読売新聞 けいざい人 書起こし
地場食材で感動与える店
横須賀市と横浜市で、三浦 半島の新鮮な野菜や魚介類を 味わえる飲食店を展開する 「たのし屋本舗」。下沢敏也 社長(58)は社是に「人が大好 き」を掲げ、従業員には店内 外で「人にやさしく、 人と楽 しく、人に感動を与える人で あってほしい」と求めている。
―ユニークな社名の由来 は。
「お客さんに楽しんでいた だきたい」という率直な気持 ちです。私自身が楽しく飲む ことが好きで、行きつけの店 に就職してそこで学んだノウ ハウが創業につながりまし た。横須賀市追浜町で自宅 階を改装した居酒屋は、社名 にちなんで「うれしたのし屋」 と名付けました。
開業当初は都会に目が向い ていて、見栄えのよい創作料 理を売りにしていました。
食材は市場で仕入れていましたが、半年ほどは閑古鳥が鳴くありさま。仕入れの金も工面できない日々が続きました。
ー地場さん食材を使うきっかけは。
自分の足元を見つめ直そうと、時間がゆる種かぎり漁港や畑を歩いて回りました。 色鮮やかな野菜や見たことのない魚に魅了され、何度も訪れて顔を覚えてもらい、徐々に仕入れさせてもらえるようになりました。
すると、生産者の技も見えてきます。三浦市の「松輪サバ」は、漁師が一本釣りしたサバを痛めないよう、空中で道具を使って手を触れずに針を外し、すぐに水槽に入れます。鮮度を保つために技を駆使した魚は、切って出すだけで他の魚と食感が違うと分かってもらえます。松輪サバのストーリーを伝えると、お客さんも喜んでくれます。
ー飲食店経営以外の展開も。
創業から10年間は「うれしたのし屋」1店舗だけでしたが、2008年に横浜駅東口に「横浜漁酒場まるう商店」を出店しました。50m2の狭さでしたが、当時は坪単価売上日本一と言われるくらい、お客さんが殺到しました。現在は7店舗を経営していますが、増えるにつれて食材ロスが気になってきました。
ロスを減らすため、横須賀市役所地下のスペースを借りて加工場「Co-labコラボ」を設け、トマトピューレやレトルトの「海軍カレー」などを作っています。カレーは同じ場所で開いた店で食べることもできます。
地域の食材やこれまで支えてくれた地元の人に恩返しができレバと、18年に横須賀市で始まった「産農人育成プロジェクト」にも携わっています。高校生の就職や就農を支援する事業には夢があり、「会社の原点の人につながっている」と、やりがいを感じています。
下澤敏也 横須賀陽出身。大学卒業後、いくつかのサービス業や横浜市での居酒屋アルバイトを経験し、30歳で独立。横須賀商工会議所や大手食品メーカー、地元農業法人などと協力し、地元高校生が対象の人材育成事業にも力を注いでいる。
たのし屋本舗 横須賀市追浜町で1997年に創業。地場産品を使った飲食店の経営から農産物の加工、クラフトビールの製造や人材育成まで様々な事業を展開する。資本金300万円で、従業員数は18人、アルバイト70人。