真っ白な朝
目が覚めると、外は真っ白な雪に覆われていてまぶしかった。
こんなに沢山降るなんて。
一晩で景色はすっかり変わってしまってなんだか不思議な夢の中にいるような気分になった。
・・・トジコメラレテシマッタノ?
帰ってこない人のことを、そっと静かに考えてみる。
・・・イッタイドコニイルンダロウ?
ぼんやりとくぐもった意識の向こうでその人は戸惑っているように思えるのだけれど、本当のことなんてわかるわけもなくて呆然とする。
当たり前のように信じていた世界は一晩で辺り全部を覆いつくしてしまったこの雪にかき消されてしまった。
白い世界、
白という色の持つ潔癖と残酷が私の世界を塗り変えてしまった。
清浄でキリリとした冷たい空気が現実を祖図化に私に突き付けてくる。
誤魔化すことなんてできない。
私はそっと足元を見た。
薄いベージュ色のボアのスリッパ。
サイズ違いでおそろいのもの。
もう一人の持ち主は帰ってこない。
ひたひたと静かに透明な冷たい水が足元から私を浸してゆくように、現実が押し寄せてきて私を離してはくれない。
受け入れるしかないものを否定することばたちが頭の中から湧き出してくる。混乱が沸き上がる。
嘘だと言って欲しいけど、問いただすことさえきっと私にはできないだろう。
冷えた空気は私の体を冷やして凍えさせて動けなくさせてゆく。
私は不意に思い立ち、湯船に熱目のお湯を溜め、バスボムを入れた。
バラの香りのバスボムは部屋の空気を静かに変えて私をゆるゆるとした気分にさせてくれる。
銀色の小さなjケトルに水を入れ、ガスの火にかける。
短い時間でしゅんしゅんと音を立て、湧いてゆくお湯。
何種類かのティーバックの中からダージリンを選らんだ。
バラの香りと混じりあい、部屋の中の空気を全く違うものに変えて、私をそっと救ってくれた。
まず、からだを温めてあげよう。
そうして緩めてあげよう。
朝の時間を柔らかに少し優雅に変えてあげよう。
外は白。
空気は冷えて街を凍らせ固めている。
柔らかな香りとあたたかなお湯で凍えた自分を溶かしてあげる。
柔らかで温まったからだで考えることは、きっと柔らかで温かいはずだから。