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口笛
口笛を吹くと、飛んできてたんだよな。
嬉しそうに尻尾を振って。
*
ずっと一緒にいたからあいつがいないとどうしたらいいのかわからない。
あいつの気配がないだけで俺はもうやってけないような気持になってしまうんだ。
どうして終わってしまったんだろう。
あんなに元気だったのに。
*
最初にうちに来たときはあいつはまだミルクを飲んでた。
母さんが哺乳瓶に入れて飲ませてた。
やわらかいからだ。
ちいさなからだ。
だからあんなふうに飛んだり走ったりできるようになるなんて思いもしなかった。
ボールを投げてやると、すごい勢いで走っていくんだ。
ほんとうに嬉しそうに。
あいつが嬉しそうだと俺もなんか嬉しいような気持になっちゃって、なんか楽しかったんだよな。
本当にまっすぐに、嬉しい時には嬉しい、悲しい時には悲しい、怒った時には…ものすごく怖かった。
「まっすぐ」って言葉は、あいつにためにあるのかなって、時々思った。
いつもそう。
いつだってあいつは、自分の行きたいところにまっすぐに走っていくんだ。
いつだって。
*
だからあいつが行ってしまった場所が悪い場所じゃないことは確かなんだ。
だって思い切りまっすぐに走っていってしまったんだから。
でも、もう帰ってこれないんだぜ。
もう一緒に出掛けることも、遊ぶことも、眠ることもできなくなってしまったんだ。
あの背中にもおなかにも触ることはできない。
嫌がるのをなだめすかして風呂に入れることもできない。
さみしいよ。
*
でも心配すんなよ。
俺は元気だから。
お前もそっちで元気にやれよ。
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