にのみやさをり写真集『SAWORI』
私が彼女を知ったのは、彼女の書くブログを偶然見つけたことからだった。
文章を読んだ第一印象は、なんて緻密な美麗な描写をする人なんだろう、ということだった。旋律的で、どこか薄氷を踏むようなあやうさの中に漂う音。その音は、当時悉く傷ついていた私の心を限りなく慰撫した。
たとえば、彼女は花々を愛している。
そしてその花の様子をこと濃やかに描写するのだけれど、「別にそこまで描かなくても」というくらい、花がどう揺れてどう色づきどう語りかけるかを執拗かと思えるくらいほぼ毎日書く。その筆致は美しい。
文章を書く者として「私にできない」と思わせる作家に出会うことは、嬉しい。嬉しいけれど、苦しい。私にできないことを軽々と書いている彼女の言の葉に嫉妬しながら、しかし私はいつのまにか、彼女のブログを読まずにいられなくなっていった。
…なんて書くのは失礼だということを、親しくなるにつれ私は知ることになる。というのは、彼女は文筆家と標榜しているわけではなく、立派な賞を得た経験のある写真家だったからだ。最初に写真を褒めるべきだったのだ。
その後、改めて彼女の写真家としての作品を見たのだが、驚いたことに、彼女の写真からは彼女の文章を読んだ時と同じような印象が刺さった。つまり、写真なのにまず、言葉が浮かぶのである。
この世に写真家はあまたおり、私はもともと写真を見ることが好きということもあり、今まで多くの写真家の作品に触れてきたつもりだが、一枚一枚の写真から言の葉がまろび出てくる作家というのは数少ない。「綺麗だな」「圧倒的だな」「色が綺麗だな」「すごい構図だな」そんなありふれた感想は、どの写真家さんの作家からも容易に出てくる。
でも彼女の写真からはむしろ、逆にそんな語彙は圧倒的に消え失せる。
『SAWORI』はタイトルどおり、彼女自身であり、彼女の私生活、彼女の葬った過去、そして生きた証が生々しく描かれる。
生、そのものを描いている。それまでの作品とは全く違うタイプの作品集だ。彼女のオット(彼女は旦那様をこう呼ぶ)との、生々しい一枚一枚からは、噎せ返るような愛を感じる。美しく彩られた愛の写真は多々あれど、こんなに剥き出しの愛を描いた写真はそうそうないだろう。
初めて私はこの写真集から自分で「言葉」を拾えなかった。
何故ならこの作品集は、言葉以上のものをもうすでにじゅうぶんに、饒舌に語っているからだ。「まろび出る」などという生易しいものではなく、この写真は彼女の生きた道筋そのもの、命そのもの。まさに、にのみやさをりの軌跡であり、奇跡だ。
生きることに立ち止まりがちな人に、是非手に取っていただけたらと思う。
https://minne.com/items/26469183
全122ページ
モノクロ
写真 にのみやさをり
言の葉 第一章&第三章 早坂類
第二章 にのみやさをり
英訳 藤澤長子 臺丸謙
発行 風影舎
企画 早坂類
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