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レースで世界チャンピオンを獲得。探究型の2人が話す、世界一になるための工夫

世界で活躍するスポーツ選手は、どのような経験や工夫をしているのでしょうか?

今回は、オンラインレースゲーム“グランツーリスモ SPORT” の昨年度6回の大会すべてで優勝を果たし、堂々の世界チャンピオンとなった宮園拓真さんと、元バイクレースの世界チャンピオンである片山敬済さんにお話を聞きました。

世界チャンピオンであるお2人にとって、レースの世界で「探究」はどう活きているのか。聞き手は「Q」責任編集・炭谷俊樹です。

宮園 拓真 (みやぞの たくま)
2000年兵庫県尼崎市生まれ。4歳の時からリアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモ」で遊び始める。大学生活やアルバイトと並行しながら、「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ2020 ワールドファイナル」で3冠を達成。

片山 敬済(かたやま たかずみ)
1951年兵庫県生まれ。1974年に二輪世界GPにプライベートで初挑戦し、1977年に日本人としてはじめて、350ccで念願の日本人初の世界チャンプ獲得。1985年に引退するまでWGPで活躍。その後も日本のバイク界に多大な影響を与える。世界GPの生活から得た欧州における「バイク文化」を、今度は日本にも根付かせるため、さまざまな活動を展開中。

幼少期から「周りの人と違うことがしたい」という気持ちがあった

── レースの世界でかつてと現代の世界チャンピオンであるお2人が対談したら面白いのではないかと、企画させてもらいました。実現して、大変嬉しく思っています。宮園さんは、どのようなきっかけがあってオンラインレースに興味を持ったのでしょうか?

宮園:子どものときから父親の影響でモータースポーツには魅力を感じていて、時間があるときにはDVDでF1レースを見たり、色々なレースゲームをやって過ごしていました。

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片山:小さい頃にお父さんの影響を受けたんですね。見ていてかっこいいと感じたり、理想像があったのかもしれないですね。

宮園:自分の周りの選手や知り合いも、親の影響を受けてモータースポーツを好きになっている人が多いです。レースゲームは、自分の努力がタイムにはっきり出るところが好きですね。僕自身は、競争が好きなんだと思います。

片山:宮園さんは、世界大会を含めて6回も優勝していますよね。ずっと勝ち続けているっていうのは本当にすごいと思います。

── 子どもの頃は、自分なりの工夫をしたいとか、そういう気持ちは持っていましたか?

宮園:周りの人と違うことがしたいというのは、常に思っていましたね。それが毎回全て上手くいくわけではないのですが(笑)

勉強するときは、あまり人に言われた方法ではやってこなかったかもしれないです。「誰かに教えられたことをそのままはやりたくない」という気持ちがあります。

── 僕はそれを「探究型」と言っていて、人から言われたことをきちんとやるだけではなくて、何か自分で違うやり方でチャレンジしてみる。そういう人は、新しいところで伸び続ける人だと思います。

片山:僕は小学生の頃、乗り物を使って速く下り坂の先にあるカーブを曲がる方法を何度も実験して試していましたね。いかにブレーキをかけずに曲がるかっていうのを、一生懸命考えながら大回りして工夫しました。

そういう創意工夫や負けん気、探究心が入り混じったものが、宮園くんにもあるんじゃないかな?

宮園:あまり意識したことがなかったですね。小学校の時の思い出がほぼなくなってしまって、中学生くらいからしかないんですよね。

片山:それも僕と似ているなと思います。すごく自分に興味があって、自分が今何をしているのかに関心が向いている。だから、周りに人がいるのはわかっているけど、誰と何をしたのかにはあまり意識を向けていないんだと思います。

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事前にいくつもの戦略を立て、本番で瞬時に決定する

── 現在は、どのようなことをされているか教えていただけますか?

宮園:僕は3年前から「グランツーリスモ」というオンラインレースの世界選手権に参戦していて、昨年ようやく優勝することができました。嬉しかったですし、今年以降もまた続けていこうと思っています。

── メジャーな大会で6回も優勝されたそうですね。

宮園:はい。本当に上手くいきましたね。

片山:オンラインレースという新しい市場で、日本から若手がチャンピオンになってくれたことは喜ばしいですね。本当におめでとうございます。

── 昨年は、特に勝ち続けていたのが印象的でした。これまでと比べて、気持ちや環境、練習内容など、何か変化があったのでしょうか?

宮園:普段の練習内容はそこまで大きな変化はなくて、ずっと継続してきた練習が結果に結びついたのではないかと思っています。

── レースの経験を積んでいく中で、「やってみたけど上手くいかなかったから、今度はこういう戦略でいこう」とか「この選手にはこういう働きかけをしよう」とか、そのようなことを常に考えているんでしょうか?

宮園:そうですね。レース中は相手の戦略を予想し、自分がどう動くかを考えています。

片山:戦略を考えるのは、普通はチーム監督がやることだと思うけれど、全部ドライバーがやるの?

宮園:はい。1人で戦略を考えなければいけないのは難しいところでもあり、面白いところでもありますね。

片山:僕が初めて世界選手権に出たときと非常に似ていますね。当時は監督がいなくて、バイクの整備も自分でやっていました。そういう背景がありながら、お互い初めて東洋からの世界チャンピオンになっています。日本の選手は、総合的にコーディネートする力が強い証かもしれませんね。

宮園:そうですね。速さが全てではないので、そういう部分があるのかもしれないです。

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── どのような戦略を立てるかというのは、大きなポイントだと思います。僕はプロではないのでわからないのですが、あえて他の選手がやらないようなハイリスクな戦略を立てて、たくさんの選手を抜いていったこともありましたね。戦略を決める際に、どうやって自分を納得させているのでしょうか?

宮園:レース前にどれくらいタイヤや燃料が減るかの設定が送られてくるので、それを元にして練習のときに実際のデータを取ります。その上で、どのようなレース戦略が良いかを考えます。大会当日は、予選の順位や周りの選手を見て、事前に何個か用意した戦略のうちのどれかを選びます。

片山:本番中に予想外のことが起こることもあるので、その瞬間に変えるということもありますよね?

宮園:そうですね。状況によって、変えることもあります。

── 事前のデータ分析は重要ですよね。レース仲間と相談したり、議論することはあるんでしょうか?

宮園:本番では相談できませんが、練習中や仲間と過ごすときには相談したり、ああでもないこうでもないと言い合ったりはします。

── 戦略は事前に考えて、後はそれをやり遂げる精神力や集中力が必要ですよね。

宮園:事前に立てた戦略を本番で実行できるかどうか、というところに尽きるかなと思います。

── 宮園さんの場合は、事前に戦略を立ててシュミレーションする力も、実際にやり遂げる実行力も、どちらも強いと思うんですよね。

片山:宮園くんは、かなり分岐した思考を持っているんでしょうね。戦略を立てるときに可能性をいくつも考えて、その中で選んでいる。

──「このレーサーだったら、このコースのここで抜こう」とか、イメージが沸いているんでしょうか?

宮園:何回かその選手と対戦した経験があるとイメージが沸くこともありますが、そこはなかなか難しいですね。思い切ってやるしかないです。

集団で走るときは周りに選手がいるのでお互いの駆け引きがありますが、事前にどう動くかは決めておくようにはしています。あとは、上手い選手はたくさんいるので、ハンドルの切り方とかは研究して近づけるようにしていますね。

片山:でも、宮園くんはもうそういった選手を越えているよね(笑)

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宮園:全体的に見ると、自分は良いレベルになるのかもしれないですが、速さやタイヤの保たし方など色々な要素があって、その要素一つ一つでずば抜けた選手がいるので、そういう人に近づけるように努力していきたいです。

レースでは平常心を崩さず、常に1位を狙う

片山:宮園くんは、レース中に他の選手と比べてほとんど表情を崩さないなと思います。そこは何か意識しているんでしょうか?

宮園:平常心を乱してしまうと絶対に勝てないので、何が起こっても動じないようにすごく意識していますね。もちろん、起こり得ることはすべて予測した状態でレースに臨みます。

── 嬉しいことがあったときには、レース中でも笑顔を見せることがありますよね。

宮園:はい。感情が良い方に動くのはマイナスにはならないと思っています。逆に少しでもイラッとしてしまうとレースに悪い影響が出てしまうので、そういう風にはならないようにしています。

冷静さを失ってペースが乱れていく選手をこれまでに何人も見てきましたし、僕自身も過去に同じことを何度か経験しました。それをすごく反省していて、本番では同じミスを犯さないようにしています。

片山:感情が乱れると、操作も荒くなるんだよね。そこはリアルでもオンラインでも一緒ですね。

── オンラインレースで使うマシーンの仕様に差はないですよね?本当に人間のメンタルがそのまま影響するわけですね。片山さんも、試合の前に座禅をしたりしていたそうですね。

宮園:全て同じですね。なので、ドライバーの差が明白に出ます。

片山:僕はオンラインではなくリアルのフィールドなので、バイクの仕様も違います。それなのにレースのタイムは、選手同士で1000分の1秒くらいしか変わりません。不思議だと思いませんか?

タイムというのは、何らかの壁があって、その壁を誰かが越えると全員がそれを越える。そういう世界がオンラインレースにもあるんじゃないかな。

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宮園:そういう経験は確かにありますね。

片山:僕たちが生きているこの空間と同じものがバーチャルの中にも存在していて、選手たちはその世界で壁を突破しようとしているんだと思います。宮園くんは、これからも壁を突破する役割を担っていくと思います。単に速いだけではなく、他の選手が壁だと思っているものを破る力を持っている。

宮園:ずっと先頭ではいたいですね。もっともっと速くなりたいし、上手くなりたい。

── レースでは、1番になることしか考えてないんじゃないですか?2番になることは考えてない。

宮園:それは絶対に考えないですね(笑)

オンラインレースの魅力を発信していきたい

── 今後のことをお聞きしたいのですが、今大学生なので、進路についてはどのように考えていますか?

宮園:この3年間で僕に注目してくれた人はいましたが、自動車やモータースポーツに興味がない人も多くいました。なので、僕自身が好きなことの魅力をもっと多くの人に知ってほしいなと思っています。

大学卒業後は、就職して企業の為に尽力しつつも、できる範囲の中で今の活動を続けていきたいと思っています。

片山:意識的にも体力的にも、宮園くんは隠し持ったエンジンのようなものを持っていると思います。それがあるから、モチベーションが下がっている状態があっても、自分を目覚めさせてくれる。それを持っているのはラッキーだよね。

── その感覚は、ご自身でわかりますか?

宮園:モチベーションという点では、今シーズンはないわけではないけど、ちょっと足りないと思っています。

片山:恐らく宮園くんは、もう一人の自分を感じていると思います。いつも自分をロケットみたいに大きく成長させたいと思っている。その声をもっと聞くようにすると、さらに自分を伸ばしていけると思います。

僕は10レース勝ち続けたときがありましたが、その後、絶対に勝てないときが来るわけです。そのときに、もう一人の自分の声を聞くようにしていました。先輩として何かアドバイスができるとしたら、その習慣を持っていることが大切だと思います。

宮園:どのような習慣を持っていたんでしょうか?

片山:自分と対話する時間は大事にしていましたね。人と話しているときは楽しいけれど、一方で、自分が厳しい道を選んでいるんだという覚悟をもう一度しないといけない時期がくると思います。

僕の場合は歌を歌ったり、ギターを弾いたりもしますが、自分のストレスを上手にフリーにしてあげる時間をつくることが大切だと思います。これは怠惰ではなくて、自分が成長するためにすることです。

── レースを続けることに関して、両親は賛成していますか?

宮園:父親は協力的です。母親は反対することもありますが、応援はしてくれているので、自分の周りにはあまり壁がないと思います。

片山:この20年間育ててくれただけでもありがたいことですよね。でも、宮園くんは両親を越えた部分を絶対に持っていて、その力がある自信を持って良いと思います。

宮園:正直、自分が世界チャンピオンになるとは思っていませんでした。3年前までは普通に暮らしていたので。

片山さんは今、YouTubeを通してバイクのことを広められていますよね。僕の立場でも、オンラインレースの魅力を広めていきたいと思っているんですが、どういう取り組みをしていったら良いでしょうか?

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片山:宮園くん自身が、既にメディアなんですよ。自分では当たり前かもしれないけど、他の人からしたら、一言一言がメッセージ性を持った言葉なんです。まずはそれを自覚すると良いと思います。

メッセージ性を持ったメディアは発信しないといけない。正しいか正しくないかは関係ないですよ。自分が思ったことや感じたことを言葉にしてみてください。自分の本業が疎かにならないように。

40年前と今では、今の方がチャンピオンになるのが難しいですよ。今この時代に宮園くんが世界チャンピオンになったというのはすごいことです。ずっと応援しています。

宮園:ありがとうございます。そうですね。何をやるにしてもこれから継続していきたいと思っていますし、継続するために周囲からの理解は得られるようにしたいと思っています。

── 片山さん、宮園さん、ありがとうございました!



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