、浮遊感を感じさせるアレンジと都会的な世界観が特徴になります。
オンライン配信にはチャット欄が設けられており、「はじめて聴いたけど、いいですね」といった好意的なコメントで埋め尽くされていました。お目当てのFishmansの登場を待ちつつ、和やかにチャットは進行していきます。
オンラインでもチャット欄があることによって同時性や一体感が生じ、これによってライブ感が担保されているように感じます。
じつは私、2019年のこのライブ会場にいたのですが、ZEPP TOKYO 現地も似たような雰囲気でした。cero目当てのお客さんはあまり見受けられず、同時に感じたことはとにかく客層が若いということ。20~30代が過半数を占めていました。佐藤伸治亡き後にFishmansを知りライブに足を運ぶ層の方が、すでに多数派になっている現実を実感しました。
閑話休題、ライブ後半はいよいよFishmansの登場です!
まず前座として、オリジナルメンバーながらも既にミュージシャン稼業から足を洗っている小嶋謙介が登場し、彼が作詞作曲した『あの娘が眠ってる』を佐藤伸治を除くオリジナルメンバー全員で演奏しました。佐藤伸治が存命の時は袂を分かっても、後に再結集できるというのは喜ばしいことです。
そして、fishmansのライブ本番が始まりました。
1曲目のインスト曲でメンバー紹介を行います。オリジナルメンバーとサポートメンバーの紹介の後、茂木欣一から「ボーカル:佐藤」とコールがありました。それを聞いて、なんとなく「今日のライブは特別なものなのかもしれない」と感じました。
次に、彼らの代表曲『ナイトクルージング』が演奏されます。チャット欄は「待ってました」とばかりに大盛況です。どこの誰かわからない人たちで盛り上がります。共通点はFishmansを好きだということ一点のみ。
そのままライブは進んでいきます。どうやらセットリストは佐藤伸治存命時最後のライブであった、1998年12月の『男達の別れ』をダイジェストで踏襲しているようです。ゲストボーカルをほとんど入れず、いつもより一層緊張感のある演奏が繰り広げられます。それこそ1998年にのライブに近い雰囲気を感じました。
そしてライブも佳境に入った9曲目、1998年に発表されたFishmansのラストシングル『ゆらめきin the air』が演奏されました。佐藤伸治が亡くなってから一度も演奏されなかった楽曲です。当時現地で聴いていた、30年来のファンだがライブに参加するのが初めてだった私も、「まじか。ここで封印を解くのか!」と驚いた記憶があります。
そしてさらに驚くことに、この演奏でボーカルをつとめたのは佐藤伸治本人だったのです。
Fishmansの30年のキャリアの多くで歩みをともにしているエンジニアのZAKが、1998年のライブから佐藤伸治のボーカルのみを抜き出して、目の前で実際に行われている演奏にぶつけていたのだとは、ライブが終わってしばらくしてから知りました。
チャットはここで一気に盛り上がりを見せます。なぜなら、このライブで演奏されたこの曲が『映画:フィッシュマンズ』のラストを飾っているからです。1998年のライブの現地にいた人、2019年のこのライブの現地にいた人。今はじめてこの曲を聴く人。デビュー当時からのファン、佐藤伸治が亡くなってからのファン、映画をきっかけにしてFishmansに興味を持った人。
同じ時刻にWEBを通して世界各地でこのライブを鑑賞している多くの声がコメント欄に流れていきます。
時間も空間もごっちゃになった参加者たちが語る「私のFishmans」。現地でライブをリアルタイムで体感するのとは別質の臨場感と一体感が生じました。
そして、ライブはceloを交えてのセッション2曲を演奏して、開始から2時間半ほどで終了しました。参加者の多くはこのライブの余韻を少しでも多く楽しもうとして、チャット欄はライブ終了後しばらくたっても賑わいを見せていました。
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最後に余談ですが、私が2019年のライブ帰りに体験したことを。
ライブが終わり熱狂が冷めやらぬ中、私はコインとドリンクを引き換え一気に飲み干し、グッズを購入し、コインロッカーからリュックを取り出して会場を後にしました。
会場の前にはチラシを配っている人が数名いて、私はチラシを受け取りました。そのチラシを帰途につく電車の中で広げたところ、こんな言葉が書いてありました。
「フィッシュマンズの映画を作りたい」