まだ夢の中
・・・おはよう、ママ、パパ。
声にすることはできないけれどそうそっとつぶやいてみる。
今朝は少し薄曇り。
ママの表情も曇っている。
心配なんだ。
僕のこと。
初めての子育てでママはかなり神経質になっている。
そうしてパパはそんなママを心配しながら働いている。
二人ともとっても疲れているようで、僕心配なんだけど、どうすることもできなくて。
あぁ、眠たくなっちゃった。
とろり。
まぶたが自然に閉じて行き、僕はまた夢の中に。
強い力を持った手で引きずり込まれて行くように眠りの中に入っていく。
気づいたら僕はパパのポケットの中にいて、まわりをそうっと覗いていた。
パパの胸ポケットの中はあったかくて居心地がとってもよかった。
パパの優しい鼓動が聴こえる。
会社に向かう電車の中はもう温かい暖房が入っている。
パパは落ち着ている。
鼓動の鳴り方でそれが分かる。
ポケットの中に入ってパパと一緒にいることは実は初めてではない事を自覚して驚いている。
僕のからだはおうちのベビーベッドの中でぐっすりと眠っている。
柔らかな毛布とふとんにくるまれてくぅくぅと寝息を立てて眠ってる。
きっとママもその間に仮眠を取ってるはずなんだ。
そう、だって、とても疲れてるんだから。
パパのポケットの中でパパの鼓動を聴きながらママのことを考える。
寒くなってきた。
確実に冬に向っていく日々を少しだけおびえながらママは僕を守ろうとして懸命に過ごしている。
ママ。
無理しないでね。
僕もパパも二人とも、ママのこと心配してるんだよ。
だけど、言葉にはできなくて。
だから、今はよく眠ってからだだけでもいたわってあげて。
電車の中はとても静かで、電車が線路を走る音が聞こえるだけだった。
電車は線路を走りながらまるで生きてる人のように言葉にならない声を出し、声にならない表情をその音で知らせてくれる。
電車の動きやうねりに合わせて乗っている人たちは運ばれて行くけれど、誰も何も言わないで、腰かけて目を閉じてうつむいてたり、スマートフォンを眺めたり、吊革につかまって揺られながら自分が降りる駅に着くのを待ち続けたり。
それぞれに、各々に、一人で立っているのだった。
みんな一人。
一人なんだ。
今僕のこと心配しながらうたたねをしてるママだって、ほんとは一人。
誰といても。
でも今は僕がいて、パパだって守ってくれる。
見守っているんだよ。
温かい眼差しで。
こうしてここにいる時も、そうして帰っていく時も、二人で生きていくことを選んでしまったその時から、守り合っている。
お互いのことを。
パパの胸ポケットの中で僕はいつも思うんだ、家族って守り合い温め合う人たちの集まりなんだって。
一人はとても弱いけど、みんなが力を合わせれば温め合って生きていける。
パパもママも僕もみんな小さな存在だけど、強くはないし弱いけど、力を合わせて生きている。
お互いの存在に温めてもらいながら。
きっと大丈夫。
眠り込んでいるママも。
だからちゃんと眠ってね。