
記憶の中の美味しいご飯
炊き立ての真っ白なご飯。
それを握って塩で味をつけてぱりぱりの海苔を巻いてぱくりと食べる。
その横に並んでいるのは新鮮な生わかめと葱と豆腐の熱々のお味噌汁。
新鮮な生のわかめの磯の香りと噛み応え。
そして葱。
甘みと香りと目にしみる緑色。
真っ白なお豆腐のつるりとした喉越し。
全部母の苦肉の策のありあわせのご飯だったような気がします。
だけどその頃の私には思い切り美味しく感じられて記憶から消えてくれません。
私が子どもだった頃仕事がとても忙しくてほとんど一緒にいたことのなかった母がたまぁに家にいた時に作ってくれたお昼ご飯はどれもみんな特別な感じがして、ごちそうに思えてしまうのです。
でもある時、同じものを作って家族に出した時誰も喜ぶ人がいなくて愕然としました。
カレーや餃子や唐揚げみたいにはっきりとした味ではないし、豪華と言えるものではないので仕方がないとも思うのですがショックでした。
記憶の中のこのメニューは私の中では一番だったからです。
ほんとにその時の美味しさを今でもはっきりと思い出すことができるんです。
その食感も味も空気も思い出すことができるんです。
お肉も魚もチーズも果物も、大人になるまでいろんなものを食べさせてもらって成長してきましたし、大人になってからもいろんな場面で美味しいものを食べてきました。
だけどあの炊き立てのご飯と熱々のお味噌汁のことは自分の印象の中にとても強く残っていて消えてくれないのです。
その理由がなぜなのか実はよくわかりません。
炊き立てのホカホカのつやつやのご飯をおにぎりにして、それが熱々のうちにあぶったばかりのパリパリの海苔をくるりと巻いてすぐにぱくりと食べたりしたら美味しいに決まってます。
その横に新鮮な分厚いわかめが入っただしのよく利いた熱々のお味噌汁が添えられていたりしたらたまらなく嬉しいような気もします。
地味な組み合わせなんですが、とっても美味しく感じたんです。
美味しいものは沢山あります。
スーパーマーケットに行って見渡してみると食べたいものが満載でくらくらとしそうです。
それでも子どもの頃、炊き立てのご飯で母が握ってくれた熱々のおにぎりの美味しい記憶は私の記憶につよく残っていて消えません。
(だから今でもお米のご飯が大好きなのかもしれません)
お刺身も餃子もカレーも焼きたての干物も煮物もふっくらとした玉子焼きもすべて、熱々の白いご飯がないと美味しさが目一杯に発揮されてはくれないような気がします。
白いご飯は美味しいおかずを楽しむためになによりも必要なもののような気がします。
私が子どもだった頃、母は一時期ご飯を美味しく炊くために専用のお鍋を使ってガスレンジでご飯を炊いてた時期がありました。
三合くらいのご飯が炊ける小さめの分厚い金属製のお鍋を使って丁寧に家族の食べるご飯を炊いてくれていました。
お鍋の底にうっすらと茶色のおこげができていたり、薄くて白いパリパリの膜のようなものが鍋と蓋の間のところにほんわりと浮かんだりしていて、そのパリパリの白い膜ができてる時のご飯は特別美味しく炊けていたような木がします。
そうしてお鍋で炊いた熱々のご飯を母が手を真っ赤にして握ってくれたおにぎりは私にとって特別なものでした。
小さな頃に母と一緒に出掛けた記憶はほとんどありません。
一緒にいた時間もほとんど思い出せません。
母との思い出と言えるのは母の仕事が休みの時に作ってくれた食事ぐらいです。
限られた時間の中で母は毎回いろんなおかずを作ってくれていました。
茶碗蒸し、ロールキャベツ、イワシのフライ、コロッケ、母の定番の美味しいおかずは他にもいろいろありましたが、記憶の中の一番はこの熱々のおにぎりとお味噌汁なんです。
ガスコンロの上でぐつぐつ音をたてながらお鍋の蓋の横のところに白い泡がジュクジュク立ってお米がご飯に変わっていくのを見てた時、香ばしくて甘い美味しいご飯の香りが立って、いつもはいない母がいて。
しあわせな空気がそこに漂っていて明るくて。
子供の頃の私にとってこんなに嬉しいことってなかった。
それだから忘れることができないのかもしれません。
それとね、母がお鍋でご飯を炊いてることをなんの気なしに学校で話したら、ちょっと困っ性格の口の悪い先生に炊飯ジャーが買えなくてありあわせのお鍋でご飯を炊いていのだと勘違いをされてしまっていろいろと困ったことが起きてしまったことを今なんとなく思い出しました。
炊飯ジャーはあったのですが、自分の好きな炊き加減の美味しいご飯が食べたくて母が専用のお鍋を買って使っていたのだということを幼い私は知らなかったし、それを上手に周りの人に伝える術も知らなくて困った大人の人の考えに戸惑うことばかりでした。
そんな複雑な想い出も含みながら、ささやかな母の美味しいご飯へのこだわりは静かにそっと続いて、お鍋でご飯を炊くことは仕事のない日の夕飯の支度の時には定番でした。
お鍋の底にうっすらとちょうどいいおこげができるそのご飯はつやつやで透明感も少しあり、甘みがあって粘りもあってそれでも粒が際立っていてとても美味しいものでした。
できるなら、また食べてみたいです。
思い出の中のものだから美化されているのかな?
そこまではわからないのですが。
美味しかったなぁ。
本当に。
読んで下さってありがとうございました。
タダノヒトミさんのこちらの企画に参加させていただきました。
こんな記事もあります(*^-^*)
タダノさんの今までの記事もぜひご覧ください。
美味しいものって最強だなと強く感じるこの頃です。
ものすごく元気をくれて、からだも心も満たしてくれます。
沢山の人の『美味しいもの』がを読むことができて嬉しいです。
ヒトミさん、ありがとうございます。
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