『ショートショート』塩鮭の皮。「#2000字のドラマ」「#あざとごはん」参加作品。
いつもと変わらない週末の朝。
いつもと変わらない日の出の時間。
セミダブルのベットは2人では狭くて1人では少し広い。
「そろそろダブルにベット変えない?」
その時言われた時感じた、少しの摩擦と少しすれ違い。
気づいていたら少しだけ改善できたかな?
終わった事を考えても仕方がないと思いながらベットから出る。
昨日は少し泣きすぎた。
洗面所の鏡を見ながらそう感じる。
コップに挿してあるブルーの歯ブラシとピンクの歯ブラシ。そっぽ向く様に北と南。
捨てようかと思いブルーの歯ブラシを取るが、また戻す。淡い期待はしてはいけないのに。
ピンクの歯ブラシをとって歯を磨く。
味のしないミント。
スッキリとしない心。
顔を洗って化粧水で顔をマッサージする。
腫れた目を中心的に。
洗濯機を回しながら先週の今頃は何してたっけ?
確か今頃は朝ご飯の準備か…
なんて考えながらキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開けると塩鮭の2匹入りパックが1つ。
今日の朝ごはん用に買ったんだ。
パックから1匹取り、コンロ下のグリルに乗せる。
2匹乗せるには少し狭いグリル。
「先週の今頃はどうやってのせれば…とか考えてたっけ?」
ベットと同じか・・・っと重ねて塩鮭を1匹真ん中に置くと火をつける。
換気扇の音を鳴らせ、レンジにパック入りのご飯を入れインスタント味噌汁の封を切りお椀に入れる。
ケトルに水を入れてお湯を沸かしている間に、テーブル周りを少し片付ける。
昨日の夜投げだ写真立てがテレビの前にバラバラとなって散乱している。
写真と写真立てを冷静に片付け棚の引き出しを開け奥にしまう。
テレビの横にはギターが置いていたが、今はただの空間。
部屋を見渡すと、あそこにはプラモデル。ここにはゲーム機。当たり前だった場所にできた、いろんな空間。
5、6分経った。
部屋に少し漂う魚の焼ける匂い。
キッチンに向かいグリルを開けると、沸々と音を立てて塩鮭が焼けている。
ひっくり返しグリルを閉めると、冷蔵庫から漬物を取り出し菜箸で小皿によそう。
電子レンジからパック入りのご飯をとりお茶碗に入れる。
四角い形のまま出てくる冷凍ご飯にちょっぴり切なさを感じほぐす。
テーブルにご飯とお湯を注いだインスタント味噌汁、漬物を運びテーブルで向かいあった2脚のうちの自分の席の前に自然と置く。
グリルからカリカリになったシャケの皮とふわふわに焼きあがった塩鮭をお皿に入れテーブルへ運び「頂きますと」1人で手を合わせる。
「塩鮭はいつも細い方から食べる。だって脂が乗ってるから」
食べ方に拘りがある彼の癖はそのまま移っており、いつの間にか細い方から食べるようになっていた。
口に広がる脂の甘さ。それをおかずに一口ご飯を食べて味噌汁でリセット。
そのまま右に鮭を食べ進る。
つるんっと取れやすい骨をお皿の端に寄せながらただ黙々と食べる。
「魚食べる時って何で人間無言になるんだろうな」
向かいあった空席からいつも聞こえる彼の声。
黙々と1人で食べ終える作業を終えるとお皿には塩鮭の皮だけが残っている。
「え?鮭の皮食べるの?」
「食べるよ。栄養価高いし塩っ気があっておかずになるよ」
「いや。ちょっと黒くてギラギラしてるから抵抗あるわ」
同棲して初めての朝ごはん。
今日と同じ、塩鮭と漬物、手作りの味噌汁に炊きたてほかほかご飯。
真新しいテーブルに緊張した朝の会話。
それから彼はいつも塩鮭が出ると最後は皮をおかずに嬉しそうに食べ、私はずっと残していた。
そんな事をふと思い出して、お皿に残っているカリカリに焼かれた塩鮭の皮を箸で取り一口食べてみる。
「塩っぱい。でも美味しい」
昨日何の前触れもなく、別れようって言った彼の事を思い出しながら1人週末の朝に肩を震わせた。