見出し画像

受け取ること、表現すること

中高が一緒の友人たちと会った。一人は現役で僕と同じ大学に入り、もう一人は浪人して別の大学に入った。いずれにせよ、僕みたいな地方出身者にとって、東京で会える中高時代の友人というのは貴重だ。


大学が同じ方の友人(A)が、役所での手続きに手間取って30分くらい遅れてくると言ってきたので、大学が別の方の友人(B)と先に店に入って話をした。とは言っても、Bは悩みを抱えているらしく、それを聞く形になった。


Bは理系なのだが、彼の悩みは、大学での自分の学びが無意味に感じられてしまうことだそうだ。勉強についていけないわけではないが、時間をかけて理解したことも、過去に誰かが発見したことだと思うと、自分がかけた労力と時間が途端に虚しいものに感じられる、と。


彼は昔からどこまでもまっすぐで、学問に対してはバカがつくほど真面目な正確だったので、勉強で悩むのは彼らしいのだが、勉強の理解に時間がかかるとか、今後の研究が不安とかではなく、「無意味に思える」「無駄になった気がする」と口にするのが気になった。誰かの影響を受けてるのかと聞いてみると、彼が挙げたのは「マコなり社長」という自己啓発系のYouTubeだった。


もちろん彼が何を見ようが、世界にどんなコンテンツが存在していようが、それは僕の預かり知るところではないが、彼のまっすぐさが損なわれてしまったのは悲しいことだ。ちょっと上から目線な言い方だけど、彼は自分の勉強で悩むあまり、何か縋れる強い考えが必要だったのだろう。今回はそれがマコなり社長だったということだ。彼の口から「焦る」なんて言葉を聞いたのは初めてだった。


こんなことを話していると、Aが登場した。三人でご飯を食べながら色々話をしていると、就活の話題が出た。Bは浪人したので2年生だし、Aは院進を決めているので、就活に関係あるのは僕だけだ。僕の就活状況を適当に話していると、Aが突然、こんなことを言ってきた。


「お前は大手企業に行くとキラキラ新卒たちに押し潰されちゃうから、いい感じのベンチャーか中小の方がいいと思うぞ。別に地位欲も金銭欲もそこまでないだろうし」彼と就活の話なんて全くしたことないけど、ズバッと的を射たことを言ってくれるのは、やはり中学生の頃から僕を知ってくれているからだろう。


そんなAは最近何をしているのかというと、ピアノを習い始めたそうだ。とは言っても、彼は音楽を真面目にやったこともなく、人よりは絶対音感があるくらいの状態だ。数年前に元カノに連れて行ってもらったクラシックのコンサートで音楽にハマり、電子ピアノを買ったのでは飽き足らずに、お金を払って毎週レッスンに通っているそうだ。彼曰く、「久しぶりにピタッとハマった」らしい。皆さんに伝わらないかもしれないけど、彼には昔からそういうところがある。


彼は何につけても彼一流の考えを持っているのだが、それを表に出すのが苦手らしい。人に見せるとなると、急にカッコつけたくなるのだそうだ。僕は、彼に作曲を勧めてみた。僕の持論なのだが、普通の人より上手く受け取れるものは人より上手く表現できるのだ。僕で言えば、文章を受け取るのは人より上手だと自負しているし、彼だって音楽の感受性は人並み以上のはずだ。


新しい出会い、新しい環境に身を置いて新しいことを進めていくことももちろん大切だけど、前置きなく深い話ができるような昔からの友人というのは何よりも得難い存在だと思う。そんな縁を、大切にしたい。




いいなと思ったら応援しよう!